第44話『自分という最強の敵との戦い』
第9階層から10階層は長い螺旋階段になっている。
階段を降りながらリルルを観察してみる。
リルルは少し緊張している様子だ。
ほおが少し紅潮しているせいか若干、
尿意をもよおしているようにも見える。
多分気のせいだろう。
もしかしたら、
8階層と9階層で回復薬を2本飲んだのは飲みすぎだっただろうか。
いやいや、気のせい気のせい。
切り替えて行こう。
隣で緊張しているリルルを落ち着かせるために頭をなでる。
やましい気持ちなど一つもない。
いやらしい気持ちなどカケラもない。
明鏡止水の心で撫でている。
ひたすら頭を撫でる。
なんだろう、お地蔵さんの頭を撫でるような感覚になってきた。
リルルの頭を撫でているとご利益がありそうな気がしてきた。
なんか猫を撫でているみたいでこっちも癒やされるぞ。
癒やされるのと同じくらいいやらしい気持ちにもなっているけどな。
猫を撫でてもいやらしい気持ちにはならないからやはりリルルは特別だ。
“癒やし” と ”いやらし”の双属性使い。
頭を撫でていたら少しはリルルも落ち着いてくれようだ。
正直俺は逆に落ち着かなくなってきたが。
今日は、宿屋は別の部屋にしてもらおう。
そろそろ煩悩を退散させないと俺の理性がヤバい。
こういう時は侘び寂びの心だ。
松尾芭蕉に立ち返ろう。
俺が中学の頃にならった『古池や蛙飛びこむ水の音』の英訳が、
『
なのは、やっぱり変だと思うんだよな。
英語が得意じゃないのでどのへんが変なのかうまく説明できない。
だけど 『Plop!』 とか、明らかに語感的におかしい気がする。
侘び寂び感が全然ない。
やはりハンバーガーの国の人の翻訳だと思わざるおえない。
実際はどこの国の人が訳したのかは知らないのだけど。
冤罪だったらごめんなさい。ハンバーガー好きなので許してください。
さて、侘び寂びとは何か?
それは今や若干廃れつつ有るが、個人的には”メイド”だと思っている。
メイドとはそこに確かに存在するのに触れてはいけない存在だ。
触れるな危険。YES・メイド・NO・タッチだ。
つまり、
『もののあはれ』を体現する存在、それがメイドだ。
つまり、侘び寂びはメイドのことだったのだ。
よくよく考えれば服も白と黒で侘び寂びっぽい色をしているしな。
侘び寂びの心を持つ俺たちがメイドを好きになるのはもはや必然。
そうだ。今度レア素材でメイド服を作ってリルルに着てもらおう。
やはり『
階段を下りながらリルルの横顔を見る。
やっぱリルルのおっぱいっはふっくらしていて良いな。
隣を歩きながら横から見るとそれが分かる。
そうじゃない。
見るのは胸ではなく、顔だ、顔……って目があってしまった。
なんかじっと黙って俺の目を見つめているな。
いやいやいやいや、そうじゃない。
おっぱいをガン見していたのが気づかれただろうか?
いや、ポーカーフェイス・マスターの俺が悟られるはずがない。
今日は、宿屋は絶対に別の部屋にしてもらおう。
「えっと……レイ、あたしの胸なにかついていますか?」
「そうだな。さっきのボス戦の木の葉が胸に着いているようだ。俺が払おう」
俺はリルルの胸に落ちた枯れ葉をパッと払う。
自然におっぱいに触れた気がするが事故だ。
微妙に赤面している気がする。
やめとけばよかった当たり前だけど本当に届いてしまった。
手を伸ばしたら驚くほどたやすく触れてしまった。
木の葉を落とすのは犯罪に入りますか?
やはり、ダンジョンは危険だ。
人の心を迷わす迷宮、それがダンジョン。
ちなみに、とてもやわらかかったです。
硬めの冒険服の上からだから気のせいかもしれないけど、
やわらかかったです。
恐ろしい……これが、ダンジョンの呪い。
そうに違いない。早く抜け出さないと。
ここは煩悩を追い出すために真面目な話をしてみよう。
「リルル、もしかして緊張しているのか?」
「少し……緊張しますね。最後のフロアはどんな階層なのでしょうか?」
「10階層は1フロア丸ごとブチ抜きのボス部屋だ。天井も高い。50メートルくらいはあるんじゃないかな」
「勉強になります。だからこんなに長い階段なのですね」
「そうだな。実際の野良ダンジョンでもここまで大きいフロアはそうそう無い。さすがはギルドが運営しているダンジョンって感じだよ」
「ギルドって凄いのですね!」
「そうだな。報酬をくれるありがたい人達だ」
ぶっちゃけ、ギルドからもらえる報酬より道具屋で
アイテムを売却して得られる収入の方が大きいけどな。
「さて、次はいよいよお待ちかねの10階層だ。俺が戦った時はレッサー・ドラゴンという竜族モンスターの亜種だったのだけど、スカイ・フィッシュの件もあるから、あまり偏見を持たずに行こう」
「はい!」
10階層に行く前に念のために伝えておかねばならない事があるな。
いや、一応念の為に。
「あと……リルル。尿意が限界に来た時は遠慮なく着衣のまま漏らすんだ」
「……っ!……はいっ……」
あっ…(察し)の精神だ。
あえて気づかない振りをするのだ。
「着衣状態での おもらし は男女問わず冒険者はほぼ必ず一度は経験をすることだ。一人前の冒険者になるための通過儀礼だと考えてみて欲しい。ちっぽけな羞恥心よりも命が重要だ。まず目の前の敵を倒すのに集中するんだ。ダンジョンとは敵との戦いではなく、己との戦いだ。彼を知り、己を知れば、百戦あやうからずだ」
俺は自分でもよく理解してない名言っぽいセリフを言って励ました。
リルルは俺の言葉を聞いて少しほっとしたようだ。
ほのかな尊敬のまじった熱い眼差しを感じて罪悪感を感じました。
顔が紅潮して筋肉がこわばっていたのは、
緊張ではなくて尿意の方だったか。
リルルが尿意を我慢する姿も……
……やめろ、それ以上先は考えてはいけない。
すまん、リルル。
やはり短時間に回復薬2本は飲みすぎだったな。
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