第25話『リルルと豪華客船でバカンスだ!』

 ここは海の上……しかも豪華客船の上である!!

 うん……相当に奮発しました。



「うわー。海ってとってもひろいんですねー!」



「だろー! 楽しいだろー! ひゃっほーいっ!」



「やっほー! やっほー!」



「リルル、それは山の頂上で言う言葉だぞ」



「……あ、そうでしたね。船では何って言うんですか?」



「そうだな。"ヨーソロ"なんて良いんじゃないか?」



「よーそろー! よーそろー! よーそろー!」



 リルルは楽しそうに大声をあげて海に向かって叫んでいる。

 俺も真似して叫んでみた。

 楽しかった。


 俺たちは冒険をサボタージュしているわけではない、

 鍛冶師に預けたコボルトダガーが完成するまでの間の、

 ちょっとしたバカンスだ。

 

 たまには息抜きしないと逆に効率が悪い。

 そうだ、これは必要な休養なのだ!



 ちなみに俺とリルル以外の乗客は貴族服を着ているから

 場違い感がハンパないがリルルは気にしていないので、

 俺も気にしないぞ!!



 近海クルーズと言っても王都近くの近海を

 ぐるりと回りながら二泊三日するだけの

 観光客向けのツアーだ。


 でも、それで十分だ。

 とても楽しい。


 船の大きさはタイタニック号と同じくらい。

 乗客は3000名ほど乗れる船である。



 更に、俺とリルルはその船の一等室を借りている。

 部屋の広さは宿屋の部屋よりも大きいし、

 ソファーとかの座り心地も最高だ。



 まあ……船賃はめっちゃ高かったからな!



 なんとこの豪華客船の近海クルーズの

 二泊三日の料金は一人金貨25枚。

 俺とリルルで金貨50枚である。

 つまり……500万円だ。


 とはいえ、

 お金はあるところにはあるようで予約を取れたのは、

 道具屋のおばあちゃんのコネである。

 コネが無ければ1年待ちだった。


 というのもおばあちゃんの知り合いがこの船で働いているのだ。

 おばあちゃんが招待状を書いてくれたおかげで、

 優先的に乗船することができた。


 本来予約を取っていた人も、キャンセル扱いではなく、

 一等客室より更に上のスイートルームに同額料金で宿泊できる

 ことになったようでみんながハッピーになったので結構な事である。



「それにしても、随分と船賃高いのに人がいっぱいいるね」



「海にはロマンがあります! ロマンはプライスレスですっ!」



 リルルのキラキラといた瞳で言われると何も言えない。

 "プライスレス"の意味を知っているかは謎だ。



 俺は経験より物質の対価に金貨を支払う方が

 なんとなく納得感があるのだが、世の中の

 全員が全員そういうわけではないらしい。



 二泊三日で、2人で金貨50枚なんていう馬鹿高い

 一等客室に宿泊したがる客が思いのほか多いのだ。



「この船の料金が2人乗りで金貨50枚。2回乗れば金貨100枚だ」



「高いですけど。その価値はあるかとっ!」



「そうだな。俺もその意見には同意する。それと同時に、一生モノのミスリルの剣☆の道具屋の販売価格が金貨100枚ってのも妥当だと、改めて確信した」



「そうですね。強い武器を買うとたくさん冒険できるのでもうかりますっ!」



「そうだな。金貨100枚で購入してもその武器で金貨500枚……いや、もしかしたら金貨1000枚稼げるかもしれない。そう考えれば妥当なのかもしれない」



「前向きな考えですね。さすがレイですっ!」



 "モノ消費からコト消費へ"なんてテレビでも言われていたけど、

 今は感覚として分かる気がするんだ。

 確かに手元に残らない無形の物にも価値はあるのかもしれない。


 なぜなら俺はいま、

 この経験に金貨50枚に見合うだけの価値があると思っているからだ。

 隣にリルルが居るからそう感じるのかもしれない。




   ◇  ◇  ◇


  


