第19話『リルルと噴水広場でデート』
ここは王都の中央通り。
この街の噴水広場はちょっとした市民の寛ぎの場だ。
いまは、リルルと俺とでダンジョンで入手したアイテムを
換金しにいくために、道具屋のおばあちゃんのところに
向かっている最中だ。
夕暮れ時にも関わらず王都の街は随分と活気があるな。
毎日がお祭りの縁日のようなこの街の感じは俺は好きだ。
毎日日替わりで変わる出店を見るだけでも楽しい。
おっ。今日は肉の串焼きの店が出店しているようだ。
リルルの好きな食べ物だな。
俺も好きだけどな。
「レイ、いいにおいがしますっ……これはっ、肉です!!」
早速いい反応だ!
「ひゃっはーっ! こりゃ肉のにおいだっ!」
まんまと出店の串肉の屋台から香ってくる
串肉のにおいに釣られた俺とリルル。
肉の香ばしくてジューシーなうまそうなにおいにあらがうのは、
ダンジョン帰りの空きっ腹には無理だよなあ。
俺は肉の串焼きを5本ずつ購入し、噴水前の公園のベンチに座る。
噴水前の串肉の出店は個人的にお気に入りのお店だ。
ここのお店の串肉はかなりの肉厚なのである。
厚さ的にはステーキ肉と同等の厚さだ。
それが、シシケバブみたいな感じでちょっと太めの
鉄串に刺さっているのだ。
かなりジューシーな肉で焼き加減もレアなんだよな。
肉汁をこぼさずに食べるのは中々の至難の技だ。
リルルも結構よく食べる。
間食代わりに串肉5本なんてペロリだ。
まあ、俺も食いっぷりに関しては負けてはいないが。
リルルが偉いのは、間食をガッツリ食べても、
夕食は別腹でしっかりと残さずに美味しそうに食べることだ。
リルルの食いっぷりの良さを見てると、俺も食が進む。
お腹いっぱい肉が食べれるのはそれだけで幸せだ。
それに、たくさん食べれるってことは元気な証拠だよな。
特に肉体が資本の冒険者にとってはいいことだ。
夕暮れのどことなく寂しさを感じる陽光に照らされた噴水の水しぶきが奇麗だ。
俺はリルルの隣で噴水の水しぶきをぼーっと眺めていた。
噴水から吹き出る水の一滴、一滴が夕やけの光に照らされて、
まるで瑠璃色に輝く宝石のようでもある。
「リルル。肉ばかりだとむせるだろ。水代わりに回復薬飲むか?」
「こほっこほっ。はい。ぜひいただきたいです!」
俺はサイドポシェットの回復薬☆を取り出しリルルに渡す。
回復薬はほぼ、清涼飲料水代わりに飲んでいる。
「助かりましたっ! それに、レイの回復薬は本当に美味しいので大好きです」
案の定急いであまり肉を噛まずに飲んだせいか、
リルルの器官に肉が詰まったようだ。
レア肉だからきっちり噛まないと喉に詰まりやすいんだよな。
それに屋台の肉は比較的安いの使ってるからちょっと筋っぽい部分がある。
それはそれで俺は好きだし、ここの出店の串肉は好きなんだけどさ。
「回復薬は特にひと仕事した後は格別だよな。肉とも相性ばっちしだ!」
「そうですねっ!! 肉と回復薬でつかれもいっきにふきとびますっ!」
リルルは屈託のない笑みでにっこりと笑う。
「リルル。冒険者の仕事……楽しめてるか? 辛くないか?」
俺はなんとはなしにリルルに質問した。
心のどこかで、心配していたのかもしれない。
「辛くないです、楽しいです! そのっ……レイと一緒に居られますしっ!」
「ははっ。嬉しいことを言ってくれる」
仮に、お世辞でも嬉しい言葉だ。
俺は照れ隠しに、冗談混じりの回答をしようと考えた。
だけど、リルルの真っ直ぐな瞳を見てそれをやめた。
「俺もだ。リルルと冒険するのは楽しい。だからこれからもよろしくな」
「はい。ふつつかものですがっ、よろしくおねがいしますっ」
俺とリルルは歩きながら回復薬を飲む。
夕暮れの王都の町並みはキラキラときらめいていて奇麗だ。
太陽と夜の帳が混じり合う黄昏時が俺は好きだ。
俺はこの王都の街並みが好きだ。
リルルと一緒になってからはもっと好きになった。
この王都の街に自分でできる範囲で貢献していきたいとも思っている。
「そういえばレイはなんでエンジェルリング3個作ったんですか?」
「1個はお世話になってる道具屋のおばあちゃんにプレゼントしようと思ってな」
「……っそうだったんですねっ!!」
リルルは、どこかしら"ほっとした顔"をしている。
表情が顔にでる嘘のつけないタイプだな。
いや、俺のリルル鑑定士レベルがあがっているせいだろうか?
