第11話『レアドロップを売って儲けよう』

「レイ、どこに売りに行くんですか?」



「まずはギルドに行って買値を聞いてみるか」



 俺はマジシャンズ・ロッドを5本重ねた

 【マジシャンズ・ロッド☆】の値段を確認

 するためにギルドの買取口に持っていった。



「すみません。買取お願いしたいのですが」



「はい。結構ですよ。売りたい物は?」



「このマジシャンズ・ロッドです」



 俺はマジシャンズ・ロッド☆を

 買取口の職員に手渡す。

 一瞬、職員が驚いた表情をしたのを俺は見逃さない。



「買取価格は金貨1枚になります」



 金貨一枚の価値は日本円換算で10万円。

 だが、このマジシャンズ・ロッドの買取金額は限界突破させずとも、

 そもそも金貨1枚である。これでは限界突破した意味が無い。


 リルルは職員に対して、何か抗議の言葉を

 言おうとしたが俺が静止する。



「えっと。買取金額の交渉は無理ですかね?」



「すみません。



 なるほど。事なかれ主義のお役所的な対応だ。

 ギルドの仕事は公正である事が重視されるわけだから、

 模範的な対応と言えなくもない。


 職員としてあるべき職務を全うしただけだ。

 だが、それではこちらのメリットはない。

 俺は早々に交渉を切り上げる。



「分かりました。査定ありがとうございました」



「はい。また何かありましたらお立ち寄り下さい」



 俺はギルドを出て外を歩く。



「レイ……とても残念でしたね」



 リルルはしょんぼりしている。

 ちょっと眉を下げた顔もかわいいぞ。



「実はギルドの高額買取は正直だめもとだったんだ」



「だめもと、ですかっ?」



「そう。実は、もうひとつツテがあるんだよ」



「そうだったんですね! ぜひいきましょうっ!」



 顔が一気にぱあっと明るくなった。

 感情が表情で分かり易い子だな。


 俺はリルルを連れて目的の場所に向かって歩く。


 俺が向かったのは裏通りにある道具屋だ。

 冒険者に必要な物が売ってる雑貨屋のようなお店である。


 そして俺が転生して間もない頃からお世話になっている、

 おばあちゃんが働いているお店だ。


 おばちゃんは俺を孫のようにかわいがってくれるので、

 どうしてもひいきにしたくなる店なのだ。


 元は夫婦で作ったお店のようだ。

 だが旦那が先に病死し今はおばあちゃんが

 一人でお店をまかなっている。


 中央通りのお店と違って人情味があるお店だ。

 おばあちゃんは最近はなかなか良いアイテムを、

 卸してくれなくなったとこぼしていた。


 少しでも恩返しが出来るといいんだがな。


 俺がカウンター越しにおばちゃんに声をかけると、

 しゃがれた声が返ってきた。


 子供は王都へ出て冒険の旅をしているんだっけな。

 白髪が増えてきてるし疲れが溜まっているのかもな。





「おや! レイちゃん、こんばんわ、隣の子は恋人かい?」


「はじめまして。いえ、あたしはそんな……ただの、花売りのリルルですっ」


「こんばんわ。彼女は俺の冒険仲間だ。一緒にダンジョンを攻略しているんだよ」



 おばあちゃんは、リルルの"花売り"については

 それ以上は詮索せず、それとなく話を変える。



「レイちゃん、最近は年のせいか座り仕事が辛くなってきてね。私も潮時かねぇ」



 以前話していた腰痛の件だろうか。

 確かに、患うと大変な症状だ。



「おばあちゃんは腰の調子は大丈夫?」



「なかなか良くならなくて困っているよ。特に低い所に陳列する時が辛いねぇ」



「大変だなあ。もしよければ、この回復薬飲んでみてよ」



「いいのかい? 気を遣ってもらって、すまないねぇ」



 俺は回復薬を渡す。

 ただの回復薬ではなく、【回復薬☆】である。

 おばあちゃんはゴクリと飲む。



「とても。美味しいねぇ。レイちゃん、ありがとね」



「そうですか。良かった」



 しばらくすると、おばあちゃんは不思議な顔をしながら

 肩を回したり、腰を回したりと関節を動かしている。



