第5話


 放課後になる直前、つまり授業終わりのHR《ホームルーム》に雨が降り始めた。


「花さんに相談すれば少しはこのモヤモヤ解決するかな」

 雨で濡れ始める窓を眺めながら一ノいちのせ隆一りゅういちはボソリと呟いた。


 モヤモヤの原因は、朝の一件から結局戻って来ることは無かった 白百合しらゆり 百華ももかの事だ。


「どうするかなぁ…」

「何をどうするんだ?」

 隆一が考え込んでいる後ろから突然話しかける人物がいた。


「なんだ、九里くりかびっくりした


 そっちのHRはもう終わったのか

 早いな」

 その人物は九十八にたらず九里だった。


「早いなと言うよりもうとっくにこのクラスのHRも終わってるぞ」


 隆一が、まさか、と半信半疑で後ろを振り返って教室を見回すと教師の姿はなく暇を持て余した生徒がまばらに残っているだけだった。


「それで?

 何を考え込んでたのさ

 俺でよければ聞くぜ?」


 隆一の前の席の椅子を借りて、隆一の正面に座った九里。


 隆一は九里を誰よりも信用し、信頼している。

 だからこそ戸惑っていた。

 自分がただただ悪いことだと分かっていることを相談していいものかと。


「その…白百合さんのことで…少し喧嘩になっちゃって…」

 それでも親友には隠し事はしたくなく、少しぼかしながらも告げることにした。


「なるほどなぁ…

 もしかしてさその喧嘩って朝だったり?」

 何かを思い出すかのように目線を右上方向に向けながら九里は隆一に聞いた。


 その通りだと頷き、そのまま多分帰ったんじゃないかと言うことを伝えると。


「だから昼に教室覗いてもいなかったのかー」

 あっちゃー、と言った感じで九里は右手で目を覆った。


「なんか白百合さんに用事あったの?」

 九里の様子が気になる隆一は聞いてみることにした。

 そうすると九里は

「いや、ちょっと聞きたいことがあっただけ

 急ぎのメールじゃないしメールでも聞けるしね

 それよりも、隆一の方の問題が先」

 深く聞かれたくないのか。それとも個人同士の話なのか。隆一の方の話題に戻した。


 隆一も深く追求するべきでないと悟ったのかそれ以上は聞こうとはしなかった。


 そしてその後隆一は九里に朝の出来事を全てを話した。



 自分が結局我慢出来ずに怒ってしまったこと、それで白百合 百華を傷つけてしまったこと。

 その後、結局戻ってこなかったこと。

 今は自分が悪かったと、反省してること。



「なるほどな」

「うん」

 お互いに目を合わせる。

 隆一は思いっきり怒られる覚悟をしていた。

 女の子を泣かせてしまったのだから。

 そう思ったのだが。


「悪いってわかってるのならそれでいいじゃん

 あとはちゃんと謝って許してもらえ


 アイツはそこまでネチッこくないからさ!」

 隆一が思っていることとは別の回答が返ってきて、キョトンとしていた。


 九里はその表情を見て隆一の考えがわかったのか

「怒られるとでも思ったか?

 一方的になんかやったんならそりゃ怒って他かもしれないけど違うんだろ?

 んで反省もしてるんだろ?

 ならそれでいいじゃん!

 はいこの話はこれでおしまい!」


 外の天気とは真逆のとてつもなく爽やかな笑顔で隆一の悩みを吹き飛ばした。


「やっぱ九里に相談してよかったわ

 ありがとうな」

「おう!どういたしまして!」

 そう言いながら机越しに肩を組んで外の景色を眺めた。


 外の景色。


 雨。



 そう。



『 黒木田 花』さんと会える日。



『 一ノいちのせくんへ


 いつもの教室で待ってます


 今日は何をしましょうか


 花より』

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雨の日の恋 こばや @588skb

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