第16話 ファーブル領
思わぬ発見があったダンジョン探索であるがクエストは無事に達成できた。
またケインはアイテムボックスから伝言鳥を取り出し之までの経緯をまとめた手紙を覇王城に送る。これでガルムにいるララやカールとも情報が共有できるだろう。吸魔草をファーブル領の領主館に納品するためケインとミケはファーブル領の中心地ガラムに向かう。今日も晴れている。天候は味方をしてくれるらしい。
「にゃーん。にゃにゃ。にゃーん」
ミケは陽の光を浴びれてご満悦だ。尻尾がぴんと立っている。
ガラムを目指して2日目の途中、止まっていた商人の隊列に出会った。ケインが隊列を見つけたと同じタイミングで、隊列内の中からケイン達に声を掛ける者がいた。
「あんたはケイン!猫の嬢ちゃんも!天の助けだ!お願いだ!力を貸してくれ!!」
声を上げたのは負傷したハンター。王都のギルドで顔を見たことがある。確か実直な働きぶりで評価の高いC級ハンターだったはずだ。事情を聞く二人。
聞けばこのハンターはファーブル領のガラムへ行く商隊の護衛を複数のハンターで請け負ったところウインドウルフの群に襲われてしまった。なんとか撃退したもののハンター達も手酷い傷を負ってしまった。ここからファーブル領までは2日ほど必要だが手傷を負ったハンター達に護衛は難しい。どうしたものかと困っていたところにケイン達が現れたという。
「この二人は王都でも凄腕で有名なハンターだ。階級はB級だがA級をも凌ぐと言われる実力者さ」
そんな紹介をされたケイン。商隊のリーダーはそう紹介したC級ハンターとは古い付き合いらしく説明に納得し護衛の依頼を提案してきた。ケインは断られることを前提に奉仕依頼の最中でそれに伴う襲撃のリスクがあることを告げたのだが商隊のリーダーはそれでも構わないと言う。
「私は商人です。確かにあなたへの襲撃に我々が巻き込まれるリスクはあります。しかしあなたと同等かそれ以上のハンターがここを通らないリスクの方が我々にとっては大きいと判断しました。ただしそのクエストがらみの襲撃があった場合は我々も守って頂きたい」
それで問題なければということでケインは商隊と共にガルムを目指すことになった。ガルムまで今日を入れて2日。初日は何も起きなかった。2日目の午前もう少しでガルムの街が見えるというところで異変が起こった。隊列の先頭にケイン。その目前には15頭のウインドウルフ。さらにその後ろに黒ずくめの男が佇んでいる。
「何者だ?」
ケインは腰の長剣に手を掛けながら問いかける。
「命が惜しければ荷物と有り金を全て置いていくことだ」
その言葉は信じられない。どうやら
「今ここで去れば追いかけない。とっとと失せることを強く勧める」
ウインドウルフが唸り声を上げる。後方の商人たちが怯えた様に声を上げる。男がニヤリと笑う。
「この子らの恐ろしさを知らない…!」
それ以上の台詞を聞くこともなくケインは一気に間合いを詰める。黒い長剣の一振りがウインドウルフを3匹まとめてなぎ払う。残り12匹と一人…いや伏兵がいるようだ。これはミケに任せる。
「!!!」
黒ずくめの男は驚いたらしい。それでも辛うじて声に鳴らない声を出し、攻撃命令を出したようだ。ウインドウルフがケインを標的に飛び掛る。それと同時に隊列の周囲に閃光玉が炸裂する。ミケが伏兵に仕掛けたようだ。ケインは向かってきたウインドウルフを蝿でも払うかのように全てなぎ払う。中級ハンターにとっては恐ろしい相手であっても、ケインにとってウインドウルフは相手にもならない。12匹を瞬殺したケインはその勢いのまま黒ずくめ男に接近し長剣を振るう。男の右手と右足が跳ね上がった。呆然とした男が起こった出来事を把握し、絶叫を上げるまでには若干の時間を要していた。
「伏兵は全て斃したにゃ」
ミケが近寄ってくる。
ケインは黒い長剣を男に向けて問う。
「誰に頼まれた?」
真っ青な男は何事かを言おうとした時…。
「う、うぐ、うぐぐぐぐ…」
突然苦しみだし肌が黒く変色する。
「皆下がるんだ」
ケインが大声で指示を飛ばす。男の体はぼろぼろと崩れ落ち黒い灰のような粉末となり消滅した。
「助けて頂きありがとうございます」
商隊のリーダーがそう声を掛けてくる。
「最後のあれは呪いでしょうか?」
「誰かに雇われていたようだがそれ以上の情報は得られなさそうだな。おれ達を狙った者のようだ。申し訳なかった」
答えるケイン。
「あなたは契約に従い我々を守って下さった。それで問題はございません。それに先ほどの戦闘を拝見しました。あなたのような凄腕のハンターと面識を持つことができたことの方が私にとっては大きい。これは真によい契約だったと思ってますよ」
商人らしい物の見方をする男。
「ガルムの街まであと数刻です。引き続き護衛の件、よろしくお願いします」
