第二十五話 開票と離別18
さてさて、はてさて……
両手を合わせて腕を伸ばすと、パキパキと関節がなる音が小気味よく響く。
結果から言えば、小泉が新生徒会長で白石が新副生徒会長ということになった。
立場や肩書があることから、どっちつかずの対応になってしまったが、生徒会のまとめ役二人が決まったことで次は補助する役員を決めることになる。
これで、会長も一安心といったところだろうか。内心では、小泉に決定した瞬間に飛び跳ねていそうだ。
それくらい、あの人は小泉を弟のように慕っていたはずだ。
現在、三浦が務めている会計と火野君の庶務は立候補の報告はない。
このまま進めば二人が続投の意思があれば、無条件で継続して次期生徒会にも在籍することになるのだが……
問題は、俺と優斗が同じ役職で立候補することである。
役職は俺が現在就いている会長補佐。
書記は空白で、立候補がいなければ小泉を筆頭に他の生徒会役員の承認を得て推薦が行われるだろう。
推薦はあくまで生徒会側から生徒へ加入の提案をするものであり、柊茜の持っていた会長枠ではない。
推薦を受けた生徒は生徒会他、担当教員との面談などの手順を踏んでから加入となる。
人員的問題は、最悪推薦という形で埋めていけば大丈夫だ。
だから、俺は自分の選挙についてだけ集中すればいい。
白石と別れ、雫と綺羅坂から校内での会長決定の反応を聞いた後に帰路についていた。。
「正式には明日の昼に湊君と荻原君が立候補することを発表するみたいですね」
雫がどこからか、役員選挙の募集要項が書かれた用紙を手に告げた。
あれれ~、おっかしいな~?
どこぞの少年の名探偵ばりの音声が脳内再生される。
なんで彼女が持っていて、俺は持っていないのでしょうか……
本日最大の謎に直面しながらも、思考を切り替えて考える。
「体育祭までも余裕がないからな……会長と副会長が決まれば組織の大枠や方向性が決まる、となれば後は合う人選だ」
「全く合う気配がない応募者が二名いるのは私の気のせいかしら?」
雫とは反対側から、冷静な指摘を綺羅坂は言ってのける。
本当、人が気にしている部分を的確に突いて来るのはやめていただきたい。
本当であれば会長とも話をしておきたいところだったのだが、あの人は今日は忙しいらしい。
次期生徒会長さんと副会長さんの二人と今後についての話を教員としている。
だから、こうして三人で家や畑以外がほとんどない道を歩いて帰っているわけだが、雰囲気は以前のようなギクシャクした感じはない。
全員の視点が役員選に向いているだけに、余計な情報を除いて話が出来ていた。
「問題はそこですよね……荻原君はともかく湊君は完全に理想の枠からは外れていますから……」
「残念そうな視線を向けるな……」
小泉も白石も、方向性の違いはあったが協調を基礎として考えていた。
それだけに、協調とはかけ離れているであろう俺は理想とは異なる人種だ。
綺羅坂も同様に残念そうな視線を向けてくる。
やめて!……そんな目で私を見ないで!
左右のどちらを向いても結局は視線がどちらかと交わってしまうので進行方向とは反対の後ろに体を反転させる。
数歩先まで歩いた二人が、クスクスと笑いを零していたのが耳に届いてから溜息を零して振り返る。
「生徒達も当然そう思うだろうけど、そもそも生徒会長よりも影響力ある生徒を組織に入れるのはリスクが大きすぎる……」
だって、あのお人好しでニッコリのスマイル製造機くんだぞ。
みんなのために、学園をよりよく!……なんて絶対に言ってのける奴だ。
会長や組織の方向性と彼自身の考えが真っ向から衝突した時に、あれを止められる人間が生徒会にいるのだろうか……
柊茜のいない次期生徒会では難しいのが本音だ。
小泉も白石も三浦だって優秀だ。
火野君も……火野君は……。
ともかく、抑止力となれる人物がいて初めて完成された指揮系統のなる荻原優斗は博打に近い。
そのリスクに勝利の可能性があるのだから、俺が否定できたことではないのだろう。
しかし、教員票をいかに多く手に入れられるか考えたら、そこを指摘するのが一番効果的なのも確かだ。
それに、明日からが本番であって今日はまだ作戦会議程度のつもりだ。
今からお先真っ暗な考えでは、この後の戦いを上手く運ぶことなんてできやしない。
「さてさて……どうしたものかね」
「あら?真良君には既に勝率の高い戦法があるのだと私は思っていたのだけれど」
「勝率の高いじゃなくて、勝率が残された方法だ……成功する可能性が限りなく低いのを戦法とは呼べないから二人に協力してもらうんだ」
生徒会室ではちゃんと説明が出来ていなかった今後の方針について、二人へ語るためにしばし思案顔で歩く。
二人はその間、何か言葉を交わすことは無く視線を合わせることなく前だけ向いていた。
「……優斗は間違いなく王道の選挙活動をするはずだ、幅広い場所から情報を集めて考えられる作戦を練ったとしても結局行き着くのは正攻法が一番勝率が高いってことのはずだからな」
下手に情報収集の能力や人脈、容量の良さがあるから広い学生同士のネットワークを介して勝負に出る。
