第31話『王都一のドワーフ鍛冶師とエルフ服飾師』
俺は鍛冶師のお兄さんに会いに来ていた。
道具屋の孫娘が結婚前提に交際している彼氏さんらしい。
根暗っぽいあの子とは正反対な豪快なタイプの男だ。
普段のデートの時の会話とか聞いてみたい気もする。
どんなことを話しているんだろ?
性格は違うけど、高レベル錬金術師と王都一の鍛冶師っていう、
モノ作りという共通点があるから意外に性格あうものなのか。
うーん。気になる。
そんなことを考えながら俺は鍛冶師の男に声をかける。
「こんにちわ。はじめまして、レイです」
「おう。よろしく旦那!」
浅黒い肌とヒゲの部分はドワーフっぽいが、
身長は俺と同じ180cmちょっとくらい。
ドワーフも四分の一まで血が薄まると元の種族の個性は薄まるんだな。
事前に道具屋の孫娘に聞いていなければ、ドワーフの血がはいっている
って気づけなかったくらいだ。
外見はちょっとガテン系の人族って感じだ。
「よろしくお願いします。依頼品のコボルトダガーの進捗どうですか?」
俺は手を差し出し、握手をする。
いかにも鍛冶師って感じのゴツゴツした良い手をしている。
「ガハハ。めちゃくちゃおもしれぇ依頼してくれたな旦那。こんなに心躍る仕事は俺も久しぶりの事だったぜ。まさか、アダマンタイト鋼と、オリハルコン鋼と、ミスリル鋼で合金を作るなんて発想は俺には思いつかなかったぜ!」
「実際に3種の素材を合成したのは俺ではなくあなたの彼女さんです。あくまで俺はアイディアを出しただけで……」
「俺の彼女はめっちゃくっちゃかわいかっただろ?! 自慢の彼女だ。かわいくて超一流の天才錬金術師なんだぜ。大手錬金術師ギルドのボンクラ共にはあの女の良さが分からねぇんだろうなぁ。かーっ! 情けねぇっ! あんないい女この世にはいねぇぞ?」
あの万年白衣を着たマッド・サイエンティスト風の錬金術師女のことか。
まさかこのガタイの良いオッサンにノロケられるとは思わんかった。
いやはや随分と仲がよろしいようで。
「はは……。そうですね。おっしゃる通りだと思います」
社交辞令的に無難に褒めた。
褒めないと手に持った金槌で頭部を破壊されそうだからな。
「だろう!!」
「ですね。素晴らしい錬金術師です。ところで進捗は?」
「安心しろ9割は完成しているぜぇ!」
「9割ですか。仕事が早いですね。もうほとんど完成しているじゃないですか」
「んー。ぶっちゃけ武器としての機能は完成しているんだわ」
「何が足りないんですか?」
「俺にとって武器ってなぁ、我が子みてぇなモンだ。兵器としての完成度だけをクリアしただけじゃあ、俺的には落第だ。そんなわけで、意匠とかデザイン面は王都最優のエルフの服飾師にやらせている。協業って奴だ」
「性能だけじゃなくてっ、デザインまで気遣ってくれてありがとうございますっ」
おっ。リルルが珍しく怖そうな人の話に入ってきたな。
余程嬉しかったのかな。
「ガハハッいいってことよ!」
鍛冶師の男め。無遠慮にガシガシとリルルの頭を撫でやがった。
そういうのはセクハラだぞ、人として恥ずべき行いだ。
俺の嫉妬が燃え盛る。完全にムカ着火ファイヤーだ!
