第2話 今日もいる彼女
コンビニでのアルバイトは、これでなかなか忙しい。
ずっとレジに立ってお客さんを待っているだけではないのだ。
数時間おきにトラックがお弁当やお惣菜を運んでくる。
それらを検品して陳列するのも仕事のひとつだ。
空いた時間があれば、掃除をしたり、バックヤードから商品を補充したりする。
今日は、雑誌の整理をしようと雑誌コーナーの前まで来てふと外を見たとき、反対側の歩道に彼女を見つけた。
黒いワンピースに黒のロングヘアー。細く白い手足。
遠目からだと、華奢で儚い少女というイメージが似合う。
−−4日。
はじめて彼女を見たあの日から今日まで、もう4日連続で彼女を目にしている。
彼女は決まって道路を挟んだ反対側の歩道にいて、その場でじっとしたまま動かない。
気づかないうちにそこに居て、いつのまにか居なくなる。
現れる時間帯もバラバラで、初日のように何時間も居たかと思えば、昨日のように数十分で居なくなるときもある。
僕自身、4日目ともなると彼女のことを無意識に探す癖がついてしまったようで、アルバイト中にぼんやりと外を見る時間が増えたように思う。
仕事中なので常に注意を払うことはできないが、彼女を取り巻く空気感が独特なこともあり、僕はすぐそれに気が付いた。
一体、彼女はあそこで何をしているのだろうか。
何か目的があるのだろうか。
今日も昨日までと同じく、彼女の行動に変化はない。
駅と住宅街を行き来する人々の中で、彼女だけが立ち止まってあの場所に居続ける。
今の時刻は夕方、16時の少し手前。
平日の場合、16時を過ぎると学校帰りの高校生や大学生が徐々に増えてくる。
駅で降りた人たちは、このゆるやかな坂を登って住宅街へと向かう。
あそこに立つ彼女もまた、住宅街に住んでいるのだろうか。
昼間からあんなことをしているのだから、まさか学生ではないだろう。
いや、大学生だとしたらありえるかもしれない。
そんなことを考えながら、雑誌を整える。
あれだけ目立てば、他の従業員も彼女の存在には気付いているだろう。
しかし、特に僕の知る限りでは話題に上がっている雰囲気はない。
と言っても、僕は仕事中に雑談できる仲の良い同僚などいないので、本当のところはどうなっているのか分からない。
僕はまだ、彼女の顔を見たことは一度もなかった。
いつもこちらではない別の方向を向いていたり、ちょうど影になっていたりする。
今も、彼女の身体は駅のほうを向いていた。
そのシルエットを眺めながら、彼女の顔を想像する。
美人であってほしい反面、あんな怪奇な行動を取る美人がいたら「もったいない」とも思う。
服装や髪型の雰囲気からして、美人系よりも可愛い系なんじゃないかと睨んでいる。
客のひとりがレジへ向かったので、僕は急いで手に持っていた雑誌を元の位置に戻す。
雑誌コーナーからレジまで小走りで戻る途中、最後にチラッと彼女のほうを確認する。
−−どういうわけか、彼女の顔がこちらを向いていた。
咄嗟の出来事だったのではっきりとは確認できなかったのだが、ほんとうに、ほんとうに一瞬だけ、彼女と目が合ったような気がした。
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