第5話 トラウマ

I病院では優しい男の先生が主治医だった。私が薬が効かないと言うとすぐに強い薬を処方してくれた。

強い薬になればなる程、私は呂律が回らない喋り方で変なテンションになった。本当に側から見れば唯の薬漬け中毒の精神患者だ。いや、薬物中毒者だ。


医師からは私が子供っぽい考え方だから悪いんだとも言われていた。大学ではクラスのエースだと言われる位、成績優秀な私のどこが子供っぽいの?私にはその主治医の言葉が理解出来なかった。


大学には担任に病気の事を説明し、卒業論文をちゃんと書けば卒業出来ることになっていた。大学にはこの状態ではとても行けない。電車も怖いし、クラスメイトも怖い。人が怖い。。。

私は日々家にいて、相談室に何回も電話し、友達や親戚、あらゆる人に電話して自分が辛いんだよ、助けて欲しいんだよアピールをし、電話口で大泣きしていた。夜には裸足で近所を走り回る。他にする事といえばゲームばかり。ゲームに集中すると辛い事から忘れられるし時間も潰れる。後は家の中でかくれんぼ。母の帰宅時間に合わせて押入れに隠れて母を驚かすゲーム。計画的犯行。とにかく母の反応を見て楽しんでいた。もっと私のこと心配して。もっと皆私の話を聞いて。そんな心理でいたのだろう。小さな子供の様な脳になった。



I病院では薬剤師と仲良くなった。ネイルをするのが好きな私は、薬剤師さんに爪を見せて褒めて貰うのが楽しみになっていた。

大好きな薬剤師さんに会えるから、通院も楽しい。そう思えるようになっていた。


しかし22歳、夏。その日も私は母に連れられI病院へ行った。車から降りる時はサンダルを車の外へ投げ出し、お決まりの裸足で歩いていた。母がサンダルを拾い待合室へ連れて行く。

今日は空いているな。早く呼ばれるだろう。

そう思いながらも30分経過。あれ、遅いなあ。

私は待合室のソファーに寝そべっていた。もう頭が働かなくてよくわからない事をぶつぶつ言っていた。

すると、勢いよく院長が私に近づいてきた。

「こっちへ来い!甘ったれるのもいい加減にしろ!!!」

院長が怒鳴り、私の手首を強い力で掴みそのまま奥の入院病棟へ連れてこうとする。

「嫌だ。嫌だ。怖い。助けて!お母さん!ヤダ!ヤダ!!!!」

私は院長の手を離そうとするが院長の力が強くて解けない。なんだよこの爺さん。力強いすぎだよ。やだ、入院はやだ!

「暴れるな!こっちへ来い!」

「嫌だ!!!」

私は怒鳴りながら母を見た。母は薬剤師と一緒にロビーの隅で俯いていた。

あの2人、私を裏切ったな。一瞬でそう感じた。


私は抵抗するが院長もしつこい。

「あははは。こんなに抵抗する奴も初めてだな。」

院長は必死で逃げようとする私のことを笑っていた。

「おい!男連れてこい!!」

院長が看護師に大声で言う。その間に院長が暴れる私の腕に無理矢理注射してきた。何の注射だよ。怖い、怖いよ!私は注射を打たれてもまるで人間に狙われている熊の様に暴れ、渡り廊下の芝生の上で必死に抵抗した。

マッチョな男が4人、私の腕と足を一つづつ持ち上げて私を病室へ連れて行く。

入院病棟のロビーには何人も人がいて、皆こっちを見て驚いている。が、私はそんなの構わない。大声を上げて抵抗した。

「下せ!ヤダ!!ヤダ!」

私は病室のドア縁を必死に掴む。こんな閉鎖病棟に入院してたまるか!しかも監視カメラ付きの牢屋だ。私はありったけの力で抵抗した。しかしさっきの注射のせいなのか力尽き、男に指を一本一本取られ、部屋の中へ入れられた。

急いで柵のドアを閉められ、部屋の二重ドアを閉められ、私は牢屋で1人になった。

その部屋には汚らしい布団が敷いてあったが、私はこんな所で寝てたまるかと部屋の真ん中で体育座りをして膝を抱え俯く。部屋は監視カメラとトイレとトイレットペーパーがあるのみ。時計も無いし窓さえ開けれない。


頭の中がぐるぐる回る。

次第に注射が効いてきてそのまま眠りに入ってしまった。


お母さん、何で?何で私を裏切ったの?


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