対抗するように同様の活動に出れば勝敗は明白。
それに、俺にはそんな人脈や認知されていないから、前提として勝負にすらならない。
「私達を前面に出したくないと言っていましたが、それはやっぱり白石さんの考えを否定したからですか?」
「……」
雫がそう問いかけてきた。
彼女からすれば、白石に言った発言を気にすることなく自分達に頼ってもらいたいのかもしれない。
綺羅坂も同様で疑問に感じていたのだろう、言葉を挟むことなく静観を貫く。
「それもある……でも、二人を全面的に頼ることは、同時に俺が教員票を得るにあたって同様の疑問を持たれてしまうからだ」
「同様……つまり、私達二人が後ろに控えている真良君も組織内で強い影響力を持ってしまうかもしれないということ?」
「まあ、そんな感じだ」
会長が言っていた。
俺を生徒会に加入させた理由は、生徒側の意見にも生徒会側の意見にも左右されない人物だからだと。
第三者の視点から物事を判断する数少ない生徒だからこそ、会長の条件を満たしていた。
その指摘が正しいのか、間違っているのか俺には分からない。
だが、結局俺が次期生徒会に加入したと想定しても、出来ることは似たようなものだ。
学園側と学生側の中間にいるはずである生徒会が、どちらかに傾かないように常に第三者であること。
学生に慕われる小泉、そんな小泉を支える三浦。
学生も教員もどちらからも好かれるような計算高い白石、現状はギリギリで学生側の組織になる。
優斗が加入すれば間違いなく学生のための組織に生まれ変わるはずだ。
それを間違いだとは言わない。
ただ、公平であるべきなのではないだろうかと、疑問には思っていた。
「俺は、別に確固たる公約も信念もない……ただ、組織内で中立でいることで偏った意見にならないストッパーになれればいいんだ」
だから、そう続けて俺は二人へ向けて告げた。
「だから……二人にはサポートしてもらいたいんだ、彼女達も真良湊を推薦していると教員に少しでも思ってもらえれば俺の言葉も教員達に届くはずだ」
会長も同様だ。
俺の言葉が、生徒達に鼻で笑って終わらせないために、会長とのコネクションを持っていることを生徒にも教員にもチラつかせることで、俺の言葉を聞いてもらう。
そこからが、本当の意味での俺の生徒会役員選が成り立つ。
「てことで、俺から二人に頼みたいことを発表いたします」
改まって、二人より数歩先に出て振り返ると告げた。
雫は体の後ろで手を合わせるようにして、綺羅坂はかかってこいと腕を組む。
……どうしよう、言いたいことは決まっているのに言葉がどうしても相手に変に聞こえてしまう。
だが、言わない訳にはいかない。
「あれだ、今後は優斗ではなく俺のそばにいてもらいたいんだが……」
「プロポーズですか?」
「プロポーズかしら?」
「違うわ」
なんでこんな時は息がぴったりなんでしょうね。
しかし、俺の言葉足らずだ。
補足するようにして意図をしっかりと説明する。
「選挙の間、演説者の後ろには机を並べた簡易拠点を構えるだろ?……そこに座っていてもらいたいんだ」
その机で行っているのは、公約や立候補への動機が書かれた用紙が置かれている。
支援者が欲しいと言った生徒に配布する係を小泉、白石の陣営は置いていた。
そこに二人には鎮座していてもらいたいのだ。
少し離れた場所になるのだが、二人が俺の手伝いをしてくれている=支持者という無言の認識を生徒の中に生み出したい。
だが、あくまで二人には生徒からの質問にはお手伝いをしていると答えてもらう。
完全に支持していると明言すると、彼女達の人気票が入って来るだけで意味がない。
優斗に勝利したと胸を張って言えなくなってしまう。
あくまで、俺の言葉を生徒が無視できないようにするためだ。
そのあと、二手目、三手目と手を打って少しづつハンデを埋めていくのが俺の勝率に繋がる。
俺がそんな意図で彼女達にそばにいてもらいたいと告げると、二人は納得したように頷いた。
「分かりました……湊君のそばで一緒にお手伝いが出来るのであればなんでもします!」
「ありがとう……助かる」
「私も構わないわ、それに腕を組んで四六時中そばに立っていてあげましょうか?」
「あ、それは大丈夫です」
綺羅坂が悪い笑みを浮かべて言ってきたので、即断即決で断った。
しかし、そこまでが彼女の楽しいからかいであるので、クスクスと微笑を浮かべていた。
二人にこうして正式に手伝いを任せられるのは非常に大きい。
これで、俺が第二の矢として会長を、そして第三の矢として白石を効果的に演出が出来る。
「んじゃ……商店街で何か奢るよ」
「本当ですか!?」
「私、串焼きというの食べたことがないのよ……おやっさんという人のところで買っていきましょう」
奢る発言で一瞬で二人の瞳が輝く。
……現金な子だ。
呆れを含んだ苦笑をしてから、意気揚々と歩く二人の背を追いかけて商店街へと向かい、一日の終わりを迎えたのだった。
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