第6話『はじめてのお泊まり』

 その日はリルルと同じ部屋で宿泊することにした。



 金銭的な負担が少ないということもあるのだが、

 それ以上にからだ。


 まあ……これは俺の考えすぎかもしれないのだが。

 虫の知らせというか、念には念をというやつだ。

 何も無いならそりゃそれで最善だからな。



「リルル。まず俺の錬金術師としての能力を見せよう」



 俺はそう言ってリルルの目の前に薬草と聖水を置く。

 俺が薬草と聖水に直接手をかざすと光に包まれる。




「ふえぇ……すごいですっ! これは何でしょうか?」



「……回復薬だ」



 一言で言えば複数のアイテムを合成して一つのアイテムを作る。

 これが錬金術師の能力だ。



「回復薬というのは、道具屋で売っているあの回復薬のことでしょうか?」



「そうだな。道具屋に売っているのと同じものだ」



 錬金術師はこの世界ではかなりありふれた職業だ。

 もう少し正確にいうならば、

 需要に対して供給が多すぎる職業である。


 この世界でちょうど十数年前に"錬金術師"の職業が一般に

 解放され当初は"錬金術師"は人気の職業だったようだ。


 例えば、俺が当然のように使っている回復薬も

 錬金術師がいなければ使えないアイテムである。


 冒険者たちは錬金術師たちが作るアイテムありきで

 ダンジョンに挑戦しているというのが実情はある。


 錬金術師自体の需要がないわけではないのだ。

 が問題なのだ。



 タピオカが流行った時にタピオカ屋が

 ぶわぁっと一気に広がり、

 その後は供給過多になって値下げ競争、

 差別化競争になった、

 あんな感じのイメージと近い。



 ちなみに錬金術師が現れる前までは、

 冒険者たちはダンジョン内でケガを負ったときは、

 回復効果の少ない薬草をムシャムシャ食べて回復していたらしい。



 ぶっちゃけ想像できない世界だ。

 今の回復薬は、市場競争の原理によって

 価格も安く、味もそこそこといったものが、

 道具屋経由で販売されている。



「でも、錬金術師さんがいないと冒険者はみんな困りますよね? あたしはとっても立派な職業だと思います。社会の役に立っている職業だと思いますっ!」



「そうだな。確かに役に立っているんだろう」



 実際、錬金術師自体には需要がある。

 だからこそ、10歳時の職業選択の際に、

 錬金術師を選択するものが激増し、

 結果、過当競争に陥ってしまったようだ。


 価格競争によって回復薬の価格は暴落、

 薄利多売の厳しい競争社会に突入しているようである。


 今では、10歳時の職業選択の時に錬金術師は

 『親が子供に絶対に選んでほしくない職業』の

 5本の指に入っているそうだ。


 どこの世界でも親の子供に対する期待は重いようだ。

 まっ、俺は親にそんな期待されてなかったけどなっ!



 ただ、今のこの世界に子供たちが錬金術師を

 選ばなくなったという事は、

 今度は錬金術師が枯渇するようになるのではという気もする。

 ただその錬金術師の再ブームは10年以上も先のことだ。


 さすがに俺はそんなに気が長くない。


 それにあくまでも素人である俺の考えだ。

 頭の良いギルドの上の役人たちは何らかの対策は

 してるのかもしれないけどな。



「あと、回復薬を作るために必要な薬草と聖水が取れる場所が異なっているんだ。一言で言うと集めるのに手間がかかるんだ」



「確かに、あっちこっちを行ったり来たりするのは、大変そうですっ」



「そうなんだよ。素材を集める労力を考えたら、店で買った方が早いんだ」



「……そうだったのですか、あたし、ぜんぜん知らなかったですっ。錬金術師さんの仕事も大変なのですね……勉強になりますっ」



 リルルが俺に尊敬の眼差しを向けてくる。

 なんかこそばゆいが嬉しいぞ。



「錬金術師の俺ですら、回復薬なんかの一般的なアイテムは道具屋で買っている。冒険者をやらずに錬金術師専門者が作った物を道具屋で買った方が楽だからな」



「もし、差し支えなければおしえてほしいのですが、戦闘スキルのない錬金術師のレイはどうやってダンジョンで戦っているんですか?」



「それについては……明日、初級ダンジョンで実地で教えよう。リルルもしばらくは俺のマネをしていれば安全にモンスターを狩れるようになるぞ」



「うれしいですっ! ぜひっ! ご指導ご鞭撻のほどっよろしくお願いしますっ!」



 とても嬉しそうだ。

 心なし目がキラキラとしているように見える。



「せっかく装備したナイフを使いたい気持ちはあるかもしれないが、まずは慣れるまでは慎重かつ確実に攻略できる方法を学んでもらいたい。それで問題ないか?」



「はいっ! ふつつかものながら、あたし、がんばりますっ!」



 リルルの能力値的を考えれば、

 初級ダンジョンの低層エリアのモンスターであれば、

 ナイフでズバッとやれば簡単に倒せるだろう。


 ただ、一度能力値頼みのゴリ押しで進むことを覚えると、

 中層以降のトラップと初見殺しの敵が現れるエリアで

 大怪我するかもしれない。


 まあ。知ったような口を聞いてるが俺も中層にはたどり着いていない。

 あくまで他の冒険者から聞いた話を元に想像しているだけだ。


 そてに何事も少なくとも最初は慎重に進むべきだと思うのだ。

 基本は重要である。


 まっ、

 基本を無視して運極振りとか調子乗ったステ振りをした

 俺が言っても信憑性がないかもしれないけどなっ!


 まぁ、それはそれ、これはこれだ。はは。



 リルルは素直に聞いてくれて嬉しい。

 この世界にきて初めて先輩冒険者っぽい事ができているぞ。

 冒険者していてよかったぜ。



「レイ、そういえばあのダンジョンでレアなアイテムが手に入ったと言ってましたが、もしよければ見せてもらってもよいでしょうか?」



 ちょっと申し訳なさそうに話している。

 そんなのもちろんオーケーである。



「ああ。俺もまだ装備の性能は細かく確認できていないんだ。一緒に見ようか」



 俺はドロップアイテムをアイテムボックスから取り出し、

 部屋の床に並べるのであった。

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