リルルは俺が新しい冒険者を雇うと思ったのかもしれない。
そのためにアイテムを作っていると思ったら心配にもなるよな。
そうだとしたら俺は配慮が足りなかったのかもしれない。
今後は細かいこともできるだけリルルと相談しよう。
こういう細かいすれ違いの積み重ねで最終的に悲しい結果に
なったのを俺は一度間近……両親で経験しているからな。
日々の何気ない意思疎通も大切にしていこう。
「プレゼントは指輪じゃなくて一手間加えてリングネックレスにした」
「いいですね。おしゃれですっ。でも、どうしてですかっ?」
「おばあちゃん今も旦那さんの指輪を大事そうにつけているからな」
お亡くなりになられた旦那さんの指輪を着けている上で、
更に指輪をするというのもおばあちゃんの心情的に微妙だろう。
「ですね! 指輪をはずさず、リングネックレスならつけられますからねっ」
「チェーンも普段着にあうのを選んでもらった。喜んで貰えると嬉しいな」
「大丈夫ですよっ、その気持ちだけで喜んでもらえると思いますよ」
お店の人に高齢の女性でも普段着にあわせやすいデザインの
チェーンを選んでもらった。だから多分問題ないはずだ。
俺はそういう微妙なセンスよく分からんからな。
6本買ってネックレスチェーンも限界突破で最高品質に向上しておいた。
あくまで品質が上がるだけで特に効果値が向上するわけではない。
あくまでプレゼントを贈る者の自己満足の問題だ。
おばあちゃんの道具屋は目と鼻の先だ。
「凄い!!……お店の外観がゴージャスになってますねっ!!!」
「おっ。おう……裏通りのお店に似つかわしくない高級店の風格だな」
おばあちゃんの道具屋は随分と繁盛しているようだ。
マジシャンズ・ロッド☆が相当売れたという事だろう。
儲かっているのは結構なことだ。
それにしても店のなかは随分人が多いなぁ。
お店のカウンターで働いている女の子は誰だろう?
新しく雇った従業員さんかな。
「あっ、レイさん、おばあちゃんが手まねきしてますよ」
「……んっ、なんだろうな?」
俺とリルルはおばあちゃんの手招きに応じて店の中に入る。
店の中に入れてくれるとは珍しい。なんだろうか?
「リルルちゃん、レイちゃん、すまないねぇ。おかげ様でお客が増えてねぇ。今の状況だと目立ちすぎるから、レイちゃん、リルルちゃんとの特別な商談についだけは今後お店のなかでやらせてもらえると嬉しいよ。お手間をかけて申し訳ないねぇ」
「気にしないで下さい。ご繁盛おめでとうございます!」
「あの、カウンターで受付していた子は、新しい従業員さんですかっ?」
「ああ……、あの子かい。あの子は孫娘だよ。あの子は錬金術師の大手ギルドで働いていたんだ。だけど、なかなか口下手で人見知りする性格のせいか人間関係がうまくいかずにクビになったそうだ。世知辛いねぇ。寒空の下に置いとくわけにもいかないからうちで雇ったんだよ。見習い期間は衣食住付きのタダ働きだけどね。ふふ」
「お孫さんでしたか。仕事には向き不向きあるので働き先を変えるのも一つの道なんじゃないかなと思います。それにおばあちゃんが上司なら人見知りの子でも人間関係に苦労することも少なそうです。俺は凄くいいと思いますよ!」
「まあ。人生長いからね。孫娘もこの店でゆっくり仕事をしながら自分の人生を見つめ直せばいいさ。ここでずっと働くもよし。別の道に進むのもありだ。ゆっくりとここで働きながら決めればいいんじゃないかな、と私は思うね」
なんとなくほっこりする話だ。
それにしても孫娘さんは俺と同じ錬金術師か。
大手錬金術師ギルドに所属してた経歴もあるみたいだし、
いわゆるエリートだったのかな?
こんど【コボルトダガー☆】を更に強化する方法とか聞いてみるか。
大手錬金術師ギルド秘伝の方法とかあるかもしれないしな。
「本題ですが、今日も買取お願いしたいんですがいいですか?」
「もちろんさ!リルルちゃん、レイちゃん、今日は何を持ってきてくれたのかい?」
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