第14話『レアドロ売って金貨いっぱい!』

 ダンジョンで獲得したアイテムを限界まで

 品質向上させた上で裏路地の道具屋に向かう。



「道具屋のおばあちゃん元気にしてますかね?」



「前回あった時はちょっとしんどそうだったもんな」



「レイが作った回復薬が効いていると良いですね!」



 裏路地の道具屋は俺の隠し癒やしスポットである。

 転生直後の右も左も分からない頃から親切だったもんな。


 田舎の婆ちゃんが居たらこんな感じだったのかな、

 なんて想像する感じの婆ちゃんなんだよな。


 俺の母方のばあちゃんは若くして亡くなってるし、

 父方のばあちゃんの方は親父がかーちゃんと離婚して

 家出てってからは完全に疎遠になってたもんな。



「レイ、どうかしました?」



「……ん?」



「えっと、レイが少し寂しそうな顔をしていましたのでっ」



「ちょっと考え事しててな。心配してくれたのか。ありがとうな」



「辛いときは無理せず言ってください。その、あたしで良ければ」



「ありがとう」



 リルルは気持ちの機微に敏感な優しい子だ。

 俺みたいな大雑把な性格と違っていろんなことに傷ついてきたのかもしれない。


 過去に負った心の傷を癒やすことはできないかもしれないし、

 部外者の俺が傷を彫り繰り返していいことでもないのだろう。


 俺がリルルにできる事は冒険者としての生き方を教えること。

 それくらいなのかもしれない。


 ぬおっ! 気づいたら鬱っぽいこと考えてたな!

 こんなこと考えてたからリルルに心配させたんだ。


 そういう時はえっちなことを考えよう。

 えっちな言葉とは理屈で割りきれない孤高の言葉。

 それは私に勇気を与えてくれる。

 ふともも、おっぱい、おしり、うなじ、リルル。



 えっちな事を考えつつ歩いていたら、

 いつの間にか道具屋の前に立っていた。


 お店の前のメインショーウィンドウが空になっていた。



「ふふっ、マジシャンズ・ロッド 金貨50、現在入荷待ち。だそうですよ」



「はは。かなりの高値で売れているようだな。商売上手だな」



 金貨10枚で売ったマジシャンズ・ロッド☆を金貨50枚で売るとは。

 さすがこの王都で一人で道具屋を切り盛りしていただけの事はある。

 その精神は学ばなくちゃいかんな。


 俺とリルルは道具屋の店の中を散策する。

 おお。前回訪れたときよりも品揃えが充実しているぞ。

 きっと儲けたお金で取り寄せたんだろうな。



「店内も装飾が増えたりちょっとオシャレになってますね」



「うーむ確かに。小綺麗な感じになってるな」



 カウンターに向かい呼び鈴を鳴らすと、

 おばあちゃんが店の奥から出てきた。


 心なしか顔のツヤの色が良い。

 猫背だった背骨がシャンとしているし、

 白髪だけど髪ツヤはよくなっているような。


 もしかして回復薬☆の効果かな?



「こんばんわ。おばあちゃん、その後体調はどう?」



「レイちゃんからもらった回復薬のおかげで最近は凄く調子が良いよ」



「良かった!」



 どうやら回復薬☆はおばあちゃんにとって良い効果があったようだ。

 この調子で長生きして欲しいものだ。



「リルルちゃんも相変わらずかわいらしいね」



「どうもありがとうございます!」



 道具屋のおばあちゃんはニコニコしながらリルルの頭を撫でる。

 おばあちゃんにとっては孫娘のような感じなのかな?



「マジシャンズ・ロッドの売れ行きはどうですか?」



「ふふ。金貨50枚まで値上げしたのに、それでもあっと言う前に売れちまったよ。いや~あの杖は凄いねぇ」



 魔法使いや僧侶の人口は多いから需要が大きいということかな?

