第48話『金貨1000枚の価値の寝顔』
結婚式が終わった後は、花園の中に突如設けられたテーブルの上に並ぶ、
最高に美味しい料理に舌鼓を打ったり、
どこからから奏でられている美しい演奏を楽しんだりした。
どういう理屈でこのような料理や音楽を奏でているのかは疑問だが、
もはやそんなことはどうでもよくなっていた。
リルルが喜んでいるならそれでいい。
そもそもダンジョン・ストーンこと、
これ以上に不思議なことなんてないのだから。
「リルルは酒弱いんだから、出されたお酒は無理に飲まなくていいんだぞ」
「はい。今日は、唇を湿らす程度にして雰囲気だけ楽しむことにします」
リルルはお酒がかなり弱いんだよな。
以前ちょっと小洒落た料理店に二人で行った時は、
食前酒として出てきたお酒を一杯飲んだだけで、
熟睡しまったからな。
今日はせっかくの記念日だ。
あんまり飲まない方が良いだろう。
「どれも美味しいです。綺麗です。今、あたし、とっても幸せですっ」
「そうだな。俺もとっても幸せだ」
そんな甘い感じの話をリルルとしていると目の前に、
リルルの身長くらいの高さのウエディングケーキがあらわれる。
とてつもない大きさのケーキである。
《リルルとレイのために特別なウェディングケーキを用意しました。それではここで、新郎新婦のお二人にはウェディングケーキにナイフを入刀していただきましょう。リルル、レイ、夫婦としての初めての共同作業ですね》
俺はリボンが結ばれたウェディングケーキ用のナイフの柄を、
リルルと一緒に持ち、巨大なケーキを上から真っ二つにする。
俺もリルルも冒険者だ。ナイフの扱いには慣れている。
このウエディングケーキは上だけが本物で下の部分はレプリカという、
一般的なウエディングケーキとは異なり、
用意されたケーキは上から下まで全部ケーキだった。
上から下まで極上のクリームたっぷりである。
《それでは、レイさん、リルルさん、ファーストバイトを》
なるほどね。
明らかにリルルに渡されたスプーンの方が大きい。
司会としての腕もソコソコこなれてますな。
リルルに渡されているスプーンは、もはや巨大なレンゲだ。
一方、俺に渡されたスプーンは小さめの一般的なスプーンであった。
さては、この
俺がリルルの小ぶりな口に一口ケーキを入れるのに対し、
リルルのスプーンの上には、
ショートケーキ丸々一個分の大きさが乗っている。
俺は顎が割れんばかりの大口を開きそれを丸ごと口に含んだ。
ケーキのボリュームが凄くてなかなか咀嚼できないので、
右手のひらを顎に押し当てて、無理矢理に咀嚼し気合で飲み込む。
どんなもんだ! 俺はケーキに勝った!
「ふふっ。レイ、クリームが鼻についていますよっ」
「まじか! せっかく一気食いできたのに、格好つかねーなー」
「ふふっ。レイ、鼻の下に白いおヒゲができていますっ!」
リルルはポケットから出したハンカチで、
俺の鼻の下に付いたクリームを拭ってくれた。
「おう、ありがとう。リルル」
なんだろう。リルルの幸せそうな笑顔を見ると胸が熱くなる。
勢いでキスをしたときよりもドキッとしたかもしれない。
いつまでも続いて欲しい夢のような時間であった。
◇ ◇ ◇
2人と石だけというささやかではあるものの最後まで式は滞りなく進んだ。
リルルはスイーツに含まれていたアルコールのせいか寝てしまった。
スースーと寝息を立てて椅子の上で眠っている。
《リルルさんが寝たあとなので、レイさんにはお伝えしますが、正式な書面での婚姻手続きについてはギルドにてお願いしますね。ギルドに申告無しに婚姻関係を主張すると法律違反で禁固3年または金貨50枚の罰金が課せられます。ご注意を》
「ありがと。ギルドへの報告と書類提出は、明日朝一に済ませておくよ」
《あと、リルルが眠っている今だからお願いしたい事なのですが、今回の結婚式に掛かった費用をレイに請求したいのですがよろしいでしょうか?》
「ああ。こんな素晴らしい式を開いてくれたのだから、もちろん気前よく支払うぜ」
《安心しました。金貨1000枚になります》
「えっと……
《いえいえ。私は正当な金額と主張します。等価交換で丁度釣り合う金額です。私は法外な金額は請求しません。あくまでも提供した物に対する正当な対価を請求しているだけです。ちなみに見積もりは以下のとおりです。私の裁量で可能な限りの割引も込の金額です》
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リルルとレイの結婚式お見積り明細
料理:50金貨
飲物:10金貨
演奏費用:40金貨
ウェディングケーキ:100金貨
挙式料:250金貨
司会料:300金貨
新婦衣装(カラードレス):350金貨
新婦衣装(ウェディングドレス):350金貨
サービス料:40金貨
超位職転職料:10金貨
小 計:1500金貨
特別割引:-500金貨
請求金額:1000金貨
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超位職への転職の費用は金貨10枚……意外に安いな。
金貨1000枚……貯めた貯金は全部すっからかんだ。
明細の他の項目はともかくとして、
司会料が300金貨って高くないか?
日本円換算だと3000万円。
有名人に司会をさせてもそんなに取られないと思うのだが。
それだけ払えば合衆国大統領とかも呼べそうだ。
……普通に無理か。すまん。言い過ぎました。
「金貨1000枚か。確かに高い。だけど、リルルのあの幸せそうな寝顔を見ていたら、確かにそのくらいの価値がある気がしてきたぜ。一生に一度の支出だしな」
俺は金貨1000枚を現金即決にて支払うことにした。
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