第29話 真夜中の訪問者

 遠くの空にうっすらとオレンジ色が残っている。夕日が沈んでまもなくと言ったところだろうか。

 ケインは「狐」を辞去しミケの家に向かった。


 もしウエイランド商会が盗賊と繋がっているとして、その手先として孤児院の子供を使っているとしたら許せることではなかった。


 しかし証拠はまだ乏しい。相手は大商会だ。捕まえた男とウィニーの証言があったとしても商会が知らぬ存ぜぬを通した場合、それ以上の追求は難しいだろう。決定的な証拠が必要となる。


 レー二ディア家の関与はまだ分からない。こちらも調査が必要だろう。


 大通りを歩くケイン。『さて…どうしたものか…』と何かいい方法がないかと考えながら歩いていたところ、

「!」

 尾行の気配に気付く。『かかった!』とケインは表情を変えずに笑った。


 恐らく捕まえた男とウィニーをそのままにしておくことはできないと考えたのだろう。居場所はケインが知っているので見つけて尾行しろとでも指示が出たか…。


 これはあちら側の悪手である。ケインにとっての最悪は捕まえた男とウィニーを切り捨てられ、知らぬ存ぜぬを通され、さらに盗賊が形を潜めることだった。

 この方法で押し切れるのである。何を心配したのかケインを尾行させるあたり、相手の首謀者は短慮であることが推察できた。


 尾行の気配を引き連れたままケインはミケの家に到着する。

「お帰りにゃ。何を連れてきたのかにゃ?」

「お帰りなさいませ。本当に。どちら様でしょう?」

 気配に気づいたミケとララに孤児院と「狐」でのこと、その後に尾行がついたことを話す。それと獣人の子供を気にする。


「あの子は?」

「落ち着いているにゃ。でもまだ何も話さないにゃ」

「いずれは話をしてくれると思いますわ」

「今は外の連中を優先しようか…。尾行はこの家を特定しただろう。あとはどう出てくるか」

 ミケは答える。

「家探しか、襲撃にゃ!」

「何か相手の背後が分かるような襲撃とかをしてほしいものだ」

「流石にそこまでは愚かではないと思いますが…」


 そんな話をしながら夜が老けていく。ケイン達は念のため戦闘の準備をしていた。そして深夜になる…。


 ミケが家の前に人が集まる気配を捉えた。ドアが叩かれる。

「夜分遅くに申し訳ありません。この近くで強盗に遭い連れが負傷しました。ポーションがあれば頂けないでしょうか?」


 ケインはニヤリと笑い、黒い長剣を携えてドアの前に立つ。

「分かった!今開けるから…」

 ケインの言葉が終わるより前にドア越しから長剣の刺突が突き入れられた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る