Chapter 8 夜の町で - In the night town-

小さな、けど、もう一つ忘れられない思い出がある。


グリーンウッドで子供たちに向けた映画の上映会を企画した時、僕は、上映に使うビデオを借りる係だったのに、うっかりビデオを用意し忘れてしまった。


市内でビデオを借りることのできる店はもうそうはない。


中央区の百貨店内に最近できたレンタルビデオ店が、自分が知る限り、おそらく僕の住む町で最後のレンタルビデオ店だった。


閉店間際に店に駆け込んだ僕は、あわただしく一本のビデオを借りると、急いで家に帰ろうとした。


その時だった。僕は一人の男性の肩とぶつかってしまった。


鋭さを感じる目つきとは逆に、男性の対応は穏やかで紳士的だった。


僕は鋭さに勝手に圧倒されて緊張していたが、思ったほど怖い人ではなかった。


とりとめのない話をしばらくした後、僕らは百貨店の閉店に合わせて別れた。


あの男性はどうなったのだろうか。


タケルくんと同じで、今となってはもうわからない。


僕は彼の名前を知らない。


でも、せめて、大切な人と一緒に、おだやかな終わりを迎えていてほしいと思う。


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