第50話『賢者の石を限界突破させてみた』

 10階層の賢者の石エリクサーさんと出会ってわずか数ヶ月。


 俺とリルルは各地の野盗や混沌の軍勢に支配されたダンジョンを回り、

 5つの賢者の石エリクサーこと、ダンジョン・コアを入手していた。



「お待たせしました。賢者の石エリクサーを5つ手に入れてきました」



賢者の石エリクサーさん、先日はあたしのために、素敵な結婚式を開いていただき、どうもありがとうございましたっ!」



 リルルが元気よく挨拶をしている。

 さすがは出来る妻だ。挨拶ができて偉い。


 俺はアイテムボックスから取り出した、

 5つのダンジョン・コアを地面に置いてみせる。


 虹色に光る巨大なクリスタルを並べると壮観であった。

 ほどよくキラキラしていて綺麗だ。



「野盗や暗殺者等の悪い人達が管理しているダンジョンから持ち帰って来ました」



《レイ、リルル……想定以上に早くて言葉もないです》



「実は、早く戻れたのは理由があるんだ。今回はドロップアイテム目当てじゃなかったからなんだ」



「はい。レイの言う通りダンジョンの最深部に到達することを目的として隠密行動を原則として極力モンスターとの戦闘を避けながら最深部を目指しました」



 実は、ダンジョン・コアの回収中に、

 俺はリルルに言っていない事がある。


 極悪な殺人鬼、違法な奴隷商――残虐なダークエルフは、

 リルルが寝ている間に俺だけで "適切な処置" をしていた。


 この事はトラウマを刺激したくないので黙っておいた。

 墓場まで持っていこうと思っている。


 夫婦間とはいえ何でもかんでも正直に言えば良いと

 いうわけではない気がするのだ。


 リルルが思い出したくない事に触れる可能性があるのであれば、

 俺ができる範囲で対処すれば良い話だ。

 俺の実力じゃ無理なら、衛兵さん、魔導学院の卒業生さん、

 俺より強い冒険者などに頼れば良い。


 俺の考えはお花畑な考えで、

 甘くてエゴイスティックかもしれない。


 だけど、辛い思い――人間の邪悪で残酷で醜悪な面を、

 リルルはいままで拒否することもできずに、

 ずっと見続けさせられてきたのだ。


 俺は妻であるリルルにはこれからは世界の明るい面、

 美しい面、良い面をもっと見て、知って欲しいと思うのだ。


 もう彼女が世界の汚い部分を見る必要なんてない。

 ましてや、そんな物には関わらせたくない。


 俺には何が正しいかなんて分からないし、

 "お前は臭いものに蓋をしているだけ"と批判されるかもしれない。

 だけど、俺はそれでも構わない。


 当然だ。もとより俺のワガママで推し進めた事である。

 俺は公平な人間でも、正義の味方でも、まして英雄でも無い。


 俺は愛した贔屓ひいきする人間だ。


 俺の足りない頭を総動員して下した選択。

 リルルにとって良いと考えた事を貫くだけだ。



「リルルの言う通りだ。俺たちはダンジョン付近の現地の悪党とは関わらないように影のようにダンジョンに忍び込み、ダンジョン・コアを回収したら即離脱したあ。そんな感じでこなしていたからこそ、この短期間でこれだけの数を回収できたんだ」



「森林、海中、空中、古代遺跡……いろんなダンジョンを行きましたっ! どこも危険な場所でしたが、レイがあたしを守ってくれました!」



 賢者の石をダンジョンから抜き取るということは、

 ダンジョンが死ぬということ。


 つまり二度とそのダンジョンが生成するアイテムを

 回収できないというデメリットはある。


 とは言え"アサシンダガー"とか、対モンスター用の武器ではなく、

 対人殺傷性能が高い武器が多かった。だから惜しいとは思わない。


 それにリルルと暮らすためのマイホームの購入を目指す俺にとって、

 道具屋に売れないアイテムを拾っても俺はあんまり嬉しくないのだ。


 あくまで仮説だが、ダンジョン・コアが生成するモンスターやアイテムは、

 そのダンジョンに訪れる者の精神に影響されるのかもしれない。


 あくまで今回のダンジョン巡りのケースのみで導き出した仮説に過ぎないが。



《確認しました。どれも本物のダンジョン・コア、つまり私と同じ賢者の石エリクサーですね……。これだけの数を見るのは千年の時を生きる私ですら初めてです》



「それじゃあ、賢者の石エリクサーさんをこれから現役時代の状態まで品質向上させますのでリラックスしていてください。大丈夫痛くないですし、すぐ終わりますのでご安心を」



《はあ。それじゃあ、肩の力を抜いてリラックスしていますね。肩はないですけど》



 俺は賢者の石エリクサーさんと賢者の石エリクサーを合成する。

 成功だ。賢者の石エリクサー+1に名称が変更されている。



「調子はどうですか?」



《体……? 石……? が軽くなった気がします。……千年前の始祖錬金術師に創造された時よりも活力に満ち溢れています。レイ、あなたは一体何をしたのですか? おかげで更に千年以上稼働することができるようになりました》



「そうですか? それじゃもう一つ追加いきますね~」



 もう一つ賢者の石エリクサーを合成する。

 成功。賢者の石エリクサー+2に名称が変化



《凄いです! 何が凄いのか分からないくらい凄いです! 王都の水や空気や土壌の品質を今よりもより良いものにすることができそうです》



「農家の人が喜びそうですね。それじゃあ、もう一つ追加しますね」



 成功。賢者の石エリクサー+3に名称変化。

 クリスタルの煌めき度がアップした感じがある。



《私の体が煌めいています! 土壌に絶え間なく栄養を注ぎ続けることができるようになりました。1年間で10毛作しても畑が枯れません。あとは、王都の近海を魚がたくさん住めるようにしました。あと、水に適度にミネラル分を追加しました》



「海の幸がいっぱい食べられるようになるのは嬉しいです。もう一つ追加しますね」



 成功。賢者の石エリクサー+4に名称変化



《王都内の土壌を更に品質アップ、王都内の空気の質を更に向上、王都外壁に展開中の結界を100倍に強化。凶悪なモンスターを侵入不可能にしました。あとは、地下1000メートルまでの水質を劇的に向上。井戸水でお腹を壊す人も減るはずです》



「結界強化は地味に助かりますね。衛兵さんや冒険者が居るので今のところ恩恵はないですが、いずれ役に立つ日がくるかもです。次が最後の一つです」



 成功。賢者の石エリクサー☆に名称が変化。

 限界突破完了である。



「はい。これでおしまい。お疲れ様でした」



《レイ、ありがとうございます! 私の全ての機能を常時フル稼働させた状態でもあと10万年は稼働することが可能になりました。これで王都の土壌、水質、空気などの環境面に関しては保証することができそうです》



 10万年か。そもそも人類がそんなに生存し続けるか疑問だが、

 前向きに考えるなら、賢者の石エリクサーさんが生きている限りは、

 人類の生存確率はわずかに高まるのかもしれないな。



 千年ならともかく10万年は単位が大きすぎて、

 想像がつかなかったのでそんなことを漠然と考えていた。

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