第47話『リルル花嫁になりましたっ!』

 緑色の転移ゲートの先はまるで宮殿のような場所であった。


 地面にはいたるところに美しい花々が咲き乱れ、

 ダンジョン内にも関わらずモンスターはいない。

 その変わり小鳥や、リスなどの小動物が存在していた。


 そして、その花園の中央の台座には虹色に光る

 巨大なクリスタルが鎮座していた。



《千年の間待っていた。人の領域を超えし者達よ》



 花園の中央のクリスタルから声が聞こえてくる。

 石が喋った。



「あの、どちら様でしょうか?」



「……クリスタルが、人の言葉を喋っています。新手のモンスターでしょうか?」



《人の子よ恐れる必要はありません。私はモンスターではありません。私はこのダンジョンに無尽蔵の活力を与える存在、ダンジョン・コアです》



 ダンジョン・コア。

 ダンジョン内のモンスターが光の粒子になって消滅したり、

 アイテムをドロップするのはダンジョン・コアの能力だって、

 聞いたことがあるな。


 目の前のクリスタルがダンジョン・コアか。



《私はあなた達を祝福します。あなた達は人の限界を超越しました》



「人の限界ってなんのことでしょうかっ……」



《あなた達は1000レベルを超えています。通常はあり得ない値です》



「リルル。知っていたか? 俺たち1000レベル突破していたんだってさ」



「レイにレベルを過信すると、即死する可能性が高いって聞いていたので、あえて確認しないようにしていましたっ。私達、すっごく成長していたのですね」



《なるほど……まあ良いでしょう。超越者として新たなる職業クラスを授けましょう。まずは、リルル。あなたには2種類の職業クラスを選択することができます》



「二つ……ですか? どのような職業クラスがあるのでしょうか?」



《一つは【傾城傾国けいせいけいこく】、王族特攻の職業クラスです。自分よりも相手の身分が上であるほど魅了効果が強くなる常時発動型の強力なスキルを持つ職業クラス。国王であれ魅了したあとはあなたの忠実な下僕にできます》



 すげえな。とんでもないチートだ。

 使いようによっては敵国とか転覆させられるぞ。



《もう一つは【花嫁はなよめ】。こちらは超特殊職業クラス。1000レベルを突破する以外に多数の隠し条件フラグを全て満たさないと進化できない職業クラス。その能力は、パートナーが1キロメートル圏内に居る場合、双方の全ステータスを向上させる能力をもつ職業クラスです》



「あのっ……その隠し条件フラグというのは何でしょうか?」



《まずはパートナーと相思相愛であること、生涯を共に過ごしたいと思っていること。これが大前提です。更にパートナーと一緒に過ごした総合計時間、愛情のこもった贈り物をもらった回数……等々、細かな条件フラグを全てクリアした者が取得できる、隠し職業クラスです。創造主さまが戯れに創造された隠し職業クラス。千年の歴史の中でもこの超特殊職業クラスを修得した者はおりません》



条件フラグの達成状況についてなのですが、なぜ石さんにはそのような事が分かるのでしょうか?」



《私は、ダンジョン・コア。その真の名は"賢者の石エリクサー"。私に知らないことはありません。とはいっても、あくまでも私が知ることができるのは王都の内部で起こった出来事についてだけではありますが。あなた方のラブラブなデートもこの部屋から覗き見て観察していました》



 賢者の石エリクサーさんの覗き見の件はともかく、

 リルルが花嫁になるという事はつまり俺は夫となるわけだ。


 プロポーズをする前にいきなり結婚というのは想定外だが、

 男は度胸だ。俺も覚悟を決めるぞ。



「リルル、賢者の石の言っていることはすべて正しい。俺はリルルが好きだ。だから俺はこれからもずっとリルルには一緒に居て欲しいと思っている。結婚しよう」



「あのっ、あたしなんかが……幸せになっても……よいのでしょうか……」



 いつになくか細く消え入りそうな儚げな声であった。

 俺はリルルの手を取り強く握りしめ、一言だけ伝える。



「ああ、もちろんだ! 俺たち二人で一緒に幸せになろう!」



《お二人の覚悟は決まったようですね。それではお二人はこの契約書にサインを。【花嫁】になるためにはリルル、レイ、両名のサインが必要になります」



 俺とリルルは目の前にあらわれた用紙に自分の名前を書く、

 すると書いた途端に紙は目の前から消えた。



《それではこれより式を執り行います。賢者の石エリクサーである私が牧師役を務めましょう。新郎レイ、あなたはここにいるリルルを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?》



「俺はリルルをいつまでも大切にして、幸せにすることを誓います」



《新婦リルル、あなたはここにいるレイを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?》



「あたしはっ、レイを生涯変わることなく愛することを誓いますっ」



《それでは新郎から新婦へ指輪を……って、既に左手の薬指に指輪をはめちゃっているじゃないですか。レイ、あなた見た目に似合わずなかなかやるじゃないですか。それじゃあ……最後の一大メインイベント、お楽しみのキスを。チューです》



 俺はリルルのオデコにキスをした。



《はい。今のは練習なのでノーカウントです。それじゃあ、新郎と新婦、今度は本番です。唇と唇でお願いします。照れずに情熱的に! ブチュっとやって下さい!》



 ええい……恥ずかしがっていても仕方ない。

 俺はリルルをお姫様抱っこで抱きあげ、

 むさぼるように唇と唇を重ねる。



《以上をもって、【花嫁】の超位職の取得儀式は無事に完了です。それでは、これよりリルルの職業クラスを【花売り】から隠し職業クラス【花嫁】へと進化させます》



 リルルの体が、彼女の瞳の色と同じような、

 エメラルド・グリーンの光に包まれる。


 そして光が解けるとリルルはまるでお姫様のような、

 薄緑色の綺麗で可愛らしいカラードレスに包まれていた。


 その姿はとても美しく、そして可愛らしかった。

 そして彼女にとても似合っていた。



「うわあ。やりましたっ! あたし、花嫁になりました!」



「……俺も、リルルの夫か。なんというか……夢のような気持ちだ」



 レイはより一層頑張らねばと決意を新たにするのであった。

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