第13話『リルルのフロアボス初挑戦』

「いまだ、リルル!」



 俺がコボルトデスロードの攻撃をパリィで弾き返し、

 敵がよろめいているところをリルルがダガーで切り裂く。

 リルルの正確無比な頸部を狙った致命の一撃。



「随分動きが良くなってきたな」



「ありがとうですっ!」

  


 コボルトデスロードは光の粒子になり消滅。

 リルルにとってはフロアボスへの初勝利経験だ。


 頬を赤らめて嬉しそうだ。

 


「敵が怯んだところを急所攻撃、筋がいいな!」



「レイの麻痺玉のサポートのおかげですっ」



 かわいい。……ちがう、そうじゃない。煩悩を捨てろ。

 先輩冒険者として後進の模範とならなければならんのだ。

 昨晩うっかり"ジョニー"を鎮め忘れたのが仇となったか。


 がんばれ俺の中に眠る理性先生。

 俺はお前を信じているぞ。


 そんなことはともかくだ、


 初心者ダンジョンの最下層である10階層を踏破するまでは、

 リルルにはモンスターとの戦闘経験を学んでもらうつもりだ。

 初心者ダンジョンを卒業してもここでの経験は必ず活きる。


 というのも、

 初心者ダンジョンは階層ごとにさまざまな種類の敵が現れるから

 冒険者としての立ち回りを覚えるのには向いているのだ。



 俺が酒場で聞いた与太話ではあるが、初心者ダンジョンをすっ飛ばして野良ダンジョンなんかに潜って死んだ冒険者は腐るほどいるらしい。


 命がけの仕事の冒険者は"基礎"を馬鹿にしちゃだめだ。


 初心者ダンジョンは本来、俺一人でも踏破可能な初心者ダンジョンである。

 なのだが、実は俺にとってもかなりの修練を積める場となっている。


 それもこれも【邪神の寵愛】の効果によるものだ。


 初心者ダンジョンと言えど、遭遇するモンスターは1000体に1体しか遭遇できない超強力な個体――希少種や危険種である。俺にとっても良い訓練になっている。


 いま俺がまともに戦えているのはノーライフキングがドロップした新月の盾と満月の盾。それに限界突破させた毒玉や麻痺玉があるからだ。



「それでは2階層に進もうか」



「緊張しますね」



 ドキドキしている仕草もグッとくる。

 そんなことを考えつつ、俺とリルルは階段を降りダンジョンの2階層に向かう。


 次のフロアの雑魚はファングラビットだったはずだ。

 だけど【邪神の寵愛】の効果で違うモンスターに遭遇するのだろう。



「レイ……凄い強そうなウサギがいます」



「ふむ。ユニコーンラビットか」



 処女以外の女性を絶対に殺そうとする生粋の処女厨モンスター。

 見た目はウサギの頭に一角獣の角が着いたモンスターである。


 俺としては、狙うターゲットが明確なので動きは読みやすい。

 敵の動きを読めるなら倒すのも容易だ。



「思った通りだなっ!」



 ユニコーンラビットはリルルに向かって襲いかかる。

 ユニコーンの角を俺はパリィで跳ね飛ばす。

 大きくのけぞり、そこにスキが生じる。



「いまだリルル」



「はいっ!」



 リルルは駆けながらユニコーンラビットの首から上を両断。

 しばらくすると粒子状になり消滅する。


 そのあとは同じ要領で、道中現れるユニコーンラビットを

 倒しながらズンズンと進んでいく。



「ウサちゃんたち、あたしばかり狙ってきます。不思議ですね」


 俺は少し思案した後に答える。


「女性だけを狙うモンスターだ。逆に男だけ狙うモンスターも居る」



「そうなんですね。不思議ですね。勉強になります!」



 嘘は言ってない。

 それに戦闘に必要な情報さえわかればそれで良いだろう。

 それにしても、リルルは尋常じゃない速さだ。


 能力値【速さ:20】は伊達じゃない。

 リルルが順調にレベルをあげていけば、

 一流の冒険者になることも夢ではない。



「レイ、ドロップアイテムも沢山手に入りましたね」



「そうだな。あとで合成して売ろう」



「はいっ! 高く売れると嬉しいですね」



 ユニコーンラビットが落とすのは【ヴァージンリング】。

 その効果は、性交渉の経験のない女性が付けると全ステータス向上。


 基本的に豪快な女性が多い女性冒険者にはあんま需要無さそう。

 童貞の男が装備しても付与効果が得られないのも残念な点だ。


 うーん……。これはあんまり高く売れなそうな予感。


 この階層を周回するのは効率悪いな。

 さっさと次の階層に進もうか。



「あっ。もうボス部屋ですね」



「そうだな」



 俺の知っている情報だとこのフロアボスは

 確か、ビッグタートル。


 硬いけど毒使えば完封できる相手だったが。

 さて、何が出てくるかね。



「わぁ。大きいですね」



「ほう。グレーター・タートルか」



 俺はグレーター・タートルに麻痺玉+1を投げつける。

 動きは緩慢になるがまだ動けるようだ。


 リルルは麻痺玉が当たったのを確認すると

 即座にグレーター・タートルに一気に距離を詰め、

 2刀のダガーを振りかざし連撃を叩きこむ。



「リルル、反撃がくるぞ。一旦俺の後ろに下がれ」



「はいっ!」



 ある程度ダメージを与えると、

 手足を引っ込め回転力を加えた体当たりをする。

 行動はビッグタートルと同じか。


 敵からの十分なヘイトを稼いでいるリルルに向けて

 一直線にグレーター・タートルは向かってくる。

 軌道は驚くほど読むのが容易だ。


 俺はリルルの直線上で盾を構え、

 グレーター・タートルの突撃をパリィで弾き飛ばす。


 パリィ成功時には相手の重量関係なく物理攻撃を無効化、

 更に大幅にのけぞらせ硬直時間を作る満月の盾はかなり使える。

 少なくとも、俺の戦闘スタイルには最適の装備だ。


 弾き飛ばされたグレーター・タートルは

 甲羅から手足を出している。



「いまだっ!」



 リルルが首を斬りつけるとそこで動かなくなった。

 2階層も危なげなく勝利である。


 まだ少し危なっかしいところはあるが、

 リルルの冒険者としての筋は良さそうだ。



「ドロップアイテムは【甲羅の盾】だそうです」



「前衛のタンク職にとっては良い装備かもね。売ろう」



 俺とリルルはボスフロアを攻略したことで

 現われた転移ゲートを介し、ダンジョンの外に出るのであった。

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