Chapter5 雨の夜に -Rainy night-
終局宣言のあの日以来、何人もの子供たちがグリーンウッドから消えた。
一人、また一人と連絡が途絶え、施設に通う子供たちは6人になっていた。
でも、いなくなった子供たちとの思い出が消えてなくなったわけじゃない。
通所記録や彼らが残した絵、習字、写真、そして、忘れ物がその証明になっていた。
壁につけた傷や汚れのあとが、今やそれすら懐かしく思える。
ある日、僕はふと事務室に置いてあった参考書の山を見つけた。
それは、一緒に働いている先輩が集めた子供たちの忘れ物の参考書だった。
持ち主を失った参考書が、心などないはずなのになぜか寂しげに見えた。
もし、必要としている誰かに、これをあげることができたら―――
でも、こんなご時世で、僕が考えるそんな「誰か」がいるのだろうか?
そんな時だった。掲示板で参考書を求める書き込みに出会ったのは。
書き込みの主の名前は「海里」とあった。苗字はない。
ハンドルネームなのだろうか?
掲示板には、悪質なデマや騙しもたくさん溢れているから油断はできない。
でも、僕はこの書き込みの主に会ってみたくなった。
僕は最初、融合病の青年と出会った一期一会橋で会わないかと呼び掛けた。
しかし、反応がない。
おりしもその日は雨だった。さすがに雨の中を橋で待たせるのもまずいと思った僕は、グリーンウッドに来ないかと提案したが、そこにも反応はない。
最初の書き込みのとおり、一期一会橋に向かうか。傘をさして僕は歩き出した。
この時の僕は気が付かなかった。書き込みの主が返事をくれていたことを。
そして、グリーンウッドに来ていたことを。
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