第14話 敵襲?

 覇国の王都からファーブル領のダンジョンまでは徒歩で5日といったところ。


 ケインとミケは国外へと続く街道を歩いている。ファーブル領に徒歩で最短で行くことを考えると途中で他の街に立ち寄るよりも野営をしながら進むほうが効率がよい。ケインは4泊の野宿を想定した。まだ王都近い街道では人通りも多い。

「にゃん、にゃん、にゃん、にゃん」

 よく晴れておりお日様の光を浴びてミケは上機嫌だ。


 監視の目はまだ感じている。しかし下手な尾行だとケインは思う。やろうと思えば捕まえることも可能だが今は無能なハンターと思わせておきたい。尾行の目的も、相手が何者なのかも分かっていない。傍から見たケインとミケは街道沿いを移動しているハンターにしか見えない。ダンジョン探索のクエストが漏れたとしてそれを尾行する必要があるのか…。ケインは釈然としなかった。今回のクエストにはまだ自分達の知らない部分があるかもしれない。

「とりあえずクエストを達成すれば何か分かるだろう」

 思わず独り言が漏れる。

「にゃ。深く考えないことにゃ。きっと痺れを切らして向うから仕掛けてくるにゃ。動くのはその時にゃ」

 独り言を聞きつけたミケが耳を動かしながら言ってくる。

「それが正しいな」

 ケインは歩みを進めるのだった。


 襲撃は街道の人通りが少なくなった3日目の夜、街道沿いの森で野営をした際に起きた。


 気付いたのは見張りのために焚き火の番をしていたケイン。集まってくる気配を感じ立ち上がる。

「ミケ!」

「にゃ」

 声をかけるとほぼ同時にミケも立ち上がる。ミケほどの斥候であればこれだけ露骨に集まってくれば気付くなという方が難しい。暗闇の中から男たちが集まってきた。5人が陣を展開している。大盾を背負った前衛1人。剣士2人に槍使い1人の中衛が計3人。後衛に1人。伏兵はいないようだ。夜盗のように思われるがはてさて…。

「貴様らは何者だ?」

 腰の長剣にゆったりと手をかけながらケインは問う。一番後ろに陣取った夜盗が口を開く。

「くっくっく。悪いが死んでもらう。女については俺達が存分に可愛がってやるから安心してあの世へ行け!」

 なんというお決まりな台詞だろうと呆れるケイン。ゆっくりと黒い長剣に手をかけようとする。あと10メルトといったところか…。


「ミケ!ここはおれが行く」

「にゃ。了解にゃ」

 ミケも伏兵がいないことに気付いたのか落ち着いて答える。黒い長剣に手がかかった瞬間、武器を構える5人の夜盗に向かってケインは飛び出した。


 疾い。一番前にいた大盾持ちを狙う。桁外れのケインの素早さに意表を突かれた大盾持ちがガードの姿勢をとった。転瞬ケインが方向を変える。大盾持ちを無視してその横にいた長剣を持った夜盗へと向かった。

 長剣を持った夜盗は向かってくるケインに慌てて剣を横に薙ごうとする。その瞬間、男の両肘に灼熱の痛みが生じた。剣を振るよりも速く前に踏み込んだケインの黒い長剣が夜盗の両腕を切り飛ばしていたのだ。

 絶叫する夜盗を尻目に疾風のように移動するケイン。唖然とした大盾持ちの動きが鈍い。


 その隙に槍使いとの間を一気につめたケインは槍使いが動くよりも速く槍を持つ右手の手首を切り落とす。勢いのまま隣にいたもう一人の剣士の左腕を切り飛ばしたケインは3つの絶叫が重なる中、一番後ろにいた男に肉薄する。魔術を使うようだがそんなものを待つほどケインは甘くない。体を沈めて斬撃を繰り出し男の左足を切り飛ばした。


 絶叫が4つになったとき何やら喚きながら大盾を持っていた男が長剣と大盾を携えてケインに向かってきた。ケインとしてはリーダーらしい後方の一人を確保できればよかったので逃げるのであれば追う気はなかった。

 しかし向かってきた以上は見逃さない。ケインは膂力をこめて唐竹割りに黒い長剣を振るう。単純な攻撃と読んだ男は大盾を構えた。防げると思ったのだろう。その瞬間、もう一つの絶叫が森に響いた。ケインは金属製の大盾ごと持っていた男の手を切り落としていた。夜盗を名乗った5人は一瞬にして無力化させられていた。


 これがケインの剣である。両刃の長剣には峰打ちという概念はない。ケインは腕、足、もしくはそれぞれの腱を断ち切ることで相手を無力化したのだ。ケインはリーダーらしい男に近づく。魔術師らしいが足を切り飛ばされた状態の精神ではまともな魔術は使えない。

「何者だ?何の目的で我々の後を付ける?」

 倒れた夜盗たちは口を開かない。

「まあいい。止血して縛り上げて近くの街のギルドで話を聞こう。ミケ。止血剤とロープを」

「はいにゃ」

 真っ青になっていたリーダーの男が慌てて口を開く。

「待ってくれギルドに突き出されたら、奴隷送りにされてしまう」

 やはりハンターだったか、と思うケイン。


 ハンター同士の小競り合いや弱いハンターからの素材の強奪は少なからず横行している。建前ではギルドはハンター同士の私闘を禁止していた。その罰則が奴隷送りである。犯罪奴隷と同じで鉱山に送られ過酷な労働に従事しなければならない。

「ならば取引だ。今回のことは不問にしてやる。その代わり誰に頼まれたのか話せ」

 ケインの申し出に頷くリーダー。

「わ、わかった。お、お、俺達は…。うぐ、ぐぐぐ…」

 話そうとした時、リーダー以下全員が苦しみ始める。

「「ぐああああ!!」」

 叫び声を上げながら全員の肌の色が黒く変色する。

「ケイン!離れるにゃ!」

 ミケから声が飛び、ケインは距離をとった。一頻り苦しんだ黒く変色した自称夜盗のハンターたちは動かなくなる。


 そして…。ぱらぱらぱら…。


 ハンター達だったものが崩れていく。風が吹き彼等だったものは全て吹き飛んでしまった。

「何者かが依頼者の名前を喋ろうとした際に発動するような呪いの魔術を掛けたのか?」

 呪いをかけられた彼ら自身はそれを知らないようだった。だから取引で依頼者の名前を躊躇なく明かそうとしたのだ。

「どうやら知らないうちに呪いを掛けられたようなのにゃ。酷いことをするにゃ!」

 ミケも状況を把握したようだ。

「ミケ。手がかりを失ってしまったが、何者かがおれ達のクエストを妨害したいと考えていることだけは分かった。今はそれで十分だ。そしてまだ暗いがここに留まりたくはない。出発しよう。周囲の警戒だけ頼む」

「了解にゃ。任せるにゃ」

 日が昇るまでにはもう少し時間がかかりそうだが、この場所から移動することを決めるケインであった。

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