第24話『狂気の錬金術士と王都一の鍛冶師』
「……かくかくしかじか……孫娘さんのお力をお借りできますか?」
道具屋のおばあちゃんに相談したら、
すぐにおばあちゃんの孫娘さんを紹介してもらえた。
話が速いのはとても助かる。
孫娘は目の下に深いクマのある女性だ。
髪はボサボサで、服もいつもよれた白衣。
いかにも研究一直線といった感じの女性だ。
今は日中の間は、おばあちゃんと交代で、
お店のカウンターで客対応をしている。
俺は孫娘さんに向かって話しかける。
「……というわけなんです。鋼材を3種合成できますか?」
「ボクなら余裕で出来るデス。4種までは確実に合成できるデス」
4種類の合成まで出来るのか。
さすがは専業の錬金術師だな。
俺は2種合成までしか出来ないからなぁ。
やっぱ餅は餅屋だよ。
まぁ、俺も一応は餅屋ではあるんだが。
「それじゃ。アダマンタイト鋼、オリハルコン鋼、ミスリル鋼の3種の合成をお願いしたいです。かなり難度の高い鋼材だと思いますが、大丈夫ですか?」
「ふふん。ボクにかかれば問題無いデス。ただ、ちょーっとだけ合成する時の配分がムズカシイいかもデスが……。まぁ、ボクなら大丈夫デス。ボクは錬金術の知識に関しては超天才デスからっすねっ!」
凄いな。4種合成のスキルだけでなく素材に関係なく合金を作れるとは。
大手の錬金術師ギルドとしても手放したくない人材だったと思うのだけど。
「えっと難しいというのはどうしてですか?」
「ボク程度になると3種の素材の合成とかは超楽勝なんっすよ。一度は5種合成にも成功させた事があるくらいデスッ。えっとデスね。ムズカシイのはそうじゃないところなんっす」
「俺も錬金術師の端くれとしてご教授いただけると嬉しいです」
「うーん。実際はかなり複雑な話なので、ハショッた上で簡単に説明するっすね。まず"ミスリル"は非常に魔力伝導率が高い鋼材デス。でも、逆に"オリハルコン"は反魔法が特徴の鋼材デス。この相反する鋼材の比率の調整がムズカシイんっすよぉ」
「ふむふむ。なるほど」
なるほど……分からん。
「あとは、世界最強、最硬の鋼材なのに一切特殊な性質を持たない純粋な鋼材である"アダマンタイト"をどういう配分で調合するか……なかなか悩みどころっす。それぞれの鋼材の個性を潰さず、むしろ相乗効果を生み出し長所を倍増する……きひひっ。たのしそっそね! こりゃ、ボクにとってはさいっこーのおもちゃだ!!」
「きっ……気に入ってもらえてよかったです」
「ところで、リルルっちの戦闘スタイルのコダワリとかってあるっすか? それにあわせて配合を調整するっすよ? 戦闘スタイルによって3つの鋼材を調合する時の配分を大きく変えなきゃいけないんすよっ!」
「えっと、えっと……」
うまく応えられず、レイに助けを求める視線を投げる。
レイはそれに気づき、助け舟を出す。
「リルルの戦闘スタイルだが、素早さを生かして敵の懐へ高速接近。接敵後は二刀で連撃。そして、敵の反撃が来る前に回避するスタイルだ」
「ふむふむ……」
「さらに、基礎魔法の魔力操作を使い武器に属性エンチャントをかける」
「ねるほどデス」
「ひひっ。大体理解しました……なるほどデス。反魔法の特性を持つ"オリハルコン"と魔力伝導率の塊である"ミスリル"……相反する鋼材の性質をうまいこと融合させることによって逆説的に現状より魔力伝導率を15倍以上に向上させるデスッ。更にアダマンタイトによって硬度も30倍に向上。面白そうデスね……ふひひ。やらせてください……いや絶対ボクにやらせるっす……やらせないとお前を末代まで呪うっす……死にたくなければボクにこの仕事をやらせるデス」
なるほど。少しだけクビになった理由が分かったぞ。
本当にこの人に頼んでも大丈夫だろうか。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
錬金術師ギルドの人も大変だ。
死にたくないもんな。
生きねば。
「ありがとうございます。お願いします。最終的には今のコボルトダガーを溶かしてもらって。12本のコボルトダガーを作って貰いたいんですが、オリハルコンやアダマンタイトを扱える鍛冶師とかいますかね?」
