第7話『ダンジョンの戦利品と不穏な影』

 リルルは俺が地面に並べられたノーライフキング装備を見て、

 目をキラキラとさせている。



「改めてみると、とてもかっこいいですね! 強そうです」



「せっかくだし一緒に性能を見てみようか」



「はいっ!」



 うん、かわいい。

 じゃない……いかんいかん。


 そうじゃないだろ、

 まずは検証だ、うん。



「この黒くて丸い盾はなんですか? とても綺麗です」



 リルルは、床に置いた黒い盾を指差す。


 ノーライフキングが落としたドロップアイテムである。

 黒マット仕上げというかツヤ消しされた感じがグッとくる盾だ。

 表面は猫の舌のように少しザラッとしたマットな質感である。


 装備の詳細を【鑑定】で確認する。


 鑑定を使って見た情報は基本的に、

 アイテムの所有者にしか見えない情報だ。


 なのだが、リルルと俺は情報を連携しているので

 同じイメージが見えているのだ。



 ――――――――――――――――――――――――――

 新月の盾【破壊・譲渡不可能装備】

 解説:パリィ成功時に魔法および、

   状態異常攻撃を打ち消す(成功率は運の値を参照)

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「すごいですっ! 魔法を打ち消せるそうですよ」


「おお。使えそうだ。実はノーライフキングの魔法攻撃を受けた時に盾一個ぶっ壊れちゃったから魔法防御が出来る盾が得られたのはかなり嬉しいな。運の値を参照してくれるのもいいね」


「ですね! この黒い盾と同じかたちの、あの白い盾の性能も気になりますっ。お揃いの形でかっこいいです」




 ――――――――――――――――――――――――――

 満月の盾【破壊・譲渡不可能装備】

 詳細:パリィ成功時に物理攻撃をした敵対者を

   大きくのけぞらせる(成功率は運の値を参照)

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 新月の盾と同じような白マット仕上げの盾だ。

 光沢のない厚紙の質感が比較的近い。

 表面の質感もちょっとザラッとした感じだ。



「すごい!……ってきを、のけずらせるそうですっ!」


 うん、かわいい。


 言葉のニュアンス的にリルルは【のけぞり】の効果を多分よく分かってないと思うが、褒めようとしてくれるその気持が嬉しい。ありがとうね。



「これは俺のパリィ専の戦闘スタイル的にはかなり使える。パリィ後ののけぞり時間が長ければ長いほど俺にとっては有利になるからな。明日、その辺りの立ち回りも見せる」



「レイの華麗なパリィ見るの、たのしみですっ!」


 特に華麗じゃないけどな。

 盾で弾くだけだから。


「次は、あの赤いマントを見て見よう」



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 不死王のマント【破壊・譲渡不可能装備】

 詳細:即死攻撃を受けた際に1日に1回起死回生

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「っ起死……回生! するそうですっ」



 たぶん言葉の意味を分かっていないな。

 そもそも【起死回生】なんて難し言葉だし仕方ない。


 恥をかかせないように、さり気なく教えよう。

 俺も特に学があるわけではないから気持ちは分かるぞ。



「起死回生か。一回死んでも、生き返るっていう能力だ。珍しい能力だな」


「起死回生ってすごいですね! 無敵です」



「とはいえ、あくまでも致命傷を一回だけ瀕死の状態で踏ん張れるだけで、ダメージはしっかり残るから、あまり過信はできない。1日1回までの制限つきだしな。あくまでも保険という感じかな」



「そうなんですね……なかなかうまいことはいかないものですね」



 心なしかちょっとシュンとしているな。

 不死王のマントを持ち上げてみるか。



「そうでもないぞ。罠をふんで槍でグッサリの即死トラップ系や、宝箱に偽装したミミックにガブリされても、取りあえずは死なずにすみからな。凄い装備だ」



「やっぱり凄いんですねっ! それにしてもダンジョンって怖いんですね」



「もしリルルが冒険者になったらの話だが、このマントの性能も考えると前衛は俺が務めさせてもらうが良さそうだな。リルルはそれでも問題ないか?」



「たよりになりますっ。よろしくです」



「でも、このマント1つだけ……問題があるな」



「どうしました?」



「ちょっと派手すぎると思わないか?」



「たしかに、いわれてみるとカッコいいですが派手ですねっ」



「この内側が赤で外側が黒っていうデザインは悪目立ちする気がするんだよな。なんというか、もうちょっと落ち着いたデザインだと嬉しいんだけどなぁ」



 まるでドラキュラ伯爵みたいだもんな。

 貴族とかなら似合うのかもしれないけど、

 俺は底辺冒険者だもんな。



「それなら、もしよければ、あたしが染めましょうか? 少し染色の知識がありますので。唐草色の染料が確かお店に売ってたので、それで良ければ」



「渋いね。いかにも冒険者っぽくて良いと思う。ぜひぜひお願いしたい!」



「はいっ!」



 いつになく嬉しそうだ。

 リルルも得意分野が活かせるのは

 嬉しいのかもしれない。


 あとは、アイテムの他に新たな加護ブレス特殊ユニーク

 も手に入れていたんだよな。

 そっちの方も一緒に見てみようか。



「実は新しい加護ブレス特殊ユニークをもらったんだ。一緒にみてもらってもいいか?」



「もちろんです!」



 まずは、一番気になる【邪神の恩寵】からだ。



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 邪神の寵愛【不死王装備保有者専用】

 詳細1:希少種、危険種、古代種、伝承種の遭遇確率激増

 詳細2:能力値で最も高い値を参照し強化付与(10倍)

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「運の値が110もあったのはこの効果だったんですね」


「そうみたいだな。運激増の効果は明日確認しようか」


「たのしみにしてます」


「もう一つは、強敵と出会う可能性が激増する感じか……」


「強い敵ですか、ちょっとだけこわいですね」


「そうだな」


 うーむ。


 メリットが大きい分デメリットも

 大きいという感じか。

 派手な加護だな。


 ちなみに転生時に付与された

 【女神の恩寵】はこんな感じだ。



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 女神の恩寵

 詳細:極稀に体力を回復(小)

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 一度も発動したことないんだよなぁ……。




 最後に、これが一番興味があった奴だ。

 【限界突破】を見てみよう。



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 限界突破【世界樹の葉使用者専用】

 詳細:同一アイテムを重ねることで品質向上

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 たぶんソシャゲの凸みたいな感じかな?

 錬金術師向きの特殊ユニークだな。



「アイテムを重ねるってなんですかね?」



「うーむ。今はなんとも言えないけど、何となく思い当たる節がある。限界突破の検証をしてみよう」



 試しに、麻痺玉と麻痺玉を合成してみよう。



「おお……凄い。錬金の時と同じ用に融合したぞ」



「ふふふ。麻痺玉+1という名称に変わったみたいですね。おもしろいです」


 なぜか本当に面白そうだ。

 何がツボにはまったのか謎だが、

 合成された物を見て手で口を押さえて笑っている。


 箸が転がっても笑う年齢なのだろうか。

 若いっていいですね。



 リルルの言う通り、

 アイテム欄の表記は【麻痺玉+1】になっている。


 もっと試してみよう。


 麻痺玉+2、麻痺玉+3、麻痺玉+4、麻痺玉☆

 なるほどね~。


 重ねるごとに品質が向上して、

 最大5回まで重ねることができる感じなんだな。


 ソシャゲでやると沼るシステムだが、

 運極振りでアイテムドロップ祭りの俺にとっては

 ありがたいスキルだな。

 このままだと在庫貯まる一方だしな。

 

 ドロップアイテムを拾ったら品質向上させて、

 道具屋に売れば一儲けできそうな感じがするぞ。

 いいね、いいね!



「ふふっ。なんか、この☆がついているのかわいいですね」



 リルルの方がかわいいぞ。



「それじゃどれくらい効果値が上昇しているのか明日実験してみようか」



「は~い!」



 そんな感じでその後二人で、

 回復薬を凸らせたり、毒玉を凸らせたりしてキャッキャウフフ

 しながら遊んでいると、



 ふいにバリンッと部屋の窓ガラスの音がした。


 俺は床に置いたマントを羽織り、

 二つの盾を取り、

 その音の方向に視線を動かす。


 その視線の先には……


 頭まで隠れる夜闇に溶ける黒色のローブを

 羽織った、眼光の鋭い侵入者がそこにいた。


 ダークエルフである。

 


「……っ来やがったか」



 俺は虫の知らせは馬鹿にできないなと

 痛感するのであった。

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