二、 二十代
そんな私も大人になって、周りの反応を伺うということを覚えた。己を殺して、その場を凌ぐということがいかに大切なのかをよくよく理解するようになった。
大したことをしているつもりはなくても、周りには知識をひけらかしているように見られてしまうし、女が賢いということは、一周回って男を小馬鹿にしていることになってしまうものらしい。そんなつもりはなくても。
だから、身の回りの男性があれこれ知識を披露しようとするときは、私は知っていても知らない振りをして、手を叩いて目を大きく見開いてみせるようになった。
「初めて知りました!」といかにも仰々しい素振りで、相手の知識を褒めそやしてやれる女ほど、愛らしく映るものなのだ。
少なくとも、そうやって見せなければ、私の結婚生活はもっと酷いことになっていたに違いない。
私と結婚してくれた夫は、勤勉な人ではあったけれど、賢人かと言われれば決してそうではなく、凡夫に毛が生えたような人だった。
だから結婚当初、私が前述のことを理解していなかった頃は、大層不甲斐ない思いをさせたに違いない。私がもっと早く馬鹿な女を演じられれば、彼は無駄な劣等感を抱くことも、男性にとっては命より大切な矜持を傷つけられることも、きっとなかったのだろうから。
それでも私にとっては優しくて良い夫だった。だから周りに妻より賢くない夫と評されるのがどうにも我慢ならなくて、私は懸命に馬鹿な女を装った。結果それがうまく行ったのかと言われれば、果たしてどうだったのか、夫を亡くした今となってはもう、わからないけれど。
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