第15話『経験値倍増の指輪を集めよう!』
「リルル、コボルトダガーの使い方は慣れてきたか?」
「はいっ、二刀の戦闘スタイルにも慣れましたっ!」
「確かに、ドンドン動きが良くなってきていると俺も思うぞ」
「そんなっ、あたしなんてまだまだですっ!」
お世辞抜きにリルルの成長は凄い。
素直な性格だから教える俺も楽だ。
「使いたい武器があったら遠慮なく言ってくれ」
「いえ。レイから初めて貰ったプレゼントなので一生大事にします」
リルルはコボルトダガー☆を随分と気に入っている。
それこそ寝る時は枕元に置くくらいに気に入ってるらしい。
3階層のボスがドロップしたミスリルダガーを勧めた時は
リルルから『コボルトダガーの方が手に馴染んでますのでっ』
って言われたんだよな。
気に入ってくれているのは嬉しい。いや、凄く。
確かに限界突破コボルトダガー☆はかなり強い。
そう……強いのだけど、初級ダンジョンを卒業した後、
今後より強いモンスターが現れることも考えると、
多少の不安もあるのは事実だ。
限界突破以外の方法での武器強化方法について
そのうち考えないとかもなぁ。
あとコボルトダガーは悪目立ちしないのも良い点だ。
ダガーの柄の部分に"ワンちゃんがガオー"って吠えている
意匠が刻まれている。
特に鞘に納めている時はそのデザインが
主張していてちょっとかわいい感じなのだ、
『あんちゃん、彼女さんにもっと良い装備買ってやれよ』
とか見知らぬ冒険者のおっさんに言われたこともある。
おそらく安価な武器だと思われたんだろう。
うるせーハゲと思った。
善意の忠告だとは分かるのだが。すまんなおっさん。
あとは女性の冒険者に 『その武器ちょーかわいい! 触らせて』
とか言われてた。リルルがあたふたしていたのが面白かった。
俺がにやにやした顔でリルルを見ていたせいか、
リルルに絡んでいた女冒険者が去ったのは残念だった。
実際のところコボルトダガー☆の価値を理解しているのは
俺とリルル以外だと【鑑定:極】を持つ道具屋のおばあちゃんくらいだ。
他の冒険者にはちょっとかわいい女の子用の
短剣程度にしかおもわれていないようだ。
目立つ武器の話で、吟遊詩人の歌にも残るような逸話がある。
とある街で"魔槍ゲイ・ジャルグ"を自慢していた
一級冒険者が娼館で遊んでいる時に、物取りの集団に
裸体の状態で盗賊の集団に襲われて伝説級の武器を盗まれたという歌だ。
このことから『殺してでも うばいとる』という言葉がうまれたくらいだ。
まあ、吟遊詩人の歌は実際の事件を元に脚色された話だったり
するみたいだからどこからどこまでが本当か分からないけど。
そういう観点で考えると、
不死王のマントを地味な色に染色したのは名案だったかもしれない。
元のマントはドラキュラっぽくて目立つマントだったからな。
リルルが唐草色に染色してくれたおかげで、いかにも
どこにでもいる冒険者という感じで気に入っている。
そうそうダンジョンの冒険の件だが、
第二階層のフロアボスを討伐してから、第五階層までは順調に進んでいる。
たまに王都をリルルに案内する日なんかを設けたりもしたが、
基本的には1日1階層の怒涛のペースでダンジョン攻略は進んでいた。
あのいけ好かないギルド嬢の鼻を明かすためにも10階層までそのまま進もうとも考えたのだが、あんまり意識し過ぎるのもそれもそれで負けた気がするので、リルルと話し合った上で、一旦この五階層を周回しようという事になった。
この五階層を周回するメリットは3つある。
1つ目は、ボスがドロップする【エンジェルリング】だ。
この指輪には【取得経験値倍増】という
破格の効果が付与されている。
今後も考えると絶対にリルルと俺の分。
合成分も考えると12個は集めたい。
これは売却用ではない普通に装備するアイテムだ。
2つ目は、キラー・アーマーが落とす【ミスリルの剣】だ。
これはぜひとも売却のために集めたい武器である。
この武器は前衛職である戦士や騎士に人気のある武器だ。
一冒険者にとっては一種のステータスとも言える武器になっている。
イメージ的には高級時計のロ○ックスみたいな感じが近いかな?
