第45話『超強敵! 10階層のヒュドラを倒せ』

「次のフロアは雑魚敵なしのいきなりボス仕様のフロアだ。最初から全力で戦うぞ。最後の階層の敵はドラゴン系のモンスターのはずだ」



「了解しましたっ!」



 9階層と10階層までにある50メートルの螺旋階段の先に

 ある巨大な扉を開けるとそこは巨大なボス部屋である。


 10階層のボス部屋の高さが50メートルもあるのは、

 このフロアのボスモンスターが本来は、

 レッサー・ドラゴンという翼竜の下位種だからだ。


 だが俺の目の前のは翼竜ではなかった。



「それにしても……想像以上の敵が出てきたな……!」



 10メートルを軽く超える巨大な体。9つの首。ドラゴン。

 そう、目の前の存在はあの伝承の存在、 ヒュドラ である。


 ドラゴンの中でも最上位クラスのモンスターだ。



「コイツは首を斬っても再生する。だから傷跡を焼くため火属性付与が有効だ」



「了解ですっ――フィジカル・ブースト! エンチャント・ファイア!」



 ギリシャ神話の伝承では、ヘラクレスのヒュドラの戦いの伝承によると、

 ヒュドラは一つ首を斬るとそこから2本の首が生えてくる。

 それを防ぐために切断面をタイマツで焼いて倒したたなんて話もあった。


 この世界のモンスターと同じかは分からないけど試さない手はない。

 もし違うなら別の討伐方法を考えれば良いだけだ。



「――いきますっ!」


 

 リルルが風のように地面を駆け抜け、

 ヒュドラが反応するより前に9つの首の一つを斬り落とす。


 ボトリとヒュドラの首が地面に落ちた。

 その切断面はマグマのような高温によって焼き切られ、

 綺麗に傷口がふさがっている。

 切断面からはわずかな血すら流れない。



 タイマツなんかよりも遥かに高温の斬撃である。



「ぬらあっ!」



 だが、落とした首は1つ。残る首は8つ。

 ヒュドラはムチのようにしならせた、

 別の首をリルルに振りかぶり薙ぎ払おうとする。


 ヒュドラとリルルとの間に、

 俺が割り込み小盾でパリィで弾き返す。

 

 パリィの成功により強制的にのけぞりが生じる。

 のけぞりが有効なのは首一本に対してのようだ。


 おそららく、首の一本一本がそれぞれ異なる

 モンスターという判定なのだろう。


 怯んだヒュドラの顔面に毒玉☆を投げつける。

 ヒュドラの顔面で、毒玉が破裂。


 毒によって肉が腐り落ちその下の骨があらわになる。


 ヒュドラ別の首が、本体に毒がまわるのを防ぐため、

 毒玉を投げた首を根本から噛みちぎる。



「イフリート・スラッシュ!」



 毒により腐り落ちようとしていた首を噛みちぎった、

 別のヒュドラの首を、リルルは超高音で白光りする

 コボルトダガーで斬り落とす。



「3本……。残り6本だ。一旦、様子見のためリルルは回避のみに集中してくれ」



「了解です!」



 こういう敵は追い詰められるほどに、

 まるで徐々にギアを入れるかのように本気を出してくる。

 だから、可能であれば一気に削りたい。


 リルルが曲芸じみた動きで上下左右から同時の

 タイミングで襲い来るヒュドラの首を回避する。


 俺のパリィでは多方向から迫る攻撃を同時に防ぐのは不可能だ。

 だからそういうときに備え別の戦い方がある。



「そこだ!」


 

