第六話 VS 遂理宗 捜査編①
*
22:50 1F玄関 チーム『デッドエンド』 エンドウ視点
「ようこそおいでくださいました、アゴウ様、エンドウ様」
視界が切り替わり、俺の周囲にはきらびやかな装飾に彩られた玄関ホールが出現する。
俺たち探偵の出番が来たということは、どうやら犯人役の二人は無事に犯行を終えたようだ。
さあ、ここからは俺の時間だ!
俺とアゴウ。探偵役である俺たち二人を出迎えたのは館の使用人と思しき男女二人組だった。
「お部屋の用意はできております。どうぞこちらに」
「ちょっと待ってもらおうか。その前に伝えておかなければならないことがあるんだ。俺たちがここに来る道中に通ってきた橋。そいつが先刻より降り続いている豪雨で流されちまったんだ」
やっぱりロールプレイの必要が無い探偵の役職は心地いいな。
俺は口調を気にする必要が無いゲームプレイに解放感を感じていた。
探偵は事件の容疑者とならないように現場には犯行時刻の後にたどり着くよう調整された役職だ。
この館が
俺の言葉に使用人たちは驚愕の表情を浮かべる。
「まさか、眼鏡橋が流されたのですか!? 探偵様方にお怪我は!?」
「ああ。俺たちに怪我はないぜ。橋が流されたのは俺たちが橋を渡った後だったからな。だが、この雨だとヘリコプターによる救助も難しいだろうし、この状況だと橋が復旧するまで地上には戻れそうにねえな。あの橋の他に地上に続く経路はねえんだよな」
「ええ。その通りです。この館は周囲を切り立った崖に囲まれており、この雨の中では橋を通る以外にここに来られる手段はありません。これは困ったことになりましたね。探偵様方、少しここでお待ちいただいてよろしいですか。すぐに館の主の方に状況を伝えてきますので」
俺の言葉を聞いた使用人二人は館の奥へと消えていく。
これでよし。
俺の言葉で場が動き出す。
「うわあああああああああああ!」
しばらく待つと館の奥から男性の悲鳴が聞こえてくる。
使用人が死体を発見したのだろう。
これにより、俺たち探偵が到着する前に事件が発生していたことが確定する。
さあ、ゲーム開始だ。
*
23:00 2F客室(宝石商) チーム『デッドエンド』 エンドウ視点
発見された二つの死体。
居合わせた二人の探偵。
俺とアゴウは事件の早期解決のためという理由付けで別々の殺人現場へと案内される。
「ここが宝石商様の客室です」
もちろん俺が調査するのは対戦相手であるウンサイのターゲット、宝石商
案内されたのは二階にある一室。
宝石商の客室の前では男が二人、扉の脇で話し込んでいる。
「そちらの方はどなたですかな?」
「先ほど到着した探偵の内の一人、エンドウ様です」
「エンドウだ。よろしくな!」
俺が名乗ると扉の前にいた男二人は俺へと頭を下げる。
「おお。これはエンドウ様、お待ちしておりました。私はこの館の主である
「そう気を使わなくってもいいぜ。それよりも事件の調査をさせてもらってもいいか」
「ええ。もちろんです。私には何もやましいところはありませんからね。なんでもお聞きください。こちらの部屋で宝石商様は亡くなられておられました。さあ、中をご覧いただきたい」
やけに饒舌な館の主に促されるままに俺は部屋の中を確認する。
まず目に飛び込んできたのは部屋の中央で仰向けに倒れる男の姿であった。
首元には前側から首の半ばまで切られた傷がくっきりと見て取れる。
傷から噴き出したのであろう血が部屋中に広がっている。
部屋は三メートル四方。
北側に出入り口である扉、南側に屋外に面した窓、東西は隙間の無い壁であり、床、天井にも目立った隙間は見られ無い。
調度品は少なく、ベッド、机、椅子、エアコン、小さめのラックがあるのみだ。
それらの調度品も例外なく所々が血で染まっていた。
「首を正面から切られての斬殺。これはまた、凄惨な死に様だな。被害者は宝石商で間違いないか」
「ええ。間違いはないですな」
俺は部屋に踏み込むと死体へと近づく。
部屋の中央で倒れる死体。その傍らにはむき身の日本刀が置かれていた。
日本刀には刃の部分を中心に血が付いており、見渡せば鞘は部屋の隅に転がっていた。
「この刀はもともと館にあった物か?」
「いや。心当たりはありませんな。男性使用人、コック。お前たちはどうだ」
「いえ。心当たりはありません」
「僕もそんな刀は見たことありませんね」
館の主に続いて使用人、調理服姿の男が答える。
この館の人間に心当たりがないのなら刀は犯人が用意した物なのだろうな。
死体には首を切り裂いた傷以外大きな外傷は見当たらない。
傷の深さを見るに凶器は刃渡りの長い刃物であろう。
部屋の中を見渡すが他に凶器らしき物は見当たらない。
この日本刀が凶器と見て間違いないだろう。
「この部屋の状態は死体発見時から変化は無いか?」
「……ええ。死体を発見し気が動転しており確かなことは言えませんが、事件後は誰も部屋の中には立ち入ってはおりません。おそらく変化はないかと」
「死体を最初に発見したのは誰だ?」
「私と男性使用人、コックの三人ですな」
「あんたらが駆け付けたとき、部屋には鍵がかかっていたか?」
「いや。開いていましたな」
なるほど。
館の主から聞いた内容をまとめるとこうだ。
被害者は宝石商。殺害現場は館の二階の宝石商の客室。
凶器は日本刀で、首を真一文字に切りつけた跡が死体に残っている。
部屋の鍵は開いており、凶器である日本刀も部屋に残されていた。
「うーん。この状態であれば誰でも犯行が可能なようだが」
「いや。それがそうではないのですよ」
俺のつぶやきに館の主が反応する。
「どういうことだ」
「それが、私が把握する限り、宝石商様を殺害できる人物は一人もいないのです」
館の主の発言に俺はやはりと頷く。
犯人以外のNPCには犯行が不可能なようにアリバイが自動生成されるのが真犯人オンラインだ。
誰でも犯行が行えるという状況はあり得ない。
そこには何らかの制限があって当然だ。
「詳しく聞かせてもらってもいいか」
「もちろん。犯行現場であるこの二階には私たちが踏み込むまで誰も侵入できなかったのです」
「ああ。確か、この館の階段にはワックス掛けが施されているんだったな」
「はい。そのせいで犯行が行われたと思われる時間に二階には誰も足を踏み入れることができなかったのです」
俺は今回の舞台の設定を思い出す。
「明日は誕生会の本番、宝石の展示会を予定しておりました。よってなるべく館を綺麗にしておく為に私の命令で使用人には館の階段にワックス掛けを施させておりました。ワックス掛けは20時から開始し、21時まで行いました。ワックス掛けの最中は階段を通れば使用人の目に付きますし、ワックス掛けが終わった後も誰かが階段を使用すれば足跡が残ってしまう。そしてワックス掛けを始める20時まで、館の人間は宝石商様を除きアリバイがあります」
「それで俺たちが到着した時には階段に足跡が無かったわけだな。つまり二階には宝石商以外の人間は立ち入れなかった」
「はい。その通りです」
主の言葉に俺は思わず笑みを浮かべる。
主の話を聞くに今回の事件の焦点は侵入できなかったはずの二階でどうやってターゲットが殺されたのかという点だ。
つまり今回のトリックは二階という広い空間での密室トリックだ。
密室崩しか。燃えてくるぜ。
ならば、まず調べるべきは二階への侵入経路と各々の行動の把握だ。
俺はさっそく事件解明に向け動き出した。
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