残りの旅程は問題が発生することはなく。ケイン一行はガルムに到着した。王都のような高い建物はないし喧騒それほど感じないが済みやすいような印象を受ける街だ。近年は不作と聞いていたがまだそこまで生活に影響は出ていないかもしれない。商隊と別れる際にリーダーは当初の契約以上の金額を渡してきた。
「それは貰いすぎだ」
といったケインに商人のリーダーは
「今後とも良いお付き合いをお願いします」
といって笑い金貨を押し付けて去っていった。悪い人間ではないが程好い付き合いをすべき相手だろうと思いながらケインはミケを連れて歩き出す。
「さて、ララとカールに合流しなくては…」
「どう見つけるにゃ?」
そう問いかけるミケ。恐らくララのことだからケインがこの街に入ったことは把握できていると思うのだが…。
その時、ケインの肩に小さい鳥が乗ってきた。この鳥にケインには見覚えがある。ララが魔力を使い造った鳥の魔道具である。ケインの視線に気付くと鳥は飛び上がる。
「この鳥が教えてくれるようだ。行こう、ミケ。」
「にゃ」
とある民家に飛び込む魔道具の鳥。ケインとミケはその家の前に立つ。ドアをノックするケイン。
「ファーブル領ガルムへようこそ」
にこやかなカールが出迎える。
「にゃ。カール。久しぶりにゃ!」
「ご無沙汰してます。ミケさん」
奥にはララが紅茶を飲んで寛いでいた。
「ララも久しぶりにゃ」
「お久しぶりですわ。ミケさん。ケイン。ご無事でよかったですわ」
ララは皆と会えたのが嬉しいようだ。数ヶ月ぶりにいつものパーティが揃う。話を切り出すケイン。
「さてと、取りあえずこちらの情報からだ。伝言鳥も届いていると思うが、結論から言うとクエストは完了した。吸魔草の群生地を発見したしダンジョン探索も十分な成果を出した。しかし王都で尾行にあった後、襲撃にもあったし、この街に入る前にも襲撃があった。1回目、2回目共に襲撃は夜盗を装っていたが2回目の襲撃はテイマーがいた。夜盗とは考えられない。これらの襲撃はどちらもおれ達に吸魔草を持ってガルムに来て欲しくないという意図を感じている。それと戦闘不能にした相手が尽く呪いを掛けられたように黒い灰となって消滅してしまった。何かしらの呪いの魔術を使えるものが介在している可能性がある」
その話を継いでカールが話す。
「この辺りは領民たちの結びつきが強く新参者は目立ちます。そのためあまり深く突っ込むことができなかったのですが、こちらでも領主について調べました。領主は今年55歳。二年前に妻と死別しています。息子は長男のミハエル一人。そして現在、領主が病で臥せっているということは事実のようです。ここ最近で領主の顔を見たものはいません。しかし魔力過中毒であるかという点には疑問があります」
「疑問?」
「はい。いくつかの酒場を回りましたが、ここの領民は領主の病については聞かされていないと思われます。つまり息子のミハエルのみが領主が魔力過中毒に懸かっていると言っているのです」
ケインはミハエルが嘘をつくような若者には思えなかった。
「ミハエルはどんな理由をもって父親が魔力過中毒であるという結論に達したのだろうな。他国の王都まで来てギルドに依頼するくらいだ。余程の確信と王都に来る理由があったはずだが…」
思案顔のケイン。ケインはカールに問う。
「失踪事件については?」
「こちらについて調べた限りでは被害者に繋がりはないと言えます。しかし一つ共通点を見つけました。被害者は全員が魔術師です」
「魔術師?」
失踪が誰かに仕組まれていた場合、魔術師を攫って拘束する理由の中にあまり愉快なものはなかった。
「魔術師が失踪するということは、大半が魔導実験がらみだが…」
「単純に考えるとその通りです」
魔導実験。覇国では禁止されている人体実験である。これは魔術師の戦闘力に目をつけた今はもう存在しない国の王が強い兵士を造ろうとして始めたものとされている。複数の魔術師から特殊な方法で魔力を取り出しそれを兵士に入れることで強力な戦士を生み出そうとした。その結果、多数の強大な怪物を生み出したその国は一時的に隆盛を極めたと言われる。しかしその実験の非人道的行為に国の将来を嘆いたある賢者が自分の命と引き替えに実験施設を破壊し、国も滅びたらしい。現在はどこからか流出した技術が時折使われていると言われるが詳細は不明であった。
ケインは考える。父が魔力過中毒と主張する息子。病状が不明の領主。王都への依頼。ダンジョンの発生と吸魔草とそのクエストへの妨害。そして魔導実験。ケインは一つの最悪な結論に達する。これが真実であればミハエルには厳しい現実が待っているだろう。
「皆、話を聞いてくれ。きっとこれが最悪な結論だ。確かめに行く必要がある」
一同がケインに注目しケインは語り始めた。その残酷な
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