 【邪神の瞳】により超強化された動態視力はその瞬間を見逃さない。

 "アリアドネの糸" により四方向から、

 同時にリルルに襲い掛かっていたヒュドラの首を縛り付ける。



「……っ! さすがに糸では斬り落とせないか。硬過ぎる」



「ませかせくださいっ! イフリート・クアドラ・スラッシュ!」



 目にも留まらぬ超高速の四連撃の斬撃。

 "アリアドネの糸"を引きちぎろうともがくヒュドラの首を、

 リルルは完全に同時に斬り落とす。



「7本落としたか。残り2本……だからこそ。ここからが、本番だ」



「はいっ。特にひときわ大きな首に注意が必要です」



「リルルは一旦、俺の後ろに後退してくれ」



 俺は地面に事前に置いていた甲羅の盾をツマ先で蹴り上げ、構える。

 180cmの全身を覆うことができるほどの巨大な盾。

 それを単なる遮蔽物として使う。


 ヒュドラの首の一つが直進的な攻撃で襲い来る、

 一方で巨大な首がブレス攻撃の溜めに入る。

 ドラゴン種特有のブレス攻撃の事前動作である。


 甲羅の盾は、広範囲のブレス攻撃と物理攻撃による、

 同時攻撃を防ぐために扱う。


 この甲羅の盾は特殊仕様だ。

 最高品質に向上させた甲羅の盾の表面に、

 アダマンタイトとオリハルコンの合金をメッキ

 することで物理耐性、魔法耐性を劇的に向上させている。


 巨大なヒュドラの口から毒と炎を混じり合った黒炎が放たれる。

 なんとか甲羅の盾によって直撃を防げているが、

 想像以上にブレス攻撃が長い……。


 この甲羅の盾が遮蔽物として最後まで耐えられるか。


 巨大なヒュドラの首によるブレス攻撃が止まると同時に、

 もう片方のヒュドラの首が甲羅の盾を打ち砕く。



「そこだ!」



 甲羅の盾を打ち砕かれ、


 目の前に迫りくるヒュドラの首を、甲羅の盾の背後で、

 事前に構えていた物理攻撃を無効化する小盾のパリィで弾き返す。


 パリィにより首が怯んだところを、

 俺の後方に控えていたリルルが伸び切った首を斬り落とす。



「残り一本……って嘘だろ! こんなの伝承でも聞いたことないぜ」



 最後のとりわけ極太な一本の首が巨大な咆哮を上げると、

 背中から巨大な翼を生やし空中に飛び上がる。



「エンチャント・エア・マックス!」



 基礎魔力操作で靴底に空気の力場を作る事によって、

 リルルは空中に見えないガラスの階段があるかのように駆け上がる。



「たぁああっ!!! イフリート・デュアル・ブレイズッ!!!」



 リルルはヒュドラの翼の付け根を斬り裂く。


 揚力を失ったヒュドラは高度40メートルの高さから

 石畳に叩き付けられる。


 10トンを超える肉の塊が10階建ての建物から、

 コンクリートの地面に叩きつけられたようなものだ。


 外からは分からないが、おそらくヒュドラの内部は、

 内蔵と筋肉と骨のミンチ肉になっていることだろう。


 最後のヒュドラの首の一本は悪あがきにまるで蛇のように、

 俺の顔を睨みつけ噛み殺さんと襲い来る。

 俺は、それをパリィで弾く。



「悪いが、これでトドメだ」


 

 最後の残りの一本の額には魔核が埋め込まれていた。

 これが本体で間違いない。俺は毒玉☆を投げつける。


 ヒュドラの額の魔核に直撃、

 超劇毒物の薬剤がヒュドラの顔面をグズグズに腐食させる。



「念のため麻痺玉も投げておこう。死んだフリかもしれないしな」



 おれはおまけに麻痺玉☆も顔面に投げつけた。

 ヒュドラはビクンビクンと数回痙攣をしていた。


 さらに念のための反撃に備えて小盾を構えながら

 俺はヒュドラを見つめ続ける。

 ヒュドラは、その数十秒後に光の粒子になり消滅した。



「やったな! リルル! 俺たちの勝利だ!」



「はい! やりましたっ!!」



 リルルのホットパンツはまるで1リットルの水筒を

 逆さしたかのように、びっしょり濡れていた。


 俺の、ホットパンツから太ももへ伝うしずくを追う視線に

 気づいたのか、リルルはとっさに口を開く。



「……っ! あまりに、激しい戦いで下半身に凄い汗をかいてしまいましたっ!」



「ああ。激戦だったからな。汗を大量にかくのは、生理現象として普通のことだ」



「そうですねっ! 空を飛んだヒュドラを追いかけるために、空を駆けたり、今日はいっぱい足を使ったせいか、下半身から集中的に汗が出てしまったようですっ!」



「なるほどね。そういうこともあるよな――これは完全に、汗だ」



 リルルの名誉のためにあえて言おう。


 リルルのホットパンツがびしょ濡れなのは、汗のせいであった。

 決して、リルルが尿意を我慢できず漏らしたわけではなかった。



 ――リルルのホットパンツの濡れは、汗であった。

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