まあ。俺は普通にセ○コーの時計だったけどね。
今回の目的はそれだけじゃない、
売却するだけじゃなくて道具屋のおばあちゃん経由で
衛兵所に30本ほど寄贈してもらおうと思っている。
一番の理由は俺たちを襲ったダークエルフの仲間の動向が気になるからだ。
王都を警護している衛兵さんにはいざという時にバッチリ
戦えるようになってもらいたいという思惑もある。
まあ、気休め程度だろうけど。
もうひとつの理由は、今後店が儲けていくと嫌がらせ、
最悪の場合は恫喝してくる奴らも出てくるかもしれない。
そうなる前に事前に衛兵さんとコネクションを持っておけば、
優先的に保護してくれる可能性が高くなる。
公的機関のコネが使えるのは仕事をする上でメリットが大きいだろう。
お守り程度のもので、コネは使う機会が無い方が良いのだが。
好意の寄贈品であり、見返りを期待しないという点が重要だ。
中立が原則の衛兵さんと言えども好意を受けた人間を無下にはできないだろう。
最後に3つ目は、リルルの戦闘スタイルにちょっとした
改善ポイントを見つかったからだ。
具体的には、五層目のフロアボス"クリオネ・ロード"と
戦った時にそれが分かった。
「レイ……っこのボス! 切っても切ってもすぐ再生しますっ!」
「リルル。一旦、俺の後ろに後退しろ」
クリオネ・ロードの毒液飛ばしと、触手ムチを
盾でパリィしつつ、触手の連撃が止まったスキに
毒玉+2を投げる。
しばらく触手を盾で防いでいると動きが緩慢になり死んだ。
「レイ、一人で倒しきれずすみませんっ」
「気にするな。このボスの再生能力が異常過ぎるだけだ」
そもそも本来この初級ダンジョンで戦うボスではない。
もともとの五階層のフロアボスは"クリオネアー"である。
再生能力はあるが、リルルの連撃を耐えきれるほどの
超再生能力を備えているわけではない。
このボスが異常な強さなのだ。
俺の【邪神の寵愛】の加護があるということは、
今後もこのクリオネ・ロード基準の強いモンスターが
出てくることを前提に策を練らなければならない。
改善点が早い時点で見つかったのはラッキーだったかもしれない。
リルルが自分の壁、弱点にブツカルことができたから、
自分の戦闘スタイルを考える切っ掛けができた。
このままダガーの連撃ゴリ押し速攻討伐スタイルで
10階層まで無双できていたら、
能力値だよりのゴリ押しスタイルが身につく可能性があった。
クリオネ・ロードのように超再生能力を持つモンスターに対しては、刀身の短いダガーで倒すのはなかなか難しい。
例えばコボルトダガーに火をまとわせる事が出来れば、
切断面を再生不可能にすることが可能だ。
俺はそんなことを考えながらリルルに相談してみた。
「リルル、魔法学校に興味あるか? 夜間部ならお金さえ払えば短期入学できる」
「学校ですか? あたし、行ったことないので……ちょっと、不安です」
「リルルは俺と違って魔力の素質もあるから1ヶ月くらいの間魔法学校に通ってみないか? 基礎コースなら一通り学べるはずだぞ」
「えっ、でも……本当に勉強は苦手なので。あたしには、難しいと思いますっ」
リルルがもじもじしている。目線があちこちに動いている。
興味があるけど、自信がないという感じだろう。
「心配するな。俺も一緒に夜間学校に入学する。昼はダンジョン探索、夜は学校で勉強。ハードな生活になるけど大丈夫か?」
「はいっ! ぜひお願いします! とってもたのしみですっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます