第30話 騎士の剣

 ドアから突き出てきた剣先がケインに迫る。ケインは下段から掬い上げるように黒い長剣を振るった。剣先はドアと共に斬り飛ばされる。その斬撃は剣を持つ相手の右手までを両断していた。


 絶叫が響く。


「貴様ら!盗賊の仲間か?」

 ドアの前にいた男を蹴り飛ばし、そう言いながら外に出ると15人程が店の前に散開していた。武器を構えている盗賊のように見えるがケインは数人の構えが妙に堂に入っていることを見逃さなかった。


「ララ!」


 ケインが声をかけると地面から数十本の金色に輝く鎖が男達に襲いかかる。ララが使う聖魔法『聖なる鎖』だ。並の騎士では避けられない。


 男達が次々と拘束される中、一人だけ鎖の初撃を躱した者がいた。その男にケインが斬りかかる。


 ケインの一撃を手にした長剣で受け止めた男は数合打ち合う。ケイン相手にここまで斬り結ぶとはその男が只者ではないことを示していた。


「お前は野盗などではないな?それは騎士の動きだ。どこの貴族家の者だ?」


 ケインの問いに男は答えない。男にも余裕がなかった。これほどの怪物がいるとは…。獣人の子供など放っておけば問題ないと主人に進言したが聞き入れられずこの場に立っている。主人の短慮と己の運の悪さを呪っていた。


「答えないか…。まあいい。逃す気などさらさらないからな。主人の浅慮を呪うがいい…。そして主人のことを教えてもらうとしよう」

 事情を知っているかのように話すケイン。男も目の前の相手を斃さないかぎり逃げることはできないと悟ったらしい。


 互いに剣を構える。


 先手を取ったのは騎士と思われる男だった。全速で間合いを詰め猛然と上段からケインの左の肩口を狙い長剣を振り下ろしてくる。

 迎え撃つケインは黒い長剣を中段から斬り上げる。両者の斬撃が交差する…。


 その瞬間、騎士と呼ばれた男の両腕が空を舞っていた。

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