第28話『リルル超連撃で超勝利で超幸運!』
「レイさん、……あの巨大な魔核は……あたしが破壊しますっ!」
「相手は千年の時を生きる大災厄。危険だ……それでも、なお一人で行くのか?」
「はいっ!」
「なら俺はリリルを信じる。さぁ……今こそ鍛えた力を見せてこい!」
まあ、リルルに気付かれないようこっそり支援するけどな。
リルルに気づかれていない分はノーカンでお願いします!
だって、だって、ですよ? ちょっと冷静に考えてみて下さいよ。
本当に一人でリルルだけに任せた結果、大怪我されたら悲しすぎますよ。
そんなの俺には耐えられない、マジ無理。悲しすぎる。ショックで死ぬ。
すまんなリルル。俺は――悪に堕ちる。安全のために。
「デュアル・マジック・ブレード! フィジカル・ブースト!!」
厳密には、そんな魔法は存在しない。
正確には基礎魔法の"属性付与"と"基礎魔力操作"である。
こういうのは気分の問題なのだ。
例えば、仮にただのチョップでも、
本人が"トマホーク・チョップ"と言い張れば"トマホーク・チョップ"だ、
本人が"脳天唐竹割り"と言い張れば"脳天唐竹割り"なのである。
本人のモチベーションが上がる事が一番重要なのだ。
……たぶん。……事前に商標登録とかされていない限りは!
今度、リルルの魔法名を道具屋のおばあちゃんに相談して、
商標登録出願してみるかな。
……っと、そんなことは良いとしてっ!
リルルは基礎魔力操作によって身体強化を向上させ、
雷と風の属性コボルトダガー☆にエンチャントさせる。
リルルのコボルトダガー☆は俺が予備用に作っていた物だ。
リルルの愛用の物はいまごろ鍛冶師の炉で溶かされている。
「やぁっ!!」
リルルはクラウチングスタートで一気に速度を加速。
大腿部を初めとした脚部全体に血管のような青緑色の光が浮かびあがる。
にじみ出る魔力はその光景は神秘的ですらあった。
血管を流れる血液と同じように魔力も確かに身体を通っているのである。
リルルの今のこの脚部を見ればそれがよく分かる。
この世界の人間の体には魔力を全身に運ぶ、
血管のようなモノが確かに存在する。
もちろん、俺の中にもそれはある。
リルルは全魔力を脚部に集中させ、船首の先端で大きく跳び上がり、
クトゥルー・クラーケの5メートルの超巨大な眼球の上に着陸する。
バランスの悪い船首からのジャンプにも関わらず、
その飛距離はゆうに50メートルを超える。
リルルの全速力のジャンプによって加速された勢いのままリルルの
強烈な勢いの蹴りが……靴底が、クトゥルー・クラーケの眼球をエグる。
リルルはクトゥルー・クラーケの眼球の上に乗るやいなや、
5メートルを超える超巨大な眼球をめった刺しにする。
相手が魔法耐性を整えるよりも遥かに素早く二刀の刃に
火、土、雷、風、水と属性を次々に付与し、切り裂く。
ガラスを引っ掻いたような悲鳴も構わず、斬りつけまくる。
5メートルにも及ぶ眼球――大災厄の魔核が、
めっちゃくちゃにズタズタに斬り裂きまくられていた。
……俺は思った。
そういう一生懸命なところもかわいいなと。
念のためにこっそりリルルのサポートのために、
元々は2つの眼球があった部分に追加の麻痺玉☆を投げつけた。
突然麻痺が切れて動き出したら上に乗っているリルルが危ないもんな。
万が一を考えたら当然の配慮である。
2メートル大の空の眼窩に2つの麻痺玉☆が見事に命中。
少し楽しかった。ちょっとした運動会の玉入れ気分だ。
あとは、必要かは分からなかったのだが、
そこかしこにある小さな眼球も気味が悪かったので、
毒玉+1をひらすら投げまくった。
乗客の中には無数の瞳と目があっただけで奇声をあげながら
発狂をするものもいたのでやむない処置だ。
ちょっと瞳を見ただけで叫んだり発狂したりするのは大げさだなとは思った。
モンスターになれていない一般人はこういう物なのかもしれない。
俺も最初にゴブリン見た時はビックリしたもんな。
それに気味悪いのは事実だ。うん。
毒玉+1で片っ端から瞳を潰していったら乗船者の発狂は治った。
取り敢えずよかった。やっぱり毒玉は使える。
そのうち毒玉+1程度であれば道具屋に売っても良いかも知れない。
財源が増えるのは喜ばしいことだ。毒玉+2からは危険だから非売品だが。
儲けの口が増えれば、毎月リルルと豪華客船に乗れるかもしれない。
俺はひたすら毒玉+1を投げ続けた。
数万を超える在庫品の処分のためではない。
いや、それも少しだけあるが。
人間と同じ瞳の大きさの数千の目に見つめられるのだから、
少し気分も悪くなる。だから毒玉+1で潰す。
見つめられると発狂する人たちも多いしな。
それに、よく考えたら相手は触手の8体のリヴァイアサンの
部分も含めればクジラ10頭に匹敵する巨大なモンスターだ。
そんな巨体に対してどれくらいの毒が必要か俺にも分からない。
例えば、体重100キロ程度の人間に使う麻酔銃と、
体重3トンのシロサイに使う麻酔銃は質と量が全然違うらしい。
グラッ○ラー刃牙という超人気漫画に書いてあった。
有名な漫画に書いてある事なのだから事実に違いない。
やはり体の大きい敵には多めに毒や麻痺を盛った方が安全だろう。
