第11話 見た目が気になる彼女

霊能力者に会いに行く。

それが、ひとまず次のミッションだ。


でも、その前に確認すべきことがある。


「ねえ、君は幽霊だからこの世界のものには触れられないんだよね」


「ええ、そうね」


「だったら、どうしてここの床に立ってられるんだい?」


僕が確認したいこと。それは、彼女の幽霊としての身体の特性だ。

僕の身体はすり抜けるくせに、歩くときは地面に足をつけている。

いまいちルールが分からない。


「生物はすり抜けて、物体はすり抜けられないとか?」


僕は彼女に仮説をぶつけてみた。


「なるほど、確かにそう見えるわね。でも違うわ」


あっさりと否定される。


「私はこの世界のすべてのものに触れられない。生物にも、物質にも」


予想に反した彼女の返答。


「え!?だって、今もベッドに座っていたじゃないか」


「簡単に言うと、浮いてるの。ベッドに体重を預けているわけじゃないわ」


「それって、座った姿勢のまま、ちょうどベッドの表面ピッタリのところで、身体を浮かせているってこと?」


「まあ、そんな感じね。生前のイメージが残っているのだと思うわ。自分では意識しなくても、地面を歩いたり、ベッドに座ったりできるの」


「じゃあ、壁をすり抜けたり、空を飛んだりもできるってこと?」


「ええ、もちろん。ただし、まだちょっと集中しないと上手くできないわ」


ああなるほど。

彼女は、その空間にただ存在しているだけで、物理法則の影響は受けていない。

受けているのは、彼女のイメージの力だ。

彼女自身のイメージの力で、僕と同じように床を歩いたり、壁にもたれかかったり、ベッドに座ったりを、すべて無意識で行なっている。

ワンピースのスカートがヒラヒラはためくのも、風ではなくイメージの力によるものだろう。

逆に生前のイメージが強すぎるおかげで、本来なら当たり前にできるはずの『壁をすり抜ける』『空を飛ぶ』などのアクションに集中力が必要みたいだ。

なんだか便利なんだか不便なんだか分からない。


とすると、彼女の声が聞こえたり姿が見えるのは、実際には空気が振動したり光が反射しているのではなく、僕の脳内に直接そのように働きかけているからだろうか。

詳しい原理はよく分からないが、そういうものだと考えることにしよう。


「ありがとう、少しは理解できたような気がするよ」


「そう、じゃあ私からもいいかしら」


「ん?なにか質問でも」


彼女は、きょとんとする僕をなめるように見る。

正面から、横から、頭の後ろのほうまで覗き込んで、ひとしきり僕を観察する。

や、やっぱり距離が近い。

僕の後頭部を覗き込むときなど、彼女の胸が僕の頬すれすれの位置にまでくる。

相手が幽霊なのは重々承知しているが、女性と接することに慣れていない僕にとっては目のやり場に困る。


「あなた、私の協力者よね」


「う、うん」


「それってパートナーってことよね」


「そ、そうだね」


「これからしばらくあなたと行動を共にするわけよね」


「ま、まあ、君もここに住むってことだし」


「じゃあまずは、あなたのその身だしなみを何とかする必要があるわね」


「は、はい?」


「髪はぼさぼさ、服はださださ、これじゃ私のパートナー失格だわ」


彼女が悪びれもなく言い放つ。

昨晩出会ったばかりで、善意で泊めて、無償で協力しているはずが、いつのまにか立場が逆転しているんじゃないか。とは、さすがに言えなかった。

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