第17話『炸裂! リルルの炎の魔法剣』
昼はダンジョン五階層、夕方からは魔導学院、
夜は宿屋でマンツーマンレッスン。
俺たちの最近の日課である。
俺の部屋でのマンツーマンレッスンの途中で
リルル寝落ちするのはご愛嬌である。
新しい事を学ぶのは楽しいようなのだが、
どうしても一度に学ぶと眠くなるそうだ。
それと一つ分かったことは、リルルは魔力値が高いのだが、
詠唱を覚えなければいけない魔法は苦手のようだ。
人には得手不得手があるから、仕方がない。
その代わり、武器に属性を付与する属性付与魔法を習得した。
【エンチャント】と呼ばれる基礎魔法である。
基礎魔法とは初級魔法よりも下位に位置する魔法である。
だが、全ての魔法は基礎魔法の基礎魔術操作の習得から始まる。
超高位魔法を習得する者も必ず一番最初は基礎魔法から学ぶ。
いわば、魔法を司るものにとって登竜門のようなものだ。
基礎魔法を習得することにより体内の魔力を操作できるようになる。
魔法の技術が上達するとはこの基礎魔力操作を更に高次のレベルで
実現するようになることを意味する。
例えば、基礎を習得した上で習得が可能な、
初級魔法"ファイアボール"や、"ライトニングスピア"、
これらの魔法もあくまでも魔力操作の延長線上にある。
初級魔法以降の魔法は"詠唱"という魔法発動の
トリガーとなる"魔法の共通イメージ"を想起する事で、
魔力をより複雑に操る事が可能になる。
"ファイアボール"も同じような理屈で発動している。
リルルが習得したのは基礎魔法【エンチャント】である。
例えば、火属性付与のエンチャント・ファイアであれば
コボルトダガーに炎の属性を付与できる。
エンチャント・ファイアの威力は凄まじく、
金属プレートの鎧もまるでバターのように切り裂くほどだ。
これはエンチャントという魔法が強力な魔法なのではなく、
リルルの常軌を逸した尋常ならざる魔力の素質によるものだ。
これだけ強いのであればわざわざリルルが
ファイアボールを覚える必要もない。
遠くの敵には毒玉を投げよう。
リルルは魔法を覚えたことがよほど嬉しいのか
暇さえあれば魔法を使っている。
かわいい。
リルルが魔法を使うのが楽しそうなので
俺もインテリハゲ先生の授業を真面目に
ノートに書くのが苦痛ではない。
というか、インテリハゲ先生、たまにウィットの効いた
小洒落たジョークとかたまに言うし、
授業はそこそこ面白い、と俺は思う。
外部の受講者がメインの夜間部に回される講師は
出世コースから外れた人らしいけど、
そんなの関係ねぇな。
◇ ◇ ◇
俺はリルルとともに魔導学院で習得した魔法を試すために再び、
5階層フロアボスクリオネ・ロードの元に向かう。
リルルの高速斬撃だけで倒しきれず、
俺が毒玉を使ってしまった相手だ。
この初級ダンジョンでは様々な種類のモンスターを
リルル一人で踏破できるようにするのが目標だ。
俺でも初心者ダンジョンはソロで踏破できたダンジョンだ。
……まっ、俺が踏破した時は【邪神の寵愛】なかった。
ダンジョン内では強いモンスターなんて出なかったし、
毒玉投げてパリィ祭りだけで終わっただけだから、
リルルには偉そうなことは言えないのだがな!
さてさて、クリオネ・ロードだ。
こいつ第一形態の時は大きい天使か妖精みたいな形態なのに、
第二形態は宇宙的恐怖を感じさせる触手の化け物になるからなぁ……。
不気味なモンスターだ。
リルルは度胸が付いてきたせいか、第二形態にも動じないから偉い。
そしてかわいい。
「リルル、特訓の成果を見せるぞ!」
「はいっ! エンチャント・ファイアっ!」
エンチャントとは、自身の魔力を装備している武器に付与することができる
基礎魔法だ。基礎魔力操作自体は子供でも学べば使える程度のものだ。
ただし――リルルの魔力の値は【魔力:10】。
魔力の潜在的な素質だけで言うのであれば賢者クラスの素質の持ち主である。
基礎魔法の基礎魔術操作であれその威力は桁違いである。
リルルの左右の手に握られたコボルトダガーの刀身が真紅に染まる。
地面を靴底で蹴り、クリオネ・ロードに向かって弾丸の様に一直線に駆ける。
リルルの高速の斬撃がクリオネ・ロードを斬りつける。
おお……いい感じにリルルが切った所が焼けてる!
さすが鉄をも溶断する剣戟だ。
クリオネ・ロードはリルルの高熱のダガーの連撃を全身に受ける。
以前はここで再生されたが今回はどうだ……?
やったぜ、やはり焼けた箇所は再生不可能なようだ。
クリオネ・ロードの超再生ですら治癒不可能
がんばれ! リルル!
「ナイス! リルルの魔法バッチリ効いてるぞ!」
「やったですっ! 魔法剣強いですっ!」
凄いぞ。そしてかわいいぞ。
でも、それは魔法剣じゃないけどな。
……っと、クリオネ・ロード第二形態移行か。
想像以上にダメージが入っていたみたいだな。
それにしても捕食形態はグロい。
第一形態の妖精のようなかわいらしい外見から、
一気にエイリアンとかに出てきそうな外観になるんだ。
始めた見たやつはトラウマになるぞ。
「第二形態だ! 一旦、リルルは俺の後ろに後退」
「はいっ」
俺は、第二形態突入時にクリオネ・ロードが放つ、
触手乱舞と毒液吐きをパリィで受け流す。
「いまだっ! ヤツの核を破壊しろっ!」
「いきますっ!」
リルルがクリオネ・ロードの上に立つ。
リルルは核をエンチャント・ファイアで強化されたコボルトダガーで破壊する。
「レイ、勝ちました! 魔法剣の勝利です!」
「学校行ってよかったな!」
「はいっ! 勉強するの楽しいですっ!」
「ははっ。そうか。そりゃ良かった」
「レイ、今日は雷の魔法剣を覚えたいですが良いですか?」
「良いね。一緒に勉強しよう」
実は、リルルの炎属性を武器に付与する攻撃は
高位魔法の魔法剣じゃないんだけどな。
実は基礎魔法の基礎魔力操作を使っているだけなんだ。
でも本人が魔法剣というんだからそれでいいや。
実際強いしな。
「レイ、ドロップアイテムのエンジェルリングです」
「おおサンキュー。それじゃ俺も装備しようかな」
まあ。最終的には5個ずつ重ねて、
リルルと俺の分のエンジェルリング☆を
作るんだけど、取り敢えずはこれで十分だ。
「あたしとレイ、おそろいの指輪ですね」
「そうだな」
「なんか、その、ちょっとだけ……照れますねっ」
少し頬を赤らめているが良い笑顔である。
「さーて。それじゃ、魔導学院いこうか」
「はいっ! 楽しみです」
黄昏時の街の中を歩きながら今日も二人で
魔導学院を目指すのであった。
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