第10話 意気込む彼女

携帯電話が耳元で鳴る。

流れているのは『THE WHO』というイギリスのバンドの『MY GENERATION』という曲だ。

今日はバイトが休みだというのに、目覚ましを切り忘れてしまった。

僕は布団から手を伸ばして音楽を止める。


「ようやくお目覚めね」


ビックリして声のほうに寝返りを打つと、ベッドの前で黒いワンピースの彼女が仁王立ちしていた。


ああ、そうだ。

昨日、僕は、あれからなかなか寝付けなくて、それから……。


窓から差し込む朝日が、彼女の髪を照らす。

キラキラと美しく輝いていて、これが夢なのか現実なのかが分からなくなりそうだ。


「何よ、早く起きなさいよ」


彼女が寝ている僕に顔を近づける。

ち、近い。

僕は急に恥ずかしくなり、布団に潜った。


「ちょっと、あなた、まだ寝るつもりなの」


「ちょ、ちょっと待って、すぐ起きるから」


一呼吸置いて、ベッドから起き上がる。

それから僕は少し緊張しつつも、いつも通りに朝の準備をする。

その間、彼女はおとなしくテレビを見ていた。


「お、おまたせ」


「もう、いつまで寝てるのよ。もうお昼よ」


普段、アルバイトは12時からなので、11時に目覚ましをセットしてある。

テレビに表示されている時刻を見ると、11:20だった。

昨晩と同じく、ベッドにふたりで並んで座る。


「それじゃあ、私の記憶を取り戻すために次どうするのか決めましょう、協力者さん」


「ああ、それなんだけど、昨日なかなか眠れなかったから僕なりに考えてみたんだ」


「えっ、もう何か考えたの」


彼女が意外そうな顔でこちらに振り向く。

たぶん、僕が昨晩すぐに寝たと思っていたのだろう。

残念だが、そんなに図太い神経ではない。


「うん、霊能力者に会いに行くってのはどうかな」


「霊能力者?」


「前にテレビ番組で、霊に取り憑かれた人を霊能力者が霊視して、その霊の生前のこととかを言い当ててたのを思い出したんだ。それなら、君の素性がなにか分かるかもしれないよ」


「なによ、それ、胡散臭い番組ね」


わりと真面目に考えたのだが、彼女の反応はいまいちのようだ。

僕も、以前は幽霊なんて信じていなかったけど、彼女自身が幽霊なのだから、もうそこは信じるとか信じないとかの話ではないと思うけど。


「その手のプロなら、君のことが見えるかもしれない。幽霊が見えるのを売りにしてるんだから、きっと確率は高いはずだよ。餅は餅屋って言うだろ」


「まあ、それもそうね」


「それに、僕以外にも協力者がいたほうがいいと思うんだ。三人寄れば文殊の知恵って言うだろ」


「まあ、多いに越したことはないわね」


「じゃあ、最初のミッションは霊能力者に会いにいく、でいいかな」


「異論はないわ」


彼女は立ち上がって、大きく背伸びをする。

きっと幽霊だから背伸びに意味なんてないんだろうけど、彼女の「よし、やるぞ」という気持ちが見て取れた。


「じゃあ早速、その霊能力者とやらに会いに行くわよ」


「い、いや、どこにいるかまでは、その」


今すぐにでも出かけるぞ!という雰囲気だった彼女が、出鼻を挫かれ、無言のままもう一度僕の隣に静かに腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る