第27話『千年に渡る大災厄の根源を討伐せよ!』

 ……おかしい。


 確かに8匹のリヴァイアサンは全部倒したはずだ。

 それは俺の目できっちり確認した。


 それならこの船の下から突き上げるような

 巨大な衝撃はなんだ?!



「船首の先に……巨大な……二つの目が……巨大なタコです!!」



 船員が叫ぶ。


 まさか……リヴァイアサンの一匹一匹が、

 このタコの化け物の触手だったってワケかよ……?

 悪い冗談だぜ……はは……!

 


 クトゥルー・クラーケ。

 千年の間、この世界の人々を苦しめてきた大災厄の真の正体である。


 伝承に残っている海龍リヴァイアサンはあくまで、

 "クトゥルー・クラーケ"の先触れ、

 本体の一部、触手に過ぎなかった。


 クトゥルー・クラーケは非常に知能が高く狡猾である。

 歴史書にその姿が描かれず、伝承にも残っていないのは

 その姿を決して人の目の前にあらわさなかったからである。


 そんな狡猾な化け物が体の八本の触手を全て破壊され、

 ついに姿をあらわす。


 狡猾な生物が姿を表したということはつまりは、

 生かして帰すつもりは無いことを意味する。



「……ははっ。本体の姿を見たものを活かすつもりはねぇってワケか」



 クトゥルー・クラーケはこの豪華客船をまるごと

 一気に破壊するためエネルギーを充填している。

 口の先端に肉眼で認識できる程の巨大な魔力の渦が出来る。



 俺は船の先端部、船首に立ち敵を迎え撃つ。




「こいよ! 千年を超える化け物とやらぁ!!」




 目の前の大ダコから超高温の熱線が船首に向かって放たれる。

 その船首の上に立つのは俺だ。


 その熱線の太さは巨木を思わせるほどのものであった。


 はは……。

 こんなもんまともに喰らったら船ごとオジャンだ。

 

 だが、相手が俺だ――お前に決定的に"運"が無かったな。



「うらぁっ!!」



 俺はクトゥルー・クラーケから放たれた、

 超膨大な熱量の熱線を新月の盾でパリィ。

 

 膨大な魔力の塊を消滅させる。


 新月の盾によってパリィされた魔力エネルギーは

 パリィ成功時にはいかなるモノも無効化される。



「無駄だ!!!」



 熱線に効果が無いと理解したクトゥルー・クラーケは、

 今度は攻撃方法を氷属性に切り替える。

 クトゥルー・クラーケは10メートルを超える極太の氷柱を放つ。



「てらぁっ!」




 俺は新月の盾のパリィで弾く。パリィが成功した瞬間に消滅。

 新月の盾は熱線も、氷も、いかなる魔力攻撃の一切を無効化する。


 いかに狡猾で知能の高い相手でも、初見でこの自体を理解はできない。

 だが、勘で"魔力"による攻撃が相手には通じないと判断し、

 攻撃方法を物理的な攻撃に即座に切り替える。



「次は、そうくるかよ……っ」



 クトゥルー・クラーケは既に死滅した自身の体の一部、触手。


 ……つまりリヴァイアサンの死骸を横薙ぎに船首の俺に向かって振るう。

 巨大な海龍の死骸が俺に向かって襲いくる。



「おらああああっ!!!」



 それを満月の盾のパリィによって受け流す。

 全ての物理を受けながし、更に、その後


 満月の盾のパリィ成功時の効果は相手の大きさや強さに関わらず

 有無を言わせずに硬直の時間を作ることが可能である。



 つまり――。



「これでも喰らいやがれぇっ!!!!!」



 俺は目の前の巨大なタコに最も毒液がもっとも浸透しやすい部分。

 つまり眼球めがけ麻痺玉☆と毒玉☆を投げつける。


 二つの玉が2メートル大の巨大な眼球にぶつかり薬剤が目を覆う。


 毒液が当たるやいなや、まるで、巨大なガラスを引っ掻いたような

 恐ろしい咆哮を放ちながら、クトゥルー・クラーケは目や口から

 滝のような血を巻き散らかしながらのたうちまわる。


 まだ油断ならない。

 ……のたうちまわる気力と体力があるということだ。

 もしかして油断させるための演技の可能性もある。

 これは油断ならない相手だな。

 もう一個ずつ投げとこう。


 在庫はたっぷりあるしな!


 俺は毒玉☆と麻痺玉☆をもう一個ずつ投げた。

 再び眼球に向けて投げようとしたのだが、毒玉☆によって眼球が腐食し、

 もと眼球があった部分はすでにただのホラ穴になっていた。


 俺は、ポッカリと空いた元々は2つの眼球があった

 タコの目に毒玉☆と麻痺玉☆を投げつける。


 クトゥルー・クラーケの内部の奥深くで薬がぶち撒けられたせいか、

 耳が割れんばかりの超音波のような奇声を発していた。

 

 ……すげぇ叫び声だな。どこからこの声発しているんだ?!


 その絶叫は超音波となり、船内の窓ガラスは片っ端から砕く。

 その絶叫を聞いただけで、意識を失う者も多かった。


 このクトゥルー・クラーケはちらこちらから血を噴き出しながらも、

 まだ、生きている。恐るべき生命力だ。



「さすがは千年の因縁を持つ伝承の大災厄……しぶといな」



 クトゥルー・クラーケは両眼が完全に潰されると、

 額が割れ、そこから巨大な縦状の眼球が現れる。

 その瞳の大きさは5メートルを超える。

 

 眼球と認識できないほどの巨大な瞳。

 ――そして、この瞳こそがこの大災厄の魔核、つまり弱点である。



「おっと……最終形態突入か……気合入れていかんとなぁ!」



 そして、クトゥルー・クラーケの全身の粘液をまとった表皮、

 リヴァイアサンの死骸からも何千もの小さな眼球が浮かび出る。


 その眼球の大きさは人の大きさと同じである。


 表皮から浮き出る眼球の大きさは人間の瞳と同じ大きさである。

 その数千を超える眼球がレイを宿敵として睨みつける。


 さて、どうしたものかな……。

 そんな事を考えている俺の後ろからよく聞き慣れた女性の声が聞こえた。

 リルルである。



「レイさん、あの大災厄の眼球――魔核は、あたしが破壊しますっ!」

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