第26話 王までの道・4〜王子不在〜

 翌日の朝、俺は頭に激しい頭痛からレグ王子の書斎前の廊下で目を覚ました。


 ……。うん、記憶は飛んでない様だ。安心安心。昨日の夜、レグ王子の側近メイドに防御魔法無しで頭に一撃蹴りを食らったんだっけな。


 今思い出してみれば、あの痛みは、自分の部屋ですっ転んで後頭部をベッドの角に強打した以来だわ……。あの時は人間だったからな。下手したら死んでたと思う。


 そう思い耽っていると、王子の執事をしている若い男が一人俺に向かって走ってくる。なんだか急いでるっぽい。


「最上様! 此処に居ましたか!」


「あーその様って呼び方辞めてくれる? マジでいつ呼ばれても慣れねえから。呼び捨てで良いよ」


「では最上……さん。単刀直入に言いますが、現在レグルス様が、怪我で体が動かせないと言っておりまして……その……王子の役割の代理を最上……さんに任せたいと」


 ええええええ? いや昨日あったばかりでしょ? もしや昨日、俺に蹴り飛ばされた事気付いてねぇな?


 ま、どう考えても俺の事を知らない筈の王子がそんなにこの俺に代理を任せたいと言うならば、その通りにしてやろうじゃねぇか。そんなもの……放棄してやる!!


「あいあい分かった分かった。今行くわ」


「ありがとうございます……」


 王子の代理だと!? ふざけやがって……、なんなら、どれくらいの期間代理を任せられるかしらねぇが、滅茶苦茶にしてやろうじゃねぇか!


─────────────────


 王子の1日の役割。


 特に無し…………


 いや、一つあるとすれば、国民のお悩み解決。これに決めた!


 朝7時起床……(気絶からの回復)


 朝8時……早速お悩み解決開始。


「レグルス様……?」


「あー俺王子の代理ね。悩み事は俺に任せろ。何でも解決してやる」


「そうでしたか! では、最近また、ずっと溜め込んでいた在庫が夜な夜な減っているのです。どうせまた貧困地区にいる子供の仕業だろうと思っているのですが……こう一定の時期に限ってかなり多めの損害があるのです。もしそれが本当に子供の仕業だとするなら、叱っては頂けないでしょうか? 流石に子供に対して罰を与えるのは心が傷むので……」


 つまりそれはマジモンの盗みだったら殺してもokという事だな? 良いだろう。はい分身っと。


「は!? 代理が二人に……」


「あー心配すんな。これ、俺だから」


「は、はぁ……」


 軍指揮隊長になってから、一人じゃきついと思ってから新しく発現した魔法。


 ただ分身ではなく、全ての分身は本体の俺の脳によって動かす事が出来る。一人一人の意思、考え、行動を一つの脳で熟すんだ。


 一見脳に多大な負荷を掛けていると思うが、『俺は』余裕。だって脳一つじゃねぇし……。


 え? 分身したらその分身分、脳が一つ増えるんだせ? どう言う事かって言うと……、簡単に言えば、俺の視界に映る景色は、大量のモニターが映ってる訳。


「後はこの俺が解決するから、もう行って良いぜ」


「あ、ありがとうございます!」


「はい次〜」


 …………今普通に仕事してるじゃねぇかって思ったろ? 甘い甘い! 俺の考えを見抜けなくちゃ、この先に何が起こるか分からねえぜ!?


 あ? 夜な夜な盗まれてる在庫問題を解決してほしい? あぁ、解決するさ。勿論二度と起こらないようにな!


 だが……そう言う依頼には報酬が付き物だ。恐らく解決後全ての報酬は後払いでこっちに払われるんだろうけど、残念ながら、解決したと思いきやてめえの在庫はすっからかんだ! 更に在庫補充ルートも遮断! 店が潰れるのは時間の問題だぁ……。


 こんな感じにやってくぜぇ?


「代理と聞いて依頼に参りました。軍隊長の者です。現在、未確認地帯の偵察の為、遠征部隊を編成中なのですが、どうにも我々の部隊に丁度体調不良や特別な都合上、人手不足でして……他の軍から人手を貸して貰えないでしょうか?」


 これって……軍指揮隊長の役目そのものじゃん……ま、良いや。分身っと。


「……最上軍指揮隊長が二人……?」


「大丈夫。これ魔法の類だから、意思はこの俺と繋がってる。心配すんな。俺一人の戦力を知らねえなんて言わねえだろうな?」


「はっ! ある日の遠征中、不明部隊の奇襲を事前に防ぎ、ついでに『面倒だから』という理由で、奇襲を仕掛けたであろう部隊が駐屯している可能性のある場所を一撃で焼き払ったという偉業ならぬ、狂業をこなしました!」


 あー、そんな事もあったなー。狂業って……んな言葉聞いた事ねぇぞ……。


「あー、うん。あったねそんな事。んじゃ!この分身を連れて行って来い!」


「ありがとうございます!」


 さて、これはただ遠征じゃあ無い。単なる……武力制圧じゃあ! その未確認地帯? そこに村があろうが、集落があろうが……遺跡だろうが! 邪魔な物は全て潰す……。


 んでぇ、この後に、どんな報告があろうが俺は知らんぷりだぁ……直後に事実改変をし、全てはあの軍隊長がやった事なんだよぉ!!


 はい次〜。


───────────────


 それからなんやかんやあって……

 午後8時45分・・・・・・・・・・


 王子不在の謁見室は、怒りや嘆きが渦巻く混沌とした空間になっていた。


「最上君……一体これは何があったんだい?」


「ん〜はて? 俺は知らんなぁ? この俺に代理を任せたのは何処の誰だぁ?」


 レグ王子の答えを搔き消す様に飛び交う怒号と悲痛な叫び。


「私の息子を返してええええ!」


 隣町に住むとある女性の息子が問答無用に遠征しに来た騎士団に焼き殺された。


「問題が解決どころか! 何もかもも潰れちまった! どうしてくれるんだ!」


 畑業、漁業、交易、外交、貿易凡ゆる全てのルートや商業が潰れた。その原因は全て『もう一人の代理』と意味の分からない事をいう人々。


「一体何をしたんだ! 最上君! 答えてくれ!」


 っち……五月蝿えなぁ……


キング威光インフルエンス!」


 全員ひれ伏せぇ! この瞬間口答えする奴は順に殺す!!


「ひぃっ!? は……」


 するとその場にいた兵士、国民全員が頭を地に付け、平伏す。


「……最上君……なんて男だ……体から放たれるオーラ一つでこの場いる全ての人間を黙らせた……」


「ふぅ……全員此処から出て行け。また、口答え、逆らう者は問答無用で殺す」


 俺の言葉を聞いた王子以外、全ての兵士と国民がその場を去った。

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