第33話『リルルと一緒に王都で手繋ぎデート』

「今日は、街を探索に行こう。目的は情報収集と市場調査だ」



「はい!」



 ただのデートに誘うための口実だ。今日は思いっきり遊ぶぞ!

 眉毛も整えたしヒゲも丁寧に剃った。歯もいつもより丁寧に磨いたぞ。

 昨夜は楽しみでなかなか寝付けなかった。

 デートコースやシミレーションも完璧だ。



「今日は鍛冶屋の人が絶対旨いって言っていたお店に行こう。テラス席で外で日に当たりながら食べられるそうだ。今日のような天気の日には最高だな」



「いったい何が食べられるんですかね?」



「ふふん。それは行ってのお楽しみで」



 なんだろう楽しい。

 ただ歩いているだけなのだけど。ドキドキする。



「ちなみに、ここがお勧めのお店だ。揚げたてプリプリの海老や、新鮮なオイスターが食べられることで有名な店だそうだ」



「"大災厄"を倒してからは海産物のお店が増えましたね。新鮮な海産物を安価に食べられるようになって本当によかったです」



「そうだな。人気の店だから、リルルは席を確保しながら待っていてくれ」



 リルルは本当によく食べる。小柄な体なのに沢山食べる。

 そして、食べる時に凄い幸せそうな顔をしている。

 その顔を見ると俺も楽しい気分になる。

 

 俺は、バレルに入った海老のフライ、大ぶりのオイスター20殻、

 カニの剥き身のバター焼きを買い、リルルの待つテーブルに向かう。



「この海老はこのソースに付けて食べると美味しいそうだぞ」



 揚げた海老に付けるソースは、酸味の効いた赤いディップソースだった。

 ディップソースが何で作られているのか謎だったがとにかく旨かった。

 海老に絡めて食べると甘辛くて旨かった。



「美味しいですっ! サクサクしていて海老もぷりぷりです!」



 俺はこのデートの日を楽しみにしていた。

 だから錬金術師としての能力を最大限振り絞り、事前に最高に

 美味しい回復薬☆を作っていた。

 

 柑橘風味に炭酸と甘みを加えた清涼飲料水をついに完成させたのだ。

 しかも回復効果もある。



「リルル。この回復薬を飲んでみてくれ、揚げ物に良くあうはずだ」



「この新作の回復薬はシュワシュワしますね! 揚げ物を食べても口の中がサッパリするので、これならいくらでも食べられちゃいそうですっ!」



「ふふ。リルルは本当に旨そうに食うな。おっと、口の周りが汚れているぞ」



 俺はデートの為に用意た新品のハンカチでリルルの口元のを拭う。

 海老のディップソースを選んだのはこの口を拭くタイミングを狙ってのものだ。

 なお、俺は普段ハンカチを持ち歩くほど紳士ではない。



「ありがとうございますっ。海老美味しいです。」



「ははっ。海老は逃げないぞ。ゆっくり食べれば良い」



 "海老は逃げないぞ"


 このセリフは昨日の夜に考えた俺流のウィットが効いた言葉のはずだ。

 海老がピョンピョンテーブルから逃げるイメージが頭に浮かんで

 思いついた言葉なのだが改めて考えると何が面白いのか分からない。


 いや、俺は変な薬とかやっているわけではないぞ?


 改めて口にしてみたらウィットも一切効いておらず、特に面白くも無かった。

 深夜のテンションは人の判断を誤らせるから危険だな……。


 でも、リルルはめっちゃクスクス笑っているから結果的に大成功だ。



「オイスターも美味しいです! レモンでも塩でもどっちもあいますねっ!」



「生だけでなく、焼きオイスターもあるぞ。確かにこの店は最高だな」



「カニのバター焼きも旨いです! このシュワシュワ回復薬ともあいます」



「このシュワシュワ回復薬は油もの料理でも何でもあうぞ。自慢の逸品だ」



 いやー。それにしても想像以上に旨かった。


 あの鍛冶師の人、見た目によらず舌が肥えているんだな。

 まあ、王都一の鍛冶師なんだから金持っているからよく考えれば当然か。


 今後は新鮮な海産物を食べられるようになるとか最高だな。

 豪華客船に乗って良かった。


 ツアー料金は返金してもらったことだし、

 また機会をみて2泊3日の近海クルーズに参加しよう。

 楽しみだ。今度はもっとゆっくり楽しみたい。



「おいしかったですね。散歩しましょうか」



「おう」



 おっ、リルルが段差につまずきそうだ。

 俺はとっさにリルルの手を掴んだ。



「はわわ……あっ、ありがとうございますっ」



「もしよければ、このまま手を繋いで歩かないか。今日は少し肌寒い」



「そうですね! 喜んでです!」



 それからは手をつなぎながら街を歩いた。

 少し気恥ずかしさのようなものはあったが、

 それよりも嬉しかった。

 そして少しドキドキした。



 王都では出店を開くことを許可している。

 そのため毎日お祭りの縁日の日みたいに賑わっていて楽しい気分になる。

 街の人々の顔も表情豊かで見ているだけで面白い。


 なんか、こう考えるとちょっと不思議な気分だ。

 前世の満員電車に耐える人々やオフィス街を死んだ顔で歩く俺の方がよっぽど、

 オンラインゲームのNPCっぽい感じだったのかもしれんな。


 そんな前世でも俺なりに精一杯生きたのだ。

 それについては、悔いはない。


 でも、もう一度この世界に人生を送らせてくれるチャンスを

 くれた何者かには感謝しても仕切れないな。



「あっ。掲示板がありましたよ。レイ、読みますか?」



「おう、読もう」


 その掲示板にはデカデカと衛兵の大活躍と、

 魔導学院の学生が野良ダンジョンを踏破した記事が載っていた。


「凄いですね。衛兵さんが違法奴隷商会と王都最大の盗賊団を一斉摘発したそうですよ。道具屋のおばあちゃんから無償で寄贈されたミスリルの剣が大活躍したって書いてありますっ。嬉しいですね」



「へー。そりゃ良い話だな。寄贈したミスリルの剣☆30本は有効活用されているみたいだな。今度機会を見つけて、売却分とは別に寄贈分を追加で20本くらいをおばあちゃんところに持っていくか。街の安全は俺たちのメリットでもあるからな」



「あっ、こっちには魔導学院の学生メンバーが野良ダンジョンを踏破したっていう記事がありましたよっ! あたしとレイが、夜間に通っている魔導学院の学生さんみたいですね」



「おお凄いな! って、このインタビュー記事に載っている学生達が手に持っている杖は全部俺が作ったマジシャンズ・ロッド☆じゃん。さすがエリート魔導学院の学生だな。金貨50枚の杖を親から買い与えてもらえるとは。羨ましい限り」



「魔導学院の生徒のご両親さんたちはこの王都を守ってきた者たちの末裔ということで、王都の中でも貴族とか」



 掲示板の中で小さな文字で書かれていたため俺だけが気づいていたが、

 あえてリルルの前で口に出さなかった記事が一つだけあった。



 "裏路地でダークエルフの不審者を捕縛。現在、衛兵所の留置所で取調べ中"



 俺は夜に一人で衛兵所に行く事を決意した。

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