第7話 聞き取り調査

 黄玉の身長は、鈴綾よりも頭一つ分は小さい。

 それでもまだ彼女は若いので、何年かすれば同じぐらいの背丈になるのだろう。鈴綾は黄玉の小さな背中を眺めながら、彼女の案内について行く。


「青龍殿を含めた四方の建物には、それぞれ倉庫が設置されているのです。基本的には、そこに置かれた司に必要な資材や資料等が保管されていますね」

「先程までそこの整理を任されていたようですが、尚官司にはどのような物が置かれているのですか?」

「ええとですね……」


 と、話しながら二人は青龍殿を出た。

 高い塀に囲われた巨大な華絢宮の土地に、冬の太陽が優しい光を当てている。空にぽつぽつと浮かぶ小さな薄い雲からして、今日は洗濯日和だろう。


「尚官司では後宮内の事務的な仕事も受け持っているので、女官達に関する情報や、妃嬪方の出入りの記録があったりするようです」

「するようです……と言うと、貴女自身はあまりそちらには詳しくないのでしょうか?」


 鈴綾がそう返すと、黄玉は周囲の目を気にして辺りを窺った。

 近くに誰も居ないのを確かめると、声を潜めてそっと口を開く。


「実は……わたしはまだ、尚官司に配属されて日が浅いのです。女官歴は一年半ぐらいなのですけれど」

「……つまり、それまでは他の場所で仕事をされていたのですね?」

「ええ、その通りなのです」


 どうした事か、急に黄玉の表情が暗くなった。


「……わたしが以前までお勤めしていたのは、白夜宮だったので」

「白夜宮……⁉︎」

「あわわっ、声……! 声を抑えて下さいぃっ……!」

「す、すみません……!」


 まさか、彼女の口から白夜宮なんて単語が出るとは予想もしていなかった鈴綾は、少々大きな声を上げて驚いてしまった。

 すぐさま黄玉に注意され、二人は改めて周囲を見回した。……どうやら遠くに見える人々は、こちらの様子を気にしていないらしい。


「……改めてお訊きしたいのですが、黄玉様は以前白夜宮にいらしたというのは、事実なのですか?」


 一度冷静になって会話を再開した鈴綾は、どうしても聞かなければならない問いを投げかける。

 白夜宮といえば、つい先程李長官から教わった桧貴妃の使用してた宮殿だ。そこの侍女として黄玉が働いていたというのなら、貴妃の死の前後について詳しく情報を得られるかもしれない。

 すると黄玉は「ここでは人目が気になるので」と話を区切り、鈴綾を連れて場所を移した。

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