 この船には多くの魔法使いが乗船しているらしい。

 風魔法や水魔法を使って運航しているようだ。


 蒸気タービンの代わりに魔法の力を使ってこの

 巨大船舶を動かしているのだ。

 魔法ってすげー。


 魔法の応用力も考えれば科学に負けてない。

 攻撃魔法だけが魔法じゃないんだなと、

 この船に乗るだけで身をもって思い知らされる。



「レイ、きょうは天気がいいですね! 気持ちがいいです」



「豪華客船サイッコー! 空気がうめー! ちょっと塩っぽいけど!」



「たまには二人だけで、こんな気軽な旅行もたのしいですねっ!」



 思えばモンスター討伐なしの純粋な旅行とかしてなかったな。

 もう少しお金貯めたら一緒に、仕事ではない旅行に行きたい。



「海ってキラキラしていてキレイですね」



「そうだな」



 リルルは海を見た事がないって言ってたから見せてやりたかったんだ。

 俺も子供のときに一度連れて行ってもらったきりだから、

 あまり偉そうに言えるほどの経験はないんだけど。


 でも、あの日食べた焼きトウモロコシとかき氷の味は今も覚えている。

 リルルにも同じような楽しい思いを感じてもらいたい。


 生前は海とは縁遠かった。

 なにしろ修学旅行先も中学は東京、

 高校は京都だったから海とは縁遠かったからな。



「それにしても、この船ほんとおっきーですねー! 本物の町みたいです!」



「ははっ。確かにそれくらい大きいかもな。店も多いし、プールまであるぞ!」



「船なのに、レストランっぽいお店もありました! おみやげ屋さんも!」



「ふふん。更にこの船のメシは究極に美味いらしいぞ! 楽しみにしときな!」



「うわああああああああー! すっごーいたのしみです!!!!!」



 リルルは色気よりも食い気だな。分かりやすい。

 甲板の上をあっちこっち忙しく駆け回っている姿はまるで犬のようだ。

 うん。かわいいな。



「レイ、この船って、どうやって動いているんでしょう?」



「魔法使いが大勢乗っていてね。風魔法を使っているんだ」



「風の魔法ですか?」



「そう。風魔法をこの船の帆にぶつけて推進力を生み出してるんだ」



「"すいしん力"ですか? ちょっとムズカシいです……」



「確かに難しいよね。そうだな、俺の手のひらの花びらをそっと吹いてごらん」




 豪華客船が出向する際に渡されたブーケットの花カゴの、

 残りの花びらがポケットに残っていたのでそれを手のひらの上に乗せた。


 リルルは俺の手のひらの上に乗っている、ピンクや黄色や赤の

 色とりどりの花びらをふーっと吹く。

 

 風に乗って、花びらは空高くに舞い散る。




「うわぁっ。飛びました! きれいですね!」



「そのリルルの息が、風力だ。超強力な風を帆に当てて花びらのように進むんだ」



「レイの説明は分かりやすいです。いつもありがとうです!」



 実はいくつか説明を端折っている。

 この船は厳密に言えば船底から水流を生み出すための水魔法も使っている。

 推力を生み出しているのは風魔法だけではないのであるが、

 この話は難しいのでナシナシ。



 それにしても、船舶用蒸気タービンなんてなくても

 魔法があれば同じ事が出来るんだな。

 この世界は中世ヨーロッパ風に見えるけれどもできることは

 現代レベルだったりするんだよな。侮れないな。



 そんなこんな話していると突如船内が慌ただしい雰囲気だ。

 何かしらのアクシデントがおこったようだ。 



「おい!……リヴァイアサンが出たぞ!」



「落ち着け!……この船の"城落とし"――超大型バリスタなら殺れるっ!」



「リヴァイアサン一匹じゃありません……!……2匹、いや、5匹?!!」



「ひえぇ……その数……八匹。もう終わりだあああああ!!!!」



「落ち着け! 戦闘員は所定の場所でバリスタを構えよっ!!!」

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