第五章 復讐と報復
第1話 決意の行く先
皇帝・
その兄である燦
「いやはや、待たせたね。
数刻して、龍琰が大聖宮の会議室に戻って来た。
「燦大尉の尋問を済ませてきたのだろう? 結果はどうだったんだ」
どうやら結果は芳しくなかったらしい。
「うーん……流石は大尉、といったところかな。大人しく連行はされたものの、全く口を割ってくれなくてねぇ」
「夕刻までかけても、か。……燦淑妃の方は?」
「そちらも一緒さ。武家の出身って、皆こういうものなのかい?」
困った顔で眉を下げて、龍琰は白い髪を片手でわしゃわしゃと掻きながら言う。
鈴綾は座っていた椅子から立ち上がりながら、
「私が同じ立場なら、家族を売るような真似は死んでもしないだろう。例え武家でなくとも、家族に対する意識とはそういうものなのではないのか?」
と、冷静に返した。
「……そうだね」
呟くように溶けた龍琰の言葉は、誰か──亡くなったという彼の母の事だろうか──を懐かしむような、そんな色を含んでいた。
けれども龍琰の寂しげな表情は一瞬の事で、次の瞬間にはその片鱗すら残されていなかった。
「さて、大尉の尋問は引き続き刑部尚書の者に頼んである。今日はこのまま、馬車で北に向かって出発するよ」
「……というと、件の呪具商人の店だな?」
「ああ。僕達で直接現地に赴いて、証拠を掴みに行くのさ」
旧
そこと一年前から取引があったと発覚したのが、今回身柄を確保された燦兄妹の家であった。
鈴綾の調べでは、妹の英蘭が突如として貴妃・
その真相を暴くべく調査に乗り込んだ鈴綾は、兄の項馬が差し向けたという宦官に、吹き矢で狙われた。
二人と同じく拘束されたその宦官も、後宮に来る以前は、燦家の使用人として雇われていたのだという。彼も元は軍人だったというが、こうした『裏』の仕事をさせる為の人員として、項馬が引き込んだ人物だったのだと自白しているらしい。
使われた吹き矢からも猛毒が塗られていた事が判明し、秘密を嗅ぎ回る鈴綾を消そうとしての犯行だったと予想されている。
「貴妃の暗殺に使われたのが呪具であるのなら、それと同じ物を見つけ出せれば僕が調べを進められるんだ。それに……取引相手の名簿でも見付かれば、燦家への疑いは真っ黒なものだと確定する」
「同じ種類の呪具なら、実際に貴妃様に使われた物でなくとも問題無いのか?」
「うん。術の種類と構成には、それぞれ特徴が出るものだからね」
龍琰の話を纏めると、こうだ。
・貴妃に使われたものと同じ呪具を発見する。
・顧客名簿を発見する。
・商人を捕える。
これら三つが全て揃えば、貴妃暗殺事件に関する証拠として申し分無いものになるという。
既に商人の店の場所は探り出せている。後はこれから馬車に乗り込み、約十日間の移動を経て現地に向かうのだ。
*
馬車に揺られる、鈴綾と龍琰。
その傍には、皇帝と
それは、鈴綾が長年愛用してきた剣。
帝国の正規軍としてではなかったが、父である
この剣があれば、私はきっと大丈夫。相手が誰であろうと、どんな困難が待ち受けていようと……必ずや、我が友の為に乗り越えてみせる!
それに……今の私には、もう一人の相棒が居るのだから。
「もうじき、例の商人が店を構える山に入る頃だ。僕に言われるまでもないとは思うが、気を引き締めておいてくれ」
もう一人の相棒──
そして、友と自身の潔白を証明すべく後宮に乗り込んだ、天才剣姫・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます