Chapter12 未来を創るということ -Creating the future-
この世界に未来はない。
みんなどこかで「嘘だったと言ってほしい」という期待はあっただろう。
僕自身もそうだった。
でも、世界が元に戻ることを祈ったところで、今日も世界は確実に壊れていく。
それを止めることは、おそらく誰にもできはしないだろう。
それでも、映画館で輔さんに教えられたように「終わり方を選ぶこと」はできる。
悲観して今あるものすら投げ捨てて、自らの手で自らを終えるのか。
それとも、今あるものを大切にして、最後まで生きて、あがくのか。
答えは人の数ほどある。出会う人によって変わりもするだろう。
悩みながら、苦しみながら、人は答えを出していく。
いつか見た映画じゃないが、限られた未来だとしても「未来は自分で創るもの」なのだ。
ある夜、僕が河川敷で会った少年も、自分の運命に悩み、苦しみながら、答えを出した一人だった。
赤頭義久くん。彼……そう、彼は、この町のある学校に通う高校生だった。
お母さん、そして、妹さんと一緒に暮らす赤頭くんは、大切な二人の家族を一気に失い、その現実に打ちのめされ、悲嘆に暮れていた。
行き場のなくなった彼の心は、暗闇の中にあった。
赤頭くんの家族の話は、今、思い出すだけでも辛くなる。奇病が原因で妹さんを失い、その事実にショックを受けたお母さんまでが、彼を残して消えた……
お母さんの行動も無理はないのかもしれない。
でも、一人残された彼が負った心の傷を思えば、どうして亡くなった子ではなく、生きている彼をおいていってしまったのかと思わずにはいられなかった。
僕は、同じタイミングで河川敷に居合わせた水月咲蘭という男性と一緒に、赤頭くんがずっと胸にためていた思いのたけを聞いた。
一緒に過ごしたのはほんのわずかな時間だったけど、彼の失ったものを取り戻せるわけじゃない。それでも、彼が抱えている苦しみを少しでも取り除けたのなら。
ひとしきり話を聞いた後、僕は水月さんと去り行く赤頭くんを見送った。
赤頭くんとは、もう少し後に再会することになる。
悲しみを抱えた少年としての赤頭くんを見たのは、この夜が最後だった。
彼を見送った後、僕は水月さんとも少しだけ話をした。
水月さんは不思議な人だった。
話の中で、今まで、特別人には話してこなかった自分が誰にも話をしてこなかったグリーンウッドに来るまでのことも打ち明けていた。
「あなたが生きているだけで、誰かの役に立っていると思う」という言葉は、僕が水月さんからもらった大切な言葉だ。
僕は、会話の中で、彼の胸に秘めた強い決意も聞いた。
大切な人が見られなかった世界の終わりを見る―――それが、彼の原動力になっていた。その時の表情は、今までの優しい表情とは違っていた。
悲しみや怒り…いろいろな感情が伝わってきた。
水月さんの願いはかなったのだろうか?
彼とはその後も会うことになるが、お互いに深い話をしたのは、この夜が最後だった。
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