Chapter15 崩壊 -Collapse-

蘇生病という奇病がある。


この奇病に感染した人は、死後、ゾンビとして蘇り、人を襲う――――


僕の生活が特殊だったからなのか、北区ではほとんど目にしなかった。


それでも、郊外や南区では、頻繁に蘇生病患者の発生があったらしい。


最後の日まで、目の前には現れてほしくなかった。


でも、現実はそんな都合のいい考えを認めてくれるほど甘くはない。


1月26日。その日、また、僕を形作っていたひとつの世界が壊れた。


25日の夜、帰宅した僕を頭痛が襲った。今までに経験がなかったほどの痛み。


立てない。その場から動けない。床に突っ伏して苦しんだ。


これで何もかも終わりだと思った。


そのまま、僕の目の前は、テレビの電源を落としたように真っ暗になった。


――インターホンが鳴る。何度も、何度も。


まだだるい体を引きずって扉を開けて、隣の人に叫んだ。


「一体、なんなんです!?」


「あんた、ニュース聞いてないのか!蘇生病だよ!蘇生病!」


「蘇生病!?」


蘇生病患者の大群が発生したというのだ。北区に押し寄せてくるかもしれないという情報が流れて、僕の住むこのマンションでも大騒ぎになっていた。


僕はマンションの1階、出入口のすぐ近くに住んでいる。


目のまえでは、マンションの住人たちが、ありあわせのものでバリケードを作るため、右往左往している真っ最中だった。もし本当に来たとして、防ぎきれるとは到底思えないのだが、それでも、何もしないよりははるかにマシだった。


まだ、身体はだるいし、頭では鈍い痛みが続いていたが、僕もその列に加わった。


その夜は、ひたすらに不安だった。


グリーンウッドはどうなっただろう。家にいるだろう子供たちは、施設に残ったままのカンちゃんは、それに、カンちゃんの面倒を見ていてくれる先輩は。


先の見えない暗闇の入口に、僕は立っていた。




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