第4話 皇帝からの命令

 尚官司の執務室に残った鈴綾と黄玉は、桂英から催し事についてのざっくりとした説明を受けた。


 今回の催し事は冬期の開催である為、可能な限り室内で行う事。

 尚官司だけでなく、他の司からの協力を得て行うのを許可されている事。

 妃嬪と女官の精神的安定を図る内容にする事。


 桂英が語った中で重要な点は、主にこの三つである。

 一通りの内容を確認したところで、鈴綾が質問を投げ掛けた。


「李長官。催し事の内容についてなのですが、既に候補は決定されているのでしょうか?」

「準備期間には二節ほどの時間を頂いているので、ある程度の事は可能でしょう。加えて、開催条件は室内である事が望ましい。となれば……食事会か、舞の鑑賞会が無難なところですね」


 今が冬でなければ、庭に出て花の鑑賞会や茶会も開けたところだ。

 妃嬪達の大半は綺麗な物や甘い食べ物を好むし、外に出た方が開放感も得られる。ここ最近の鬱憤や不安を晴らすには、そういった催しの方が効果的に思えた。


「屋外となると、当日に雪でも降れば予定が狂ってしまう危険がありますな……」

「雪も勿論ですけれど、妃嬪様を寒い中で何刻も過ごさせるだなんて出来ませんし……」

「ええ。ですので可能な限り室内で、と陛下も仰っているのです」


 後宮において、雪と寒さへの対策は一般的なものしかなされていない。

 皇帝が過ごす大聖宮であれば、皇帝の私室や執務室にのみ防寒用の結界が張られている。地獄牢の極寒結界と似たようなものだ。

 これらの結界の維持にはかなりの人員を必要とする為、後宮にまで結界張りの術士を連れて来る余裕が無いのである。

 すると桂英は、懐から二つの書簡を取り出した。そのうちの一つを鈴綾に、もう一つを黄玉に手渡してこう告げる。


「食事会にするにしろ、舞の鑑賞会にするしにろ、百人を超える妃嬪方に満足して頂くものを提供するには他司の協力が不可欠です。そこで貴女達には、私からの書簡を届けて頂きます」


 鈴綾が渡されたのは、尚食司女官長宛の書簡。

 黄玉に手渡された方が、尚儀司女官長に宛てた書簡だ。


「それぞれの女官長に中身を確認して頂き、後日返事を届けるようお願いして下さい。良いですね?」

「はいっ!」

「どうぞお任せを」


 二人は受け取った書簡をしっかりと懐に仕舞い込み、桂英に一礼してから部屋を出る。

 青龍殿を出たところで、鈴綾は北へ。黄玉は南側の殿を目指して二手に分かれた。

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