第43話『森林ダンジョンを踏破せよ!』

 リルルと俺は第8階層からそのまま第9階層に駆け上がる。



「第9階層は森を模したダンジョンだ。足場や視界が悪いから慎重に進もう。枯れ葉やコケに足を滑らせないようにも注意してくれ」



「了解ですっ!」



 他のフロアは石造りの一般的なダンジョン仕様だが、

 第9階層だけは森林風の空間になっている。


 おそらく初心者用ダンジョンの設計として、

 本物のダンジョンに挑戦する前に、

 慣れてもらうためなの配慮なのだと思う。


 俺とリルルは枯れ枝を踏みしめながら前に進む。

 この階は通常であれば、トロールの生息地帯。


 だが、【邪神の寵愛】の効果で上位種が

 あらわれるこの森で、何が出てくるか。



「フォレスト・トロール……」


 2メートルを超える棍棒を持った巨体の敵。

 一度攻撃を受ければ致命傷を負いかねない敵だ。


 危険な攻撃をしてくる相手ではあるが、残念ながら

 物理攻撃を無力化することができる俺とは相性が良すぎる。



「レイ、この相手にあたしだけで戦ってみてもいいですか?」



 相手の攻撃は大振りな棍棒をリルルが食らうとは思えないが。

 どうしたものか。少し悩んだあとに俺は答える。



「オーケー! だけど、油断はしないように。あいつの一撃は強力だ、回避に集中して敵の攻撃を避けつつ、スキを見ながら攻撃をするんだ」



「わかりましたっ!」



 リルルは、曲芸じみた動きでフォレスト・トロールを翻弄する。

 フォレスト・トロールが振るう棍棒を危なげなく回避。

 スキを見つけて、その巨体に次々に傷を入れていく。


 蓄積されたダメージによってフォレスト・トロールが膝を着いたのを

 見てトドメの一撃として、頸部を切断。

 確実な勝利を確信し、リルルは俺のほうに振り返る。



「危ないっ!」



 リルルの死角から、

 頭部に向けて巨大な棍棒が振り降ろされんとしていた。


 ――その巨大な棍棒を俺がパリィする。


 よろよろとよろけながら、後ろずさるフォレスト・トロールに対し、

 俺は前蹴りで靴底を押し当て、思い切り前方に蹴りつける。


 もちろん俺の蹴りではダメージを与える事はできない。

 狙いは別のところにある。


 トロールはのけぞった状態で、さらに俺の蹴りを食らった事で、

 そのままよろよろと後ろに下がる。


 木と木の間に結びつけた "アリアドネの糸" によって

 背面から腹部にかけ、真二つに両断。死亡。


 リルルが戦っている間に俺が仕掛けていた罠だ。



「レイ、ありがとうございますっ! 助かりました」



「気にするな。こいいう森のようなダンジョンは、通常のダンジョンと比べると死角が多い。モンスターもそれを知っていて利用するから気をつけて」



「了解しました。ところで、さきほどのフォレスト・トロールを真二つにしたのはどんな技ですか?」



「ああ……。あれは技ではなくて、俺が仕掛けた罠だ。森は死角が多くて危険度も高いが、逆に俺たちが罠を仕掛けたり、工夫をすることもできるんだ」



「そうなのですね。勉強になりますっ」



「罠は扱うのが難しい。もっとこういうダンジョンに慣れてきたら教える」



「了解しました!」



 さっきのリルルの頭部を狙われた一撃は危なかった。

 内心ヒヤッとした。


 敵の動きを先に気づけたから間に合って良かった。

 リルルは規格外に強い。

 だけど、まだしっかり見ていないと危ないな。


 結構危なかったが実戦の良い経験になっただろう。

 素直な子だからこれを気に学んで成長することだろう。


 ドロップアイテムは【ヤドリギの盾】か。

 軽くて非常に硬い木の盾は売れそうだ。

 誰でも装備できる防具なのも良い点だな。


 オリハルコンとかの鋼材を表面にメッキすれば、

 見た目も悪くない。うむ。良いアイテムだ。



 以後、リルルはさっきの不意打ちの件があったので、

 慎重に森の中を進むようになった。



 結果的には俺が前衛に立ちパリィ&毒玉で狩りながら、

 リルルには俺の背後を守ってもらうスタイルで、

 そのままボスフロアの扉までやってきた。