「あらっ! 腰の痛みがなくなったよ! それに肩こりも! 肌のツヤもよくなった気がするわ。レイちゃん、もしかして高級な薬だったのかい?」



「いえいえ。錬金術師の能力で品質向上した、ただの回復薬です」



「レイちゃんは優秀な錬金術師だね」



 まあ、限界突破の効果だけどね。

 冒険者ばっかりしてるから、錬金術師としての腕はは底辺だ。



「今日は、買取のお願いをしたいんだけど良いかい?」



「毒玉かい?」



「今日は違うんだ。【マジシャンズ・ロッド】を買い取って欲しいんだ」



 俺はマジシャンズ・ロッド☆をおばあちゃんに渡す。

 このおばあちゃんは、【鑑定:極】の特殊ユニーク持ちである。

 かなりのレアスキルで、本来は引く手あまたの人材だ。


 おばあちゃんは個人商店で納まる才能ではないのだが、

 きっと旦那と一緒に築いたこのお店が思い入れがあるのだろう。


 じっとアイテムを鑑定した後に口を開く。


「これは凄い逸品だよ! レイちゃん、金貨10枚で売ってくれるかな?」



 ギルドの金貨1枚の10倍である。

 金貨1枚が10万円相当なので、100万円である。

 当面の路銀に困らないだけのお金だ。



「いいよ。ちなみに、5本あるんだけど全部買取れるかな?」



「もちろんだよ! 私に全部買い取らせておくれ」



「おばあちゃん、無理して高く買い取ってくれなくても良いんだよ?」



「レイちゃん。老いたとはいえ私も商売人だよ。ちゃぁんと、お店で販売する時は金貨35枚で売ってみせるさ」



「ははっ。おばあちゃんもさすが一流の商売人だね。粗利7割弱かぁ。うん、在庫になるリスクも考えれば、妥当な値付けだと思うよ」


 店頭販売価格の30%程度の卸値。

 悪くない買取価格である。


「そう言ってくれるのはレイちゃんくらいだよ。普通の冒険者は商売のことなんて知らないからアコギだなんだの言われるからね」



 まあ。俺は元営業だから感覚的になーんとなく分かるけれど、普通はそう思うかもしれないな。俺も詳しくはないから、分からないけど、王都に支払わなきゃいけないショバ代とか、店舗維持の費用とか、まあいろいろとお金がかかるのであろう。



「商売のプロのおばちゃんに言うのも失礼かもだけど、5本一気に置いておくとアコギな冒険者に買い叩かれるかもしれないから。売れるまで1本づつ置いておいた方がいいかも」



「ふむ、一理あるね。確かにお店の目立つ所に置いて、"在庫一本限り"とでも書いて置いておこうかね」



「はは。それがいいよ」



「あと今日は回復薬10本タダであげるから、購入者に1本づつプレゼントするのも良いかも。残りの5本はおばあちゃん疲れた時に飲むといいよ」



「ありがとうね。回復薬もそのうち卸してくれるかい?」



「もちろん。今度来る時は十分に在庫を確保して売りにくるよ」



 まあ、今日儲けたお金で他の店で回復薬買って、

 それを合成しまくればすぐに作れるもんな。

 もっと準備してくれば良かった。



「ありがとうねぇ」



 おばちゃんが金貨50枚を俺に手渡す。

 一旦、受け取るのを止め、俺はおばあちゃんに一つ提案を持ちかける。

 これは、今後安定して取引をするためには最も重要なことである。



「今回は買取価格は半分の金貨25枚でいいよ。でもその代わり約束をして欲しいことがあるんだが、いいかな?」



「それはなんだい?」



「今後は、アイテムを売りにきたのが俺だということは伏せていて欲しいんだ。他の冒険者達に目を付けられるとなにかと厄介だからね」



「もちろんだよ。了解したよ。でも、レイちゃん、そんなことで良いのかい?」



「それでいいよ。また近いうちにくるからよろしく! 腰痛良くなるといいね」



「おばあちゃんっ、あたしも、よろしくお願いしますっ!」



「レイちゃん、リルルちゃんありがとうね。また、遊びにきてね」




 おばあちゃんは、まるで孫娘の頭を撫でるように

 リルルの頭を優しくなでるのであった。

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