 大量に作ってきて良かった。



「そりゃよかった。今日は杖を大量に持ってきたよ」



 俺はリルルにプレゼントするためのコボルトダガー☆を作るついでにゴブリンシャーマンがドロップするマジシャンズ・ロッドを掻き集めて作りまくっていいた。


 今の俺の保有するマジシャンズ・ロッド☆の数は50本である。



「全部で50本あるんだけど。全部買い取れるかな?」



「もちろんだよ! 是非とも全部買い取らせておくれ」



「それと店頭での販売用の回復薬も300本持ってきたよ」



「助かるよ。レイちゃんの回復薬は冒険者にとても人気の商品になっているよ」



「それは良かった。商売とは別におばあちゃんにも50本持ってきたよ。1日1本、疲れが出た時に飲むと良いよ。飲み過ぎると太るそうだから気をつけて」



「いつも、レイちゃんありがとうね」



「今日は"ヴァージンリング"と"甲羅の盾"も売りたいんだけど査定できる?」



「お安い御用だよ」



 道具屋のおばあちゃんは、モノグラス越しにアイテムをじっと見つめる。

 【鑑定:極】を使うには集中力が必要なようだ。



「そうさね。ヴァージンリングが金貨5枚。亀の甲羅は金貨2枚といったところさね。ヴァージンリングは驚異的な品質だけど買い手が少ないのさ。すまないねぇ」



「オーケー。その価格で大丈夫。それじゃあヴァージンリング5個と、甲羅の盾1個もあわせて買取お願いします」



「もちろんだよ。それじゃ、全部あわせて金貨550枚で良いかね?」



 金貨550枚!


 日本円換算でザックリ5500万円、大金である。

 田園調布に家が……、立たないっすね。

 さーせん。調子にノリました。



 王都で家を持つのは金貨1000枚。

 王都に家もつという夢に一つ前進だな!

 リルルと一緒に美味しいご飯食べれるし言うことなしだ。



「ところで……。すまないのだけど、私は手持ちの金貨が200枚しかないから、今日は金貨200枚。残りの金貨350枚は次回でも良いかい?」



「急ぎでお金が必要な訳ではないから金貨200枚で問題ないですよ」


 おばあちゃんは袋に詰めた金貨200枚を俺に渡そうとしてくる。


「おばあちゃん、金貨を100枚づつに分けてもらっていいかな?」



「どうしてだい?」



「金貨100枚が俺の分、残りの金貨100枚がリルルの分なんだ」



「気が利かなくてすまなかったね。それじゃ、100枚づつ分けて渡すよ」



「レイさんっ、……あたし金貨100枚なんてもらえるほど働いてません」



「十分な働きだよ」



「そんな……金貨100枚なんて……大金、申し訳ないですっ」



 俺はニカッと笑って、リルルの頭にポンと手を置く。

 本当は肩に手を置くべきなのだろうな。


 だけど俺とリルルとは50cm以上の身長差があるので、

 自然と手の置き場所がリルルの頭の上になるのだ。

 あと、俺が頭を触りたいという下心もある。



「いいんだよ、遠慮なくもらって。これが命を張って稼ぐ冒険者の醍醐味だ」


「そうなのです?」


「レイちゃんの言うことに間違いないよ。リルルちゃんも受け取りな」


「ダンジョン潜って一儲け! 冒険者ってロマンがあるだろ?」


「はいっ! すごく楽しいです。」



 道具屋のお婆ちゃんはその光景をニコニコと笑いながら、

 ただ黙って見つめているだけであった。



「レイちゃん、リルルちゃんも、無理してケガしないでおくれよ」



「はいですっ! ありがとうですっ! おばあちゃんもお元気でっ!」



「働き過ぎて倒れないでくれよ。回復薬はまた持ってくるから、疲れた時は遠慮せずにガンガン回復薬飲んで、あとはゆっくり寝てね」



 その日、俺とリルルは一緒に街でも有名な料理屋に行った。

 本当はちゃんとした服を着なきゃいけない店だったらしい。

 次回からは気をつけよう。


 味は最高だった。デカイ海老とか、デカイ肉とか、

 なんか美味しいサラダとか、コクのあるスープとか

 いろいろ美味しい料理が出てきた。


 すまんな……。


 生前もスーパーのタイムセールの弁当と、

 カット野菜と豚こま肉を焼き肉のタレで炒めた野菜炒めばかり

 食べてきた俺は、あんまりグルメな知識も語彙はないのだ。



 とにかくうまかった。

 そう、うまかったのだ!



 俺とリルルはお腹がいっぱいになるまで、

 美味しい料理に舌鼓を打つのであった。



 誰かと一緒にメシを食うのはとても楽しかった。

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