蛇足
芙蓉はナイフの突き刺さったカボチャを持って紅倉にお伺いを立てた。
「どうしましょう、警察に通報した方がいいでしょうか?」
紅倉はカボチャを眺めて、フーン……、と考えて。
「精霊の夜のマジック……と思っておけばいいんでしょうけれど。
OLさんが聞いた足音はリアルだったのね。
後をつけていたのはふられた甲斐性なしの元カレ。
こんな物を持ち歩いているくらいだからかなり危ない精神状態だったんでしょうね。
彼女の足が速かったんで追いつけなくなって、ちくしょうー、と思っているところでカボチャのカカシを見つけた。
このカカシ、頭のいいカラス対策に中にメカが仕込まれていて、頭が回転して目が光って声を出すハイテク仕様だったのね。カボチャの顔はハロウィンに合わせたユーモアでしょうね。
ストーカー男もこの仕掛けに驚かされて、腹が立って頭を引っこ抜いてやった。
そのまま投げ捨ててやろうかと思ったけれど、彼女に逃げられたのと、脅かされた腹いせに、自分が「ジャック・オー・ランタン」になって人を脅かしてやろうと、持っていたナイフで首周りを広げて、カボチャを被った。
町内会の子ども音楽会や、駅裏の若者たちのパーティーなんかを訪れて、「お菓子をくれなかったらいたずらしよう」と思っていたけれど、もらえたからいたずらはしなかった。
お菓子をもらえてちょっと嬉しかったけれど、ファミリーや若者たちの楽しく浮かれた様子に孤独感を深めて、一軒のいかにも幸せそうな家にもう一度「トリック・オア・トリート」を仕掛けようとしたけれど……その先にもっと浮かれたお屋敷を見つけてそっちに狙いを変更した。
どんなふざけた因業ジジイが出てきやがるだろうと思っていたら、美味しい高級クッキーの詰まったてるてる坊主を見つけて、すっかり苛立った気分が削がれてしまった。
で、もういいや、と、カボチャとジャックナイフを置き土産に去って行った、といったところかしら」
芙蓉には具体的に分からない部分もあったが、要するに、
「そのストーカー男はそのままにしておいて大丈夫でしょうか?」
さあ……、と紅倉は首を傾げた。
「少なくとも今の段階では前向きな気持ちになっているようだから、余計な手出しはしない方が懸命だと思うけれど、潜在的な危険はあるかもね。将来的にどっちに向かうかは五分五分ってところで、本人の為にも元カノさんの為にも、良い方向に行ってほしいものね」
芙蓉は、これはどうしたらいいのかしら?、とカボチャとナイフを迷惑そうに眺めて、来年は自前でお化けカボチャを育てて看板と一緒に飾ろうかしらと考えた。
終わり
2014年10月作品
霊能力者紅倉美姫14 パンプキンマン 岳石祭人 @take-stone
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