Chapter16  もう一度、立ち上がる-To get up again-

ゾンビ出現に怯えた一夜が明けて、僕はマンションを出た。


「正気の沙汰じゃない」と何人もの人が僕を引き留めた。実際、一夜明けたところで、安全が保障されたわけではない。


それでも、確かめたかった。みんなが無事なのかを。

心のどこかではわかっていた。でも、行かずにはいられなかった。


僕には、あそこが全てだから。あそこを失いたくなかったから。


電話による連絡はできなかった。メールによる連絡もない。


2日かけて、市内を駆けずり回った。


でも、何ひとつとして手がかりは見つからなかった。


当たることのできる場所には全て当たった。その結果がこれだ。


認めたくはなかった。でも、認めざるを得ない。


また、僕は大切なものを失った。


雨の中を歩き回って、疲れ切った体を引きずりながら、僕はグリーンウッドに向かった。誰もいない部屋。ただ、避難しようとした混乱の形跡だけが残っている。


雨の音以外、何もしないこの部屋で、僕はまた自分が一人になったことを思い知った。もうここに誰も来ることはない。いくら待っても、誰一人。


もういい。もう疲れた。死のう―――


気が付くと僕は、手近にあったハサミを手にしていた。

失うことのほうが多い人生だった。

大切に抱きしめていたはずのものも、全部この手をすり抜けていった。


なんで、なんでみんな、僕を置いていなくなってしまうのだろう。

一人は怖い、一人は寂しい、一人は、一人は嫌だ……


子供の頃の思い出がよみがえる。

あの悪夢の日から、ずっと遡って、仲良くしてほしかった両親の口論から逃げるように、小さな部屋で耳を塞いでいた子供の頃を。


―――あんな子供に「一人にさせない」なんて言って、結局お前は何も守れていないじゃないか。お前は嘘つきだ。お前は、自分が一人になりたくなかっただけだ。


お前には、最初から、何もないんだよ―――


終局宣言を聞いたあの日、心の中で囁いた声がまた聞こえた気がした。

悔しい。でも、反論できない。

僕は、一体なんなんだ?こんな僕に、生きてる値打ちなんてあるのか?


頭が熱い。視界がぼやける。

僕は、死ぬこともできずに、こんな情けない姿をさらして―――


体から力が抜ける。いつの間にか、手にしていたハサミは床に落ちていた。

よたよたと歩いたあと、僕は床に倒れ、そのまま僕の意識は途切れた。




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