Chapter18 繋ぐ-Connect-

その夜のゾンビの大発生を僕は記憶していない。


御子神さんも僕も病院からは出られなかった。僕は職員用の仮眠室で目を覚ました。


目が覚めた僕の面倒を見てくれた看護師さんいわく「睡眠不足」が原因だという。


確かに、終局宣言からこっち、まともに寝てはいなかった。


今になってその反動が来たというのは、なんといえばいいのか……


朝になって、起きようとした僕は看護師さんから起きることを許されず、丸一日を寝て過ごすことになった。


貴重な時間を寝て過ごしたくないという思いから、最初は不満しかなかったが、それでも、身体は正直で、睡眠を欲してすぐに僕は眠りについた。


食事もとらずにひたすら眠ったあと、僕は夜に目を覚ました。


さすがに眠りすぎて体が辛い。少しでも身体を動かしたかった。


迷惑にならないように静かに院内を散歩していた僕は、紫色のツナギを着た青年に出会う。はじめて見る青年だったが、僕は彼のことを知っていた。


mutterのフォロワーの中に、同じツナギをアイコンにしているフォロワーがいるのだ。名前は確か―――「藤岡つなぎ」といったはずだ。


終局までに、一人でも多くの人と話したかった。たとえネット上だけとはいえ、こうしてつながりのあった人と対面できるのも何かの縁だと思い、僕は彼に声をかけた。


たしかに、僕の目の前にいるのは、藤岡つなぎさんその人だった。


行き場をなくした人々の避難所となっているある大学の大学生である藤岡さんは、mutterを通して避難所の様子を克明に伝えていた。奇病患者さえも受け入れていた避難所の状況の変化……いや、悪化といっていいのかもしれない。


僕は、mutterを通してしか知らないが、その様子は、想像するだけで胸が痛くなる。


過酷な状況を潜り抜けながら、仲間たちと避難所を守るその青年が、年下のはずなのに、自分よりもはるかに大人のように僕には感じられた。


僕は、彼にクミちゃんの話をした。あきらめずに奇病と戦うことを選び、結果を勝ち取った少女と彼女に関わる人たちの話を。


それが、藤岡さんの何かの助けになればいいと思った。


そんな話をしたあと、僕たちは別れた。


避難所に向かう藤岡さんの背中は、とても大きなものに見えた。

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