「この先にいるボス敵は俺が知る限りは、"トレント"という木のモンスターだ。根を張って動けない代わりに無数のツタを振るってくるから、厄介な相手だ」



「木の相手なら、火属性が有効ですかね?」



「実は純粋な木のモンスターは体内に大量の水を有するから意外と火に対する耐性は高いんだ。だから、別の属性が良いと思うぞ」



「そうなのですね。さすがレイです」



「ありがとう。それと、この手のモンスターは油脂を多く含んでるからいざ着火すると想像以上に燃える。燃えたツタで攻撃されると結構危ない」



「難しい敵ですね。何属性を付与したらいいですかっ?」



 うーん。何が良いんだろうか。

 そもそも俺魔法を使えないから真剣に考えた事無かったな。


 火は危険、雷は根から地面に散らされるとなると、風かな?

 ダガーの先端に風属性を纏わせるのは良さそうだ。



「そうだな。ダガーの切っ先に風属性を付与して刀身を伸ばせばツタとかを斬りやすいから良いかもしれない」



「了解しましたっ!」



 さてさて、この部屋に出てくるモンスターは、

 俺の知る限りはトレントのはずだが、

 何が出てくるかな?



 俺は、森の最奥の木で出来た扉を開け中に侵入する。



 エルダー・トレントか。

 エルフの森では神聖視されている相手と聞くが、

 さて、実際の実力はどんなものか。



「リルル。俺が敵の懐に潜り込むから、しばらく敵のツタ攻撃を防いでくれるか?」



「まかせてくださいっ! フィジカル・ブースト! エア・ブレイズ!」



 ダガーの刃先に風の刃まとうことで、ロングソードと同等のリーチを獲得。

 簡易的な片手剣二刀流である。



「ていっ! ていっ!」



 リルルは俺目掛けて放たれる上下左右から襲いくる

 エルダー・トレントツタのムチを切り裂く。

 ムチのスピードも速いが、それを難なく切り落とすあたりはさすがだ。



「サンキューな。リルル!」



 俺はあえて、エルダー・トレントの両腕拳の届く距離にまで潜りこむ。

 この距離に来ると巨大な拳を振りかざしてくる。

 大盾持ちも吹っ飛ばす強力な攻撃。

 前衛のタンク泣かせのモンスターだ。



「おらぁ!」



 巨大な丸太のような太さの拳を少盾でパリィする。

 エルダー・トレントが大きく揺れ木の葉が舞う。


 俺は巨木が反動で生じた硬直を見逃さずに、

 確実に麻痺玉+4と毒玉+4を投げつける。


 巨木にぶつかると中から薬剤が飛び散り、

 巨木の表面が腐り剥がれ落ちる。



 エルダー・トレントは自身の腐りゆく木の表面を

 丸太のように太い両手でバリバリと引き剥がし、

 劇毒物が重要な箇所に侵食するのを防ごうとする。



 狙い通りだ。



 エルダー・トレントの樹皮の奥に隠された魔核があらわになる。

 この位置が分からない限りは、消耗戦を強いられる。

 通常のトレントと同じパターンの動きをしてくれたのは助かった。



「リルル。アレがヤツの魔核だ! 今なら火属性が通じるぞ!」



「了解しましたっ! エンチャント・ファイア」



 コボルトダガーがまるで溶岩のように白色の光を放つ。

 さらにリルルは脚部を魔力による強化を施し、

 風のように疾走する。



「イフリート・スラッシュ」



 灼熱をまとった白刃がエルダー・トレントの

 魔核を真二つに引き裂く。



「ふう……。なかなかシンドイ戦いだったな」



「あのように魔核を隠す能力を持つモンスターもいるのですね」



「そうだな。中には、擬装した魔核を持つものもいるそうだ」



「いよいよ、次は10階層ですねっ!」



「そうだな。気負わずに行こう」



「はい!」



 うむ。結構緊張しているな。

 リラックスしろといってできる物じゃないよな。

 それはよく分かる。


 そういう時は何か飲んで一休みだ。


 ちなみにボスドロップは【生命の腕輪】だった。

 常時体力を微回復する腕輪だそうだ。

 これも職業を選ばないから高く売れそうだな。



「それじゃ、まずは10階層に備えて回復薬を飲もうか」



 俺はリルルに炭酸レモン風味の

 回復薬を差し出すのであった。

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