ぼくの幼馴染は余命1年―③

「命を、捨てる‥‥‥?」

「そうじゃ」

「‥‥‥」

「まぁそうじゃろうな。実感が湧かんか」


 だいきは茫然とした様子で、目の前の妖怪を見つめる。


「僕の命を捨てて、どうするんですか‥‥‥?」

「正確には捨てる訳では無い。”譲渡”するのじゃ」


 だいきは今の言葉を聞いて何となく察した。


 僕の命を美緒に分け与える、多分そういう事なんだろう‥‥‥。でも――


「‥‥‥そんな事可能なんですか?」


 普通に考えて出来るわけがない。科学的な根拠は全くないし、それも目の前の妖怪は余りにも怪しすぎる。信じろというのが無理な話であるのだが、なぜかだいきは妖怪が嘘をついているとは思わなかった。

 

「ほっほ、妾を誰だと思ぉちょる。遥か昔、世界の混沌を沈めた7柱の神が一柱――×××神じゃぞ?」

「っ!」

「‥‥‥?あっ、すまんすまん。この言語は通じんかったな」


 なんだ今の音!?

 まるでテレビのノイズの様な音が、途中妖怪の言葉を遮った。


「お主等に伝わる様に言うと妾は―――地母神という」

「神様?」

「‥‥‥お主先程まで妾をなんじゃと思っとたんじゃ?」

「‥‥‥」


 ロリババアと思ってましたなんて、言えない。


「まぁよい。話は戻るが、お主の言うた女子おなごを救う方法は確かにある。じゃが、大きな力には必ず犠牲は伴うものじゃ」


 妾もそのせいでこのような姿になってしもうたしな―――


 妖怪はどこか悲しげな瞳で呟いた。


「お主に教えるのは―――【命分け】という方法じゃ」

「命分け‥‥‥」

「先程も言うたが、お主の”命”を対象に譲渡し、対象のありとあらゆる病・怪我を癒す、いわば×××××みたいなもんじゃな」

「っ」

「む、またやってしもうた。すまんな」


 そのノイズ音心臓に悪い‥‥‥。


「万能薬みたいなものだと今は考えておくのじゃ」

「分かりました」


 ありとあらゆる病気を治す……。これだったら美緒の病気も治るかもしれない!正直僕の命を譲渡するのは怖いけど、美緒の為だったら不思議と大丈夫な気がする。

 でも、一つ疑問がある。


「‥‥‥僕の”命”をどれくらい譲渡すれば、美緒は治るんですか?」


 これが、一番の不安の種だ。もし僕の”命”全てを譲渡しなければならないと言われたら‥‥‥どうしよう。わからない‥‥‥。僕は、決断することが出来るだろうか。


「それは対象の状態によるのじゃ。対象の状態が悪ければ悪い程、お主は譲渡しなければらん。じゃが逆を言えば、対象の状態が良ければよい程、少ない譲渡で済む」

「そう、ですか‥‥‥」

「む、女子おなご状態はそこまで悪いのかぇ?」

「‥‥‥はい」


 ‥‥‥美緒の状態はに近い。


 僕は美緒の今の状態を事細かく話した。


「なんと‥‥‥余命1年とは‥‥‥」


 妖怪―――地母神は、頭を抱えながら呟いた。


「どのくらい‥‥‥譲渡しなければいけませんか?」


 だいきは不安げな瞳で地母神に問うた。


「正確には分からんが、おそらく―――60年程じゃ‥‥‥」

「っ!?」

「‥‥‥今から約200年前か、戦争で全身火傷の傷を負った妻を救うため、一人の男が【命分け】を使うたことがある」

「‥‥‥」

「男は必死でのぉ。妾に泣きながら迫ってきたわい」


 地母神はどこか昔を懐かしむかのように微笑んだ。

 

「その男の人は‥‥‥どのくらい譲渡したのですか?」

「全てじゃ」

「ぇ…‥」


 即答だった。


「その男は全”生命”を”命”として譲渡したのじゃ」

「そんな‥‥‥」

「男の妻はもはや死に体での。数分先には死ぬかもしれん状態じゃったのじゃ。故に代償は大きく、譲渡は全生命となったわけじゃ」


 60、年。僕が今18歳だから、実質78歳になるってことなのか‥‥‥。平均寿命が80歳としたら、僕はあと2年しか生きられないのか?

 

 嘘だろ……。


 だいきが一人自分の”命”について落ち込んでいると、地母神から更なる大打撃となる情報を貰う―――


「‥‥‥ここまで言って、お主には申し訳ないがのぉ。―――【命分け】にはもう一つ代償があるんじゃ」

「ぇ‥‥‥まだ、あるんですか?」

「すまんのぉ‥‥‥。じゃが、それほどまでに【命分け】はリスクが高いものなんじゃ。簡単には扱っていい代物じゃないんじゃよ」


 

 地母神はスッと息を吸う。そして—――



「【命分け】を使用した者は―――記憶から”存在を抹消”されてしまうんじゃ…‥」

「‥‥‥」


 僕は、その場で立ち尽くすことしか出来なかった。



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