どれくらいの毒薬や麻痺薬が適量なのか分からない。
念のためという精神は重要だ。
毒玉+1とは別に念のために麻痺玉+1も投げまくっておいた。
こちらも万単位の在庫があるからな。
でも決して在庫処分ではない。
うっかり効果が切れたらクトゥルー・クラーケの
頭上で戦っているリルルが危ないからな。
とにかく投げまくった。
俺は最後のおまけにもう一つクトゥルー・クラーケの顔面に
麻痺玉☆を投げた。麻痺玉☆を投げたらタコがビクンッとなった。
思わず痺れてビクンとなってしまったのだろう。
結果的にはタコのモンスターの痺れは抜けることなく、
一方的にリルルに切り裂かれて、
ついには1ミリも動かなくなって完全に死んだ。
おっと。忘れていた。そろっとバリスタを撃たせよう。
トドメは"城落とし"のバリスタ先生の出番だ。
「いまです! スキができました! バリスタ全弾撃って下さい!」
実は、既にそのタコは死んでいますが。
今後を考えるならバリスタで討伐された事にした方が都合良い。
毒玉と麻痺玉を知られたら戦争とかに使われかねない。
ダークエルフとかの手とかに渡ったらと思うと、正直俺は恐ろしい。
豪華客船のキャプテン。
元、漁師町の漁師長が大声で
「千年に渡り我々は海の大災厄に苦しめられてきた。だが、もうその時代は終わった。俺たちは神話の……伝承の災厄を人の手で討ち払った!! 我らは成した!! 神殺しを!!! 今や海は俺たち人の手に戻ったのだっ!!!!!!!」
神は殺してないのだけど、それくらいの偉業という意味だろう。
テンションが高い時の台詞に突っ込むのも野暮だ。
俺はテンション高めに拍手をする群衆に混じって拍手をした。
一人だけ拍手してなかったら浮いちゃうしな。
これからは安全に漁ができるようになったようで良かったね。
これからは肉だけじゃなく魚料理も期待できるようになるな。
「アンちゃん、ネエちゃん達も、あの巨大なモンスター相手に引かずに戦ってカッコよかったぜ! あの化け物に刃物が通じていたかは分かんねぇが、そういうことじゃねぇんだ。大事なのはハートだ! お前たちが勇気を振り絞って相手の注意を逸してくれたおかげで、俺たちがバリスタの発射に集中できた! 感謝するぜ!!!」
リルルの5メートルの眼球、つまりモンスターの魔核への
連撃と破壊が勝因なのだけどね。
あの眼球こそがクトゥルー・クラーケの弱点である魔核だったからな。
あれが完全に破壊されたから活動を停止したのだ。
でも褒めてくれたのは嬉しい。ありがとう。見知らぬおじさん。
今回のMVPであるリルルのことはあとで思いっきし甘やかそう。
リルルは千年の呪縛から解き放った張本人だからな。
とはいえ、だ。
豪華客船の二泊三日のクルーズで美味しい料理に舌鼓を打ちながら、
リルルとちょっとムーディーな感じになろうと思った俺の計画はおじゃんだ。
その点は少し残念だが。機会はまだあるさ。命短し恋せよ男子。
まあ。でも、千年の間漁師たちを苦しめていた害悪
モンスターを倒せたのだから満足だ。
それは本当に嬉しい。
……そんなことよりも忘れちゃいけないことがあるぞ。
そう、ドロップアイテムの回収だ。
リヴァイアサンとその大元のクトゥルー・クラーケが落とした
アイテムを回収しよう。
もしかしたら凄いドロップ品かもしれないからな。
リルルと俺はみんなが酒樽を開けてどんちゃん騒ぎをしているのを
尻目にいそいそとレアドロップアイテムを回収するのであった。
なんかご祝儀泥棒感があって気がとがめもしたが、
実際に倒したのは、リルルと俺なのだから問題ないだろう。
どんな効果があるアイテムなのかは宿屋でリルルと一緒に確認しよう。
ハズレならそれはそれでリルルも残念がってくれるから良い。
同じ出来事を一喜一憂してくれる人が居るというのはそれだけで幸せだ。
あと、クトゥルー・クラーケ討伐記念に
豪華客船にかかった金貨50枚は返金された。
おまけに金貨50枚ももらえて収支は黒字だ。
やったぜ!
あと、船の上のレストランの極上のコース料理も
無料で食べられて最高だった。
本当に最強に旨かった。
なんかすっげー凝った感じの謎ソースがかかった
デカイ海老とかが凄く旨かった!
あれ、なんていう海老なのだろう?
あと、カニも食べ放題で最高だった。
レモンを垂らしたり、塩かけたりして食べまくった。
新鮮なカニ味噌もめっちゃ食べた。
食べまくっていたらちょっと飽きた。でも旨かった。
あとは、名前の知らない綺麗に焼かれた魚が
高そうなお皿に乗って出てきたけど、これも旨かった。
たぶん高級な魚なのだろう。最高だった。
果物を凍らせたデザートも最高だったし、何もかも旨かった。
リルルも美味しいと言っていたから旨さ2倍だ。
やっぱり食べるのは楽しい。
ただ、一つ不満はある。
あのジャガイモを潰してジュースにした感じの冷たいスープ。
あの旨さは俺には理解できなかった。
リルルも「とても……つめたいジャガイモ汁ですねっ」と言っていた。
上等過ぎる料理は庶民の舌には分からないのかもなっと、俺は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます