第五話 VS 遂理宗 犯行編②
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19:00 3F食堂 チーム『デッドエンド』 サイク視点
秋田県仙北市から東へ車で30分ほど登ったところにある
木々に覆われた山奥にある洋館こそ、今回の舞台である
「皆さま、本日は当家当主、
タキシードに身を包んだ館の使用人が壇上で深々と頭を下げる。
僕は食堂に集まる面々に紛れ使用人の話に耳を傾けていた。
この洋館の主である際川の誕生会に集められた人々は、館の関係者を含めて八人。
時刻は午後7時。
今は夕食が終わり、使用人が明日の予定の説明をしているところだ。
館にいる全員が食堂に集まり使用人の話に耳を傾けている。
「明日は朝9時から皆さまお待ちかねの宝石の披露会を予定しております。朝食は朝7時からお召し上がり可能です」
明日の予定を確認していく使用人。
とはいえ、この館に予定通りの明日は来ない。
なにせ、今からこの館の中では凄惨な殺人事件が起こるのだから。
“リヴァイアサンの鱗”。
それがこの洋次館に所蔵されている極大サイズのサファイアの名だ。
価値は数億円とも言われ、非常に澄んだ青色をしているらしい。
普段は館の展示室に所蔵されており、宝石の披露会がこの誕生会の目玉だ。
「ふむ。友人の頼みとあれば断れなかったがまさか館がここまで辺鄙な場所にあるとはな。携帯電波も通っていないところが日本国内にあるなど都市伝説かと思っていたが、それをこの身で体験する日がこようとは」
「お父様。ここの森はリスさんが出てきそうなかわいらしい雰囲気のあるところですわね。私、気に入りましたわ」
「ははは。暗い森か。確かに雰囲気はあるな……ホラー方面にだが。出てくるとしたら妖怪変化の類じゃないだろうか」
貿易会社社長、
父の壮馬は立派なあごひげを蓄え、腹部周りがふくよかな大柄な男性だ。
娘の凛鹿は綺麗なドレスに身を包み、まだあどけなさの残る笑顔を浮かべる可憐な女性である。
日本有数の巨大企業の社長とその令嬢。
館の主の知人である二人は主の方から正式に館への招待を受け、この場所を訪れている。
「ああ、いよいよだ! ようやく明日見られるのだな。リヴァイアサンの鱗!」
「大事な商談をキャンセルしてここに来たのです。私も今から明日が楽しみですよ」
俳優である
二人は熱狂的な宝石コレクターとして知られる人物である。
俳優、公夢は今までに五本の主演ドラマを持つ実力派俳優だ。
重く渋い声と確かな演技力により幅広い役をこなす。
彼は宝石コレクターとしても有名であり、自宅にはこの館のように宝石の展示室を持っているという。
宝石商、大数は都内に十以上の店舗を構える宝石店の社長だ。
テレビショッピングなどのメディアへの露出も多く、彼の宝石愛に満ちた商品の紹介は名物社長として一部で人気がある。
そのコレクター熱は本物で収入のほとんどはコレクションにつぎ込んでいる。
俳優と宝石商。二人は明日に控える宝石の公開を思い感情を高ぶらせていた。
招待客四人の他に館には四人の人間がいる。
六十代の渋みがかった顔で食堂を見渡す男性がこの館の主、際川聖句だ。
その他に、使用人夫婦とコックが専属の人間として館で働いている。
「それでは本日はこれにて解散です。ゆっくりとお部屋で体を休めてください」
使用人の言葉で再び集まった面々は会話を再開する。
洋次館に存在する八人の人間。
彼らにはそれぞれ一人につき一室客室が割り当てられていた。
洋次館は三階建ての建物である。
一、二階が居住スペースとなっており、三階には食堂と宝石の展示室がある。
一、二階の居住スペースはそれぞれ六つの部屋に分かれており、南に三部屋、北に三部屋が存在する。
一階の南スペースは西が使用人男
一階の北スペースは西が社長令嬢
二階の南スペースは西と中央が開き室、東が宝石商
二階の北スペースは西が館の主の寝室、中央がトイレ、東が従業員室でコックが使用している。
三階は西側の三分の二を食堂が占め、残る三分の一の南側が厨房、北側が展示室となっていて展示室の東隣に倉庫と階段が存在する。
ちなみに南側に面する部屋には食堂と厨房含めすべての部屋に窓が設置されており、北側の部屋は一階の浴室、二階の従業員室、三階の展示室にだけ窓が取り付けられている。
館の主、
社長、
社長令嬢、
俳優、
宝石商、
使用人男、
使用人女、
コック、
この八人が今回の容疑者にあたる。
犯行時刻前の顔合わせの時間。
ここで僕がすべきはボロを出さないことだ。
プレイヤーであると相手陣営に悟られないように与えられたキャラクターを演じる。
演技は苦手だ。
僕の頬には冷や汗が伝っていく。
「ああ、言い忘れておりました。階段のワックスがけを行いますので午後8時からは階段を使用できなくなります。移動はそれまでにお願いします。また、本日の23時頃、高名な探偵2人がゲストとしてこの館を訪れます。明日の宝石披露会には探偵様も参加されますのでよろしくお願いします」
「おいおい、客人を迎えておいてワックスがけをするのはおかしくはないか」
「それはすまないな壮馬。これは明日の披露会をきれいな空間で行いたいという私の意向である。使用人に非は無いから攻めないでやってくれないかな」
社長の上げた不満の声に応えたのは館の主であった。
「お前はいつも突拍子の無いことを考えるな。お前がやるというのなら文句はつけれんよ」
「はっはっは。すまんな」
「ご理解いただけたようでありがとうございます。では、本日はこれにて解散となります。20時までは特に移動に制限はございませんのでどうぞごゆるりとおくつろぎください」
ようやく使用人から解散の音頭がかかる。
使用人から伝えられた注意事項。
ワックスがけにより20:00以降の階段の使用は足跡が残るようになる。
そして遅れて到着する二人の客人――探偵。
探偵が到着するのは犯行時刻終了後だ。
これは探偵を容疑者から外すための措置である。
使用人の解散の合図で場に喧騒が戻る。
その場に残り談笑を続ける者。
自室へと戻っていく者。
ふう。ようやく自由に動けるわけだ。
僕は解放感から息を一つ着くと行動を開始する。
僕の犯行時刻は19:00からの5分間と20:00からの55分間だ。
現在時刻は19時。
これからの5分の間に僕がしなければいけない行動は一つ。
ターゲットである俳優に近づいた僕は、懐から封筒を取り出すと俳優のポケットの中へこっそりと忍ばせる。
一瞬僕のことを横目で見る俳優のことは無視して、僕は周りに気づかれぬうちに自分の席へと戻った。
俳優は怪訝な表情を浮かべるがすぐに隣に座る宝石商の男性との会話へと意識を戻した。
今、俳優に渡したのは【キーアイテム】ラブレター。
渡した相手が異性である場合、指定した時刻に指定した場所へ向かうよう行動を変更できるアイテムだ。
ラブレターには20時に俳優の自室へ向かうように指示を書いてある。
これにより本来20時に展示室に向かう予定であった俳優の行動を変更することができる。
周りの人物から気取られた様子は……ない。
僕は不自然にならない程度に辺りに視線を巡らせるとホッと息を吐く。
これで後は犯行時刻となるのを待つだけだ。
最初の犯行時刻に設定した5分の時間が経過する。
席に座り話し込んでいた僕の視界が大きく切り替わった。
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