「リルルは先日の戦闘でタンコブが出来ているのでその変にしておいて下さい」
リルルは自分の頭を触りながらタンコブを探していた。
タンコブが有ると言ったな。あれは嘘だ。
「おっと、そりゃすまねぇな。おめーらも随分と頑張ったって聞いているぜ」
「いえいえ、どうもありがとうございます。俺たちも微力ながら頑張りました。とは言えほとんどは"城落とし"のバリスタの効果によるもので、あくまでも俺たちは敵の注意を引いたり、怪我人の救命活動が中心でしたが」
「まあ……何を隠そう"城落とし"を作ったのは俺なんだがな。役に立ったようで何よりだな。まあ、言ってみれば俺の子供たちが世界を救ったみてぇなもんだな。ガハハハハ」
確かにあのバリスタは強かった。だが、改善は必要だ。
今回は俺たちが居たから良かったけど、
同じような化け物が出てきたら対応出来ない。
今度それとなくバリスタ強化の方法を考えるかな。
そもそも千年の大災厄倒したから過剰戦力はもう必要無いかも知れないが。
「そうそう、最後の意匠の部分についてはエルフの服飾師の手を借りてんだ。デザイン関係はアイツがダントツだからな。もうそろっと、ここに来る予定になってっぜ」
「ああ。さっきお話しになられていた、噂のエルフの服飾師さんですか」
良い流れだ! リルルの服と靴の話も相談出来る。
コボルトダガーの話が一段落したら聞いてみよう。
「ああ。この王都の中じゃ一番の腕利きの服飾師だ。服を作ることに関しては最高の腕前の持ち主さ。意匠のような細かいデザインなんかも得意なんだ。俺は鍛冶の腕は一流だけど、デザインの方は詳しくはねぇもんで、たまーに頼っているんだよ」
「その最後の完成までの1割りのデザインを担当しているのが、エルフの服飾師さんっていうわけですね」
噂をすれば影がさす。
鍛冶師の工房にエルフの服飾師がやってきていた。
「はじめまして。私は美を探求する者。その腕前は世界一と自負しているわ」
スラッとした体型のいかにもエルフといった体型の女性だ。
つまり胸がまな板という事だ。
着ている服はなんというか凄いセンスが良い。
ジャスコの服がメインだった俺でもわかる程のセンスの良さだ。
「はじめまして。冒険者のレイです。そして、この子が仲間のリルルです」
「あらあ!? リルルちゃんはとっても可愛らしい子ね。エメラルドのような瞳に吸い込まれそうになるわぁ。金色の髪も素晴らしいわぁ……。肌も綺麗ねぇ。ああ、あなたはレイさんでしたっけ? はぁ。はじめまして」
天と地の差だな。良いけどよ。
どうせ俺はフツメンだよ。
「コボルトダガーの意匠はどんな感じですか?」
「こんな感じよ。特に、特徴的な犬の装飾の部分は力を入れて作ったわ!」
「うわあっ! 素敵なダガーですね! 見惚れちゃいます。それに装飾部分のワンちゃんもとってもかわいくて驚きました! かわいいだけでなく凛々しさも感じます。装飾品の部分は角度によってかすかに七色に光るのも綺麗ですね!」
「アダマンタイト、ミスリル、オリハルコンの持つそれぞれの素材の色味をうまい具合に調整したのよ。でも七色の光はあまり主張し過ぎると下品だからその辺りの調整には時間がかかったわ。よく見たらわかる程度に留めたわ。私の自慢の逸品よ」
俺は、このコボルトダガーの完全なる意匠をみて確信した。
俺は確信した。
リルルの新しい服と靴を作成してもらうなら、
このエルフの服飾師に頼む以外の選択肢は無いと。
「ちなみに、オートクチュールの靴や服も作れたりしますか? リルルのために作っていただきたいのですが。冒険者風のデザインでお願いしたいと思っています」
「リルルちゃんのためなら喜んでと言いたい所だけど、素材次第かしらね?」
「素材は"海龍神の革"です……それも超最高品質の物ですよ!」
俺は限界突破させた"海龍神の革☆"を広げて見せる。
服を数百着作る事ができるほどの超一級品の革の山である。
その現物を見た途端に、明らかにエルフの目付きが変わった。
「わおっ!! すっごい! もちろん。最高の物を仕上げちゃうわよ」
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