第十九話 夏休みと懸念7
生徒会を一新するとは、大胆な発言が出たものだ。
生徒会選挙に立候補するくらいだ、何らかの思惑や現生徒会に不満があるか……
それに似た感情があることくらいは想像していた。
けれど、生徒会の一新とまで大きくなるとは、俺だけでなく皆が想像していない発言だったらしい。
小泉や三浦、火野君だけでなく生徒会役員ではない雫達も意外そうにしていた。
「理由を聞かせてもらえるかね?」
「はい」
会長の問いかけに、白石は頷くと理由を語り始めた。
「生徒会とは学園を代表する学生だけの組織です。そして今は柊先輩が率いることで学園を良い方向へ導いていると私も思っています」
確かに、ここまでの段階では俺も同意する。
問題はこの後に何を語るのか。
白石は視線を会長から他の生徒……主に生徒会役員へ向けると、瞳を冷めたものに変える。
ある意味、自分以下の人間を見ているかのようにすら感じてしまう。
「ですが、会長が卒業するとなると、今の生徒会では正直なところ能力が足りているとは言い難いのも事実です」
「……自分にならそれが出来ると?」
「そうではありません、私一人で会長の代役をできると思うほど私は自信過剰ではありません」
会長は珍しく強い瞳を白石に向けた。
あくまで個人的な意見だが、自分が信頼する後輩を軽んじるような発言を見逃すほど、会長は情が浅いわけではない。
むしろ、小泉達を家族のように慕っていると、初めて話をした際に言っていたことを覚えている。
だが、白石は平然と会長の問いを否定する。
あらかじめ回答を用意していたかのように、返答の言葉はすんなりと出てきた。
柊茜という生徒の代役など、この先何年と見つかるはずがない。
入学当初から全テストで学年トップを維持して、成績も最高評価意外を付けられたことはない。
学外活動でも、趣味でたしなんでいたというピアノや書道などでも頻繁に賞を受け取っていた。
常に生徒の模範であり続けるその姿は、理想の生徒と教員から支持されることも納得の一言だ。
それほどに柊茜は優れている。
言ってしまえば、俺達の仕事を一人でもこなしてしまう可能性すらあるほどに。
けれど、生徒会という組織を運営するにあたって、個人だけではいかないのも事実だ。
だからこそ、小泉達生徒会役員がこうして会長の補助をしている。
学園の生徒から認められて、残りの席に名を連ねているのだ。
故に一つの事実がある。
彼らは一生徒としては優秀であると。
柊茜には並ばないとしても、この学園を代表する生徒としては申し分ない能力を彼らはすでに持っている。
小泉の周りに好かれる性格や人柄、三浦の会計としての能力。
地味ではあるが、決しての能力不足であるはずがないのだ。
だからこそ、白石の言葉には賛同しかねる。
納得のできる説明がないかぎり、それは学園の全生徒も同様であろう。
「ですが一つだけ、柊先輩の抜けた生徒会をこれまで同様……いえ、それ以上の功績を残す方法があります」
そういうと白石は視線を会長からこちらに向ける。
正確には俺を挟む両隣の生徒に。
「神崎先輩と綺羅坂先輩、そして荻原先輩を生徒会に加入させるという方法です」
「却下だわ」
あまりにも即答で、隣から声がした。
綺羅坂は白石の意外な言葉に動揺など一切見せずに、即答でその提案を断った。
綺羅坂らしくもあり、つい口元が歪んでしまいそうなのを必死に堪えていると反対からも似たような言葉が投げかけられた。
「私もその提案はお断りします。別に私や綺羅坂さんが加入しなくとも生徒会の方々はしっかりとしてるように思います」
……うん。
優斗も一応入れてあげてくださいね。
候補の中に思いっきり入っていたからね。
この子たちは意外と人が少し傷つくレベルのことを言う傾向があるから要注意だ。
だが、どちらの意見にも正しいと感じる点があるのも否定できない。
白石の言う雫達三人を生徒会に加入させることで、より良い生徒会運営ができると言う意見も、現状の生徒会で十分にその能力があり、自分が入る必要性がないという雫の意見も客観的に聞いていて正しい気がする。
ただ、気がかりなのは白石が会長に立候補する必要性だ。
今の彼女の意見を前提に考えるとすれば、白石が生徒会長になる必要性もなくなるわけだ。
いや、むしろ彼女ではなく雫や優斗が会長に就くことのほうが自然だ。
けれど、白石は会長に立候補した。
いまいち彼女の真意が分からない状況に眉をひそめていると、会長が今度はこちらに問いかける。
「真良、今の話を聞いて君はどう思う?」
「……正直、微妙ですね。どっちも正しくてどっちも間違っているっていうのが俺としての意見ですかね」
「ふむ……」
なんで俺にだけ訪ねたのかは分からないが、正直な感想を述べる。
会長も少し悩むように表情を沈ませるが、気になる点でも思い浮かんだのか顔を上げる。
「だが、今まさに君は誘いを二人に断られているのにどう勧誘するのだ?」
「会長ならおおよその検討はついているのではありませんか?……それは、真良先輩に手伝ってもらいます」
「え、俺?嫌だよ」
……しまった。
つい、無意識に否定の言葉を口にしてしまった。
すでに、脊髄反射のように労働を拒否することが染みついてしまっているようだ。
そもそも、初対面の人からの願いを親切に聞いてあげるほど俺はお優しい人間ではない。
しかし、俺の発言など気にも留めていないのか、白石は不敵な笑みを浮かべて告げた。
「私が会長になったとしても、真良先輩には生徒会に残っていただきます」
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