第26話『海の大災厄! リヴァイアサンの群れを討て』
「リルル。俺たちで極力目立たずにリヴァイアサンを仕留める!」
「はいっ!」
「相手は海上の敵だ。今回のリヴァイアサン討伐は俺に任せてくれ!」
「戦闘はレイに、任せますっ!」
「リルルは、この船の怪我人を見つけ次第、高品質の回復薬をガンガン使ってくれ。場合によっては回復薬☆を使っても構わない。なんなら全部使っても構わない」
「はいっ。あたしは救命に専念します!」
回復薬☆の在庫数はゆうに1万はある。
数千個程度であれば使っても構わない。
道具屋に商品として卸さなければいけない約束の分が
なくなるがその時は頭を下げるだけだ。
乗組員は3000人程度。回復薬は十分に間に合うはずだ。
重要なのは超迅速に救命できる能力だ。
リヴァイアサンからの攻撃だけではなく船内の混乱によって、
人同士が意図せず傷つけあうこともあるだろう。
特に体の弱い老人や、女子供は危険だ。
場合によっては、リヴァイアサンの攻撃よりも人々の
混乱による行動で大怪我を負う者が多いかもしれない。
だからこそ、リルルが適任なのだ。
【速さ:20】という常軌を逸した速さを持つリルルは船中を
息継ぎもなく猛スピードで駆け巡ることが可能だ。
船内を高速で駆け巡り怪我人を発見次第、回復薬を渡し救命する。
更に回復薬も乗船者の数よりも多い。
回復薬の取り合いで混乱することも無いだろう。
「分かりました! あたしは救命に専念します! 戦闘はレイに任せます!」
この3000人の乗客が搭乗する豪華客船の中では、
俺は派手な行動は取らない方が良いだろう。
"城落とし"のバリスタが発射された瞬間に、
毒玉を投げバリスタで討伐されたように偽装しよう。
俺の存在はともかくとして、毒玉☆と麻痺玉☆の
存在を知られるのはあまりに危険だ。
今回の件に関しては俺の【邪神の寵愛】のせいではない。
リヴァイアサンはこの海に昔から存在する災厄だ。
リヴァイアサンの存在は千年前の歴史書にも記載されている。
この海域を支配する災厄級モンスター。
カテゴリーは地震、津波、山火事、台風等自然災害に分類される。
モンスターでありながらその理不尽さ対抗方法がないことから、
千年前の人間は対策することができず一方的に蹂躙するだけの、
リヴァイアサンを自然災害として扱うようになったのだ。
更に、理由は不明だがここ数十年の間は特に活動が活発だ。
過去においては、遠海の主と言われ遠くの海に遠征する際に
遭遇する巨大な海龍だと認識されていた。
だが、近年は王都の近海での出没も確認されている。
王都近海ではまともに魚が獲れなくなった。
その原因が何故か近海に出没するようになったリヴァイアサン。
生活に困った漁師たちが別の収入手段の確保手段として
始めたのが"豪華客船の近海クルーズ"であった。
千年前の歴史書にもその恐ろしさは記されている。
曰く、魚を無尽蔵に喰らい尽くし漁船も飲み込む。
曰く、その巨体はクジラすらも丸呑みにする。
「撃てぇっ! バリスタ発射!! 人の力をヤツに思い知らせろ!!!」
リヴァイアサン8体の内の1体にバリスタが突き刺さる。
なるほど、さすがは"城落とし"と名付けるだけの威力だ。
だが……それでは、リヴァイアサンは倒せない。
「くらえっ!」
俺は毒玉☆を目の前のリヴァイアサンに向け投擲する。
毒玉☆の中の薬剤がリヴァイアサンの表皮の粘膜に触れた瞬間、
巨大な咆哮をあげながら、全身の穴という穴から血を噴き出し死んだ。
リヴァイアサンが即死である。
「……ちょっとやりすぎた。バリスタで討伐した感じになってないな」
「ははっ! 殺れるぞっ! 恐れるなっ! 第二射! 撃てぇ!!!!」
心配は不要だったようだ。
"城落とし"の異名を持つバリスタの力を信用しているのか、
血を巻き散らしながら明らかな不審死をしたリヴァイアサンに
特に疑問を抱いていないようであった。
うむ。リヴァイさんの死について特に不審がられてないようだな。
ちょっとは雑に動いても問題なさそうだ。
緊急自体で冷静な精神状態じゃないからな。
俺程度がちまちま動いていても気にも止めないだろう。
決して俺の影が薄いとかそういう話ではないぞ?
「てりゃー!」
俺は目の前のリヴァイアサンに麻痺玉+3を投擲する。
麻痺玉+3が当たるとリヴァイアサンは目に見えて
動きが緩慢になる。
この状態であれば、バリスタ当て放題だ。
おお……いい感じでバリスタがグサグサ刺さっているな。
そろそろ頃合いか。
俺はトドメに毒玉+3を投げる。
おっ……毒玉のスリップダメージで死んだな。
弱々しく左右に揺れながらバタンと海に沈んでいった。
バリスタの直撃で死んだような感じに演出成功だ。
それじゃあ、また別のリヴァイアサンを仕留めに行くか。
あと残り6匹か。
リルルが怪我人を超高速での応急処置もうまく機能しているな。
それしても、改めて客観的に見るとリルルってめっちゃ速いな。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
そんなこんなで俺は同じように麻痺玉+3と毒玉+3を、
リヴァイアサンに投げつけ、8匹のリヴァイアサンを倒していった。
「やった! 俺たち人類の叡智の勝利だ!! もう神すら怖くねぇ!!!」
「"城落とし"は最強だ! もう俺たちに敵はいねぇ!!」
"城落とし"のバリスタを若干過信し過ぎだ。
クジラ程度なら問題ないだろうけど、リヴァイアサンを倒すのは無理だぞ。
だけど、そのおかげで俺が暗躍しやすくて助かったぜ。
俺はそんな風に安堵していると、船員が改めてざわつき出す。
「船が……いや、海が……揺れている?!」
確かに8匹のリヴァイアサンは全部倒した。
それは、俺の肉眼でしかりと確認済みだ。
それならこの船の下から突き上げるような
衝撃は一体なんだっ?!
明らかにリヴァイアサンを超える、
超質量の存在の気配を感じる。
大海は大きなうねりをもって揺れる。
そして、豪華客船の船首の先には……
「船首の先に……巨大な……二つの目……巨大なタコです!!」
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