12本必要なんだよな。
限界突破させたコボルトダガー2本を作るために12本必要だからね。
12本も作るからこんなに鋼材を集めてきたのだ。
「いるデス。ボクの彼氏が王都一のチョー凄い鍛冶師っす! ドワーフ族のクオーターつまり血の内の四分の一はドワーフなんすが、なかなかの男前っす。筋肉とかバリヤベーデス。げへへっ……。それに伝統を重んじるドワーフと違って、こういう感じのゲテモ……変わり種の依頼も請け負ってくれるんっすよ。さすがボクの彼氏っす」
一瞬、ゲテモノと聞こえた気がするが……。
まあ良いさ。
それにしても衝撃的だったのは、孫娘さんに彼氏が居た事だな。
強烈な陰キャオーラから異性に関心ないと思っていたのだけど……。
なんか普通に偏見をもってしまった自分が情けない。
人の心配をする余裕なんてなかったでござる。
タデ食う虫も好き好きって言うからな。
ってさすがに鍛冶師の彼氏さんに失礼か。
偏見は良くないな。
魔導学院のインテリハゲにも彼女が居るかもしれん。
マンツーマン授業の時にさり気なく聞いてみよう。
そして安心を得よう。
彼女が居たからといってなにがどうって話しではないのだが。
別に俺はそんな細かい事は気にしないのだが。
まったく全然気にしないのだがなっ!
HA HA HA HA HA
「あーっちなみに、納期は1ヶ月くらい掛かるけどいっすか?」
「まったく問題無いですよ。その間に特訓したりダンジョン潜ったりしときます。おばあちゃんのお店に定期的に納品しなきゃいけない物もあるので」
「リルルっちは愛用のコボルトダガー1ヶ月お預けだけで大丈夫デス?」
「だいじょぶですっ。さみしいけど、がんばります!」
まあ。既に、1階層でマジシャンズ・ロッド集めるついでに、
予備のコボルトダガー☆2本を事前に作ってたから、
純粋な戦闘面では問題ない。
リルルが最初のコボルトダガー☆に拘るのは俺からのプレゼントだからだそうだ。
なんか嬉しい。
「あーっと。ちぃっとばかり言い忘れてたっすが、今回の仕事はちぃっとばかし特殊な作業になるので、金貨500枚お願いするデス」
金貨500枚。……金貨500枚。
高ぇっ!
……5000万円。
いやさ、そういう重要な事は最初に言ってくれよな?
俺の田園調布とマイホームが遠のいていく……。
「あの……あたしの為の武器なので金貨500枚は、全額あたしがしはらいますっ! そのかわり、コボルトダガーのコボルトの"ワンちゃんの意匠"はがんばってください! ほんのすこしだけかわいくしてくれてもいいですよ! でも元の凛々しさも残してください! 鍛冶師さんにはそこを拘るように伝えてくださいっ!」
リルルが珍しく熱弁していた。
あのコボルト……というか"ワンちゃんの意匠" 気に入っているんだな。
まぁ。かわいいもんな。
「りょ~かい。彼氏っちには、意匠には特に力を入れて作るように伝えるデス」
少し遅れて俺が切り出す。
「俺もリルルには助けられている。半額の金貨250枚は俺が持つぜ」
「レイさん……」
うるうると感動の目を俺に向けている。
本当はかっこつけて全額支払うと言いたかった。
というか元よりそのつもりだった。
でも残念ながら現在の手持ちで金貨500枚は無い。
まあ、かなりの特殊仕様の加工でも市場相場的に金貨50枚くらいだと
皮算用していたのだが……甘かったな。
魔導学院の受講料、制服一式、宿賃、その他雑多な諸経費で
全額支払う余裕が無かったんだよな。
生きていくだけで金掛かる。
ちなみにリルルの完全突破版の魔導学院の制服に必要以上に
お金をかけまくったのは単なる俺の趣味だ。許せ。
その後、魔導学院指定の女学生用ローファーも買って限界突破させたぞ。
夜間コースで一般学生はいないので見るのは俺しかいないけど、
俺はリルルの学生服姿が見られて幸せです。
結論、すべて性癖さんが悪い。
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