第7話 独立領からの依頼
報酬と受付の二人からの『自重してくださいね』との言葉を受け取ってからギルド内の共用スペースへ移ってミケに半分を渡す。
「話した通りイトーカの換金分は山分けだ。魔石と宝石はおれに使わせてほしい」
「それでかまわないにゃ」
「イトーカは帰り際に渡すとして…これでクエストは終了だけど解散前にちょっと他のクエストでも見ておくか」
「にゃ」
ミケを連れてクエストが提示されているスペースへと移動する。
「ミケ。次はどんな依頼にしようか?」
「春になったし遠出ができるクエストだにゃ。海洋都市への護衛と現地のグルメとか、未知のダンジョン探索とダンジョン内グルメとかにゃ」
「どっちも後半に何か混じっているな…でも海洋都市か。久しぶりに行ってみたいな。道中を楽しめる護衛ってところがさすがミケ。転移魔法は風情がないからな」
「にゃにゃにゃにゃ」
そんな会話を楽しみつつ掲示されているクエストに目を通しているとギルド職員が近づいてきた。
「ケインさん。シェリーから話があるとのことです」
ミケと一緒に受付に行ってみるとカウンターに戻り受付の業務をしているシェリーと一人の若者がいた。領主の息子だろうか。上品な服装が目を引いた。およそハンターズギルドには似つかわしくないと言えるだろう。
シェリーがケインを見つけ話しかける。
「ケインさん。帰られる前で良かったです。こちらミハエル=ファーブル様。南にあるファーブル領の領主様のご子息であらせられます。
ミハエル様、こちらはB級ハンターのケインさんです。先ほど伺った条件でのご依頼をクエストにした場合、私が紹介できる最高のハンターさんです」
やはり領主の息子だった。ミハエルと呼ばれた若者は立ち上がって頭を下げる。
「ミハエル=ファーブルと申します。ミハエルと呼んでください。宜しくお願いします」
ケインのことはただのハンターという扱いだ。ハンターと領主の息子では身分の差が大きい。ミハエルという若者がハンター相手であるにも関わらず丁寧に挨拶をすることにケインは少し驚いた。
「ケインだ。ハンターをしている。こっちは相棒のミケだ。宜しくな!」
「よろしくだにゃ」
若者はミケにも頭を下げた。なかなかできることではないと思いつつケインはファーブル領という言葉に興味を持った。
ファーブル領は覇国ではない独立領と呼ばれている。
かつて3か国戦争という戦の結果、この大陸は沈黙を守った魔族領を含めた4つの国に分かれている。しかし戦争終結前後の混乱期にそのどれにも所属しない独立領と呼ばれるものや自治を保つ村が多数作られた。
戦争終結時に後世の平和的な世界の発展を望んだ当時の権力者たちはこれらに侵略などを行わずに共存する道を選んでいた。ファーブル領は覇国とも取引があって肥沃な土地を持つ農業中心の領だと聞いている。
「シェリー。おれたちに話とはそのクエストのこと?」
「にゃ?」
「はい。ファーブル領のダンジョン探索と
人が身体に魔力を貯め過ぎた場合、過呼吸、皮膚の脱落、出血といった様々な症状が現れることは古くから知られていた。
自らの意思に関係なく魔力を貯めこんでしまい様々な症状に襲われる病気が
長らく治療法がなかったのだが、
貴重なため群生地を見つけたものにはそれなりの報酬が国からも出るはずだ。
それにしても初耳だ。
「ファーブル領にダンジョンなんてあったっけ?」
「最近発生したダンジョンです。ファーブル領にギルド支部はありませんが、職員を派遣した結果2か月前にダンジョンの存在を確認しました。さらにこれはまだ未公開情報ですが
「ちょうどギルドに顔を出せていなかった時期だな。…悪くないクエストだ。ダンジョン探索は望むところだしな」
ハンターは多少のリスクを負ってでもクエストには挑戦する。リターンが大きいからだ。リスクを恐れてできるほどハンターは甘くない。
「けど疑問が1つ。なぜおれたちなんだ?」
シェリーはケインに向き直って回答する。
「2つ理由はあります。1つ目の理由はケインさんのパーティがダンジョン関連のクエストで抜群の成績をあげていること。2つ目がこのクエストが奉仕クエストと設定されるからです」
「はい?」
奉仕クエストとは報酬を払うことができない依頼者が依頼を持ち込んだ場合に、そのクエストを達成することが人々の幸せと公共の利益につながるとギルドが判断したときに発生するクエストである。
移動が徒歩限定などの制約があり、報酬は500ゴールドと決められている。
ハンターズギルドを創設した当時最強のハンターが500ゴールドを握りしめた少女の依頼をその子の笑顔のためだけに達成したというエピソードに基づいて設定されてとか何とか。大金を稼ぐことはできないが奉仕クエストをこなすハンターには信頼できるハンターであるとしてランクが上がる際の推薦人の免除やギルドから優先して良質のクエストを回してもらえるという特典が付いた。
それでも大金を稼ぎたいハンターが大半なので人気があるものではない。
ケインはこれまでも奉仕クエストがあれば積極的に受けていたのでシェリーも推薦したのだろう。
「奉仕クエストに設定された訳を聞いても?」
「はい。ファーブル領はここ数年の不作から高位のハンターに払える金品が乏しいとのことでした。これはギルドで確認しています。
さらに
領主様の後を継ぐ予定のミハエル様はまだ若い。ギルドとしては領主の復帰は喫緊の課題と判断し奉仕クエストとすることを決定しました」
シェリーの説明に少しだけ引っかかったケイン。しかしケインはそこには触れず答える。
「分かった。おれでよければそのクエスト引き受けよう。シェリー。依頼表は明日かな?受け取りに来るよ。それとミハエルさん。準備を整えるのでおれたちの出発は2日後だ。奉仕クエストでは馬は使えない。移動に片道5日は掛かるから15日間は考えてくれ。それと次に会うときは領主館でということになるかな?」
シェリーとミハエルに同意を取った後ミケに視線を向ける。
「いいかミケ?」
「問題ないにゃ!」
ミケも同意する。
「それでは手続きを進めさせて頂きます。明日依頼表をお渡ししますので宜しくお願いします」
ミハエルも同意して頭を下げた。
「我がファーブル領のため何卒お力をお貸しください」
ミケとギルドを後にする。日が傾くまでにはもう少しといったところか、春の日差しが眩しい。
「次のクエストもいろいろと面白そうだ。ミケ。ほい。イトーカ15匹。アイテムボックスを」
「にゃー。今日はパーティにゃー」
ミケもイトーカは大好物だ。自前のアイテムボックスに15匹をしまってうれしそうにしている。
普通に使っているがアイテムボックスは非常に高価だ。ミケが使っている通常のものは時間経過無効の効果は付いていない。それでも1000万ゴールドは軽く超えてしまう。かわいい猫の獣人であるがミケもまた凄腕のハンターであった。
「ミケ、明日必要なものを買い揃えたい。依頼表を受け取った後でどうかな?」
「了解にゃ」
「では明日ギルドで。朝まで…」
『一旦解散』。そう言いかけたときミケがケインに抱き着く。お日様のいいにおいがするようだ。
「イトーカ釣り誘ってくれてありがとにゃ。嬉しかったし、楽しかったのにゃ!」
春の日差しに照らされた影はしばらく一つのままだった。
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