第25話 真夜中の襲撃


 10人程だろうか、ミケの家を伺っているようだ。気配の消し方からなかなかの手練れ揃いとみるケイン。様子をみていると一人を除いて家の方に向かっていった。あの一人が監視役か…。ケインは監視役に注目する。


 家に向かった集団は二手に分かれた。表口と裏口からそれぞれ侵入するらしい。キャリーが上手く説明し盗賊たちが踏み込むことを決断したのだろう。


 盗賊の一人が扉に手を掛けようとしたその時、表口と裏口の盗賊たちに向けられて金色に輝く鎖が地面から放たれる。ララが使う伝説の光魔法『聖なる鎖』である。

 屈強な騎士であってもこの鎖一本に絡めとられたならば動けるものではない。それが夥しい数で盗賊たちに襲い掛かったのだ。無数の鎖に口まで塞がれ音もなく拘束されてしまう。


 ケインは監視役が唖然としているところに懐から取り出したナイフを投擲した。狙いはわざと外している。

「こんな夜遅くに人様の家に押し入ろうとはどこのドブネズミだ?貴様らが王都を騒がしている盗賊か?」

 そして続けざまに叫んだ。かなりの大音声である。

「盗賊だ!盗賊が出たぞ!」

 周囲の家々に明かりが灯り出す。焦った男は一目散に逃げ出した。その男を物陰からミケがケインにピースをしながら追いかける。尾行に関してはミケに叶うものなど殆どいない。ケインは距離をとってミケの後を追った。


「ここか…」

 ミケとケインは平民街の外れにある一軒家の前に立っていた。先ほど逃げた男が飛び込んだのがこの家である。高い塀で覆われ中の様子は分からない。かろうじて見える石壁は分厚いものと思われた。平民街にしては頑丈な造りがされている家だ。


「合計4人かにゃ?シェリーもいるにゃ!」

「俺も同意見だ」

 気配を伺い把握した人数は二人でぴったり一致する。

「では行くか?」

「にゃ。門のあたりに罠は無いようにゃ!」

 恐らくここを特定されることは想定していないのだろう。門を飛び越え驚くほど簡単に玄関前まで到達するケイン。中から声が聞こえてきた。音声遮断の魔法も使われていない。


「こんなことは聞いていないぞ!見たこともないもので全員捕まっちまった!」

「いまさら泣き言を言われても困りますよ。こっちはそれなりにお金を積んだんですから。今日は猫の女が一人でいるからかっ攫ってきて、店を壊すことなんぞ造作もないと言っていたではありませんか」

 どうやら雇い主のようなものがいるらしい。ケインは全員生け捕りにすることを決める。ミケとタイミングを合わせて扉をけ破り中へとなだれ込んだ。


「ひっ!」

 中にいた身なりの良い男が声を挙げる。その他には逃げてきた監視役の男と用心棒だろうか長剣を携えた男が居間にいた。シェリーの姿は見えない。どこかに潜んでいるのだろう。ケインが黒い長剣を抜いて声をかける。

「これまでだ。全員捕らえる」

 監視役だった男が真っ先に反応し家の奥へと逃げ出すがミケの投げたナイフの方が速い。信じられない速度で飛んだナイフは男の足に突き刺さった。家具を巻き込みながら男は倒れこむ。


 ミケがナイフを投げるタイミングで用心棒風の男がケインに長剣を振るってきた。なかなかの剣速だ。下段から迎え撃つケイン。振り下ろされる長剣がケインの肩口を捕らえる直前、鋭く踏み込んだケインは黒い長剣を振りぬく。その結果、用心棒風の男が振るった長剣は彼の両腕と面に天井に跳ね上がっていた。


 その早業を見て驚愕の表情を浮かべた身なりの良い男が監視役と同じく家の奥へ逃げ出そうとする。しかし振り向いて走り出そうとした瞬間に足に激痛が走る。ケインが男の脚の腱を切り捨てたのだ。行動不能で蹲る男。


 決着はあっという間であった。ケインは男たちを縛り上げて座らせる。ミケに最低限でいいから男たちへ血止めをするように頼む。さて何故こいつらはあのようなばかげた真似をしたのだろうか…。


 ララが捕らえた連中は国の騎士に引き渡されるはずだ。

「さて。話を聞こうじゃないか…」

 ケインは殺気を放ちながら声をかける。子供を使ったこと、ミケの家(先ほどの会話からはミケを狙っていたのかも)を狙ったこと…。怒りがわいてくる。男たちは戦慄した。こんなことになるとは想像もしていなかっただろう。

「大丈夫。夜は長い。話したくないことまで喋らせてやる」


 この三人からは話を聞こうと思うケインであった。

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