第十七章 兄と妹5
会長が身に着けていた水着は、白色の競泳水着だった。
体のラインがハッキリと分かり、会長のスタイルが惜しみなく表現されていた。
だからこそ、直視することを躊躇った。
そして俺の問いに、会長は愉快気な笑い声で答えた。
「いやな、こうも美人が集まるのだから何かしらの個性を出していかないと埋もれてしまうと思ってな」
「埋もれませんよ……逆に浮かんでますよ」
それはもう、浮き輪並みに浮いている。
目立ちすぎて小泉は顔を真っ赤に染め、優斗も同じくどこに目を向けていいのか悩んでいるようなそぶりを見せていた。
そして、火野君に関しては会長ではなく、その後ろに立っている楓を凝視して歓喜の涙を流していた。
火野君はとりあえず放っておくとして、会長は何も気にしていないとばかりにムンっと胸を張る。
そして、逆に勇ましくも思えるほど堂々と言った。
「最初に思いついたのが競泳水着だ!まあ、普通に学校指定の水着とかでも良かったのだがな」
なぜそこで前者を選択してしまったのだ。
会長は基本的に何事も正しく正解を導き出すが、たまにおかしな行動をする傾向にあるのかもしれない。
その例として、俺や火野君のような人物を生徒会に加入させている。
けれど、会長も目立つというのは自覚していたのか同じく白色のパーカーを羽織ると、後ろに振り返る。
そこには、まだ四人の女性が佇んでいた。
三浦は学校指定の水着、楓はワンピース型の水着、そして雫と綺羅坂はビキニの水着を選んでいた。
四人それぞれ色合いが違い、楓は橙色(だいだいいろ)、雫は水色、綺羅坂は黒色と違っていた。
三浦は……学校指定だから紺色だ。
もう少し分かりやすい表現があるのだろうが、如何せんこの手のイベントに参加などしたことがない。
生まれてこの方、女子と海なんて行ったことも当然ながら無い。
小学生の頃に市民プールに両親と楓の四人で行ったくらいだ。
知識も経験則も通用しない場面では、実に自分の能力が低いことが露呈してしまう。
最近の水着は様々な種類があるのだな……なんて感想しか浮かんでこない。
四人の水着を見比べてから会長に視線を戻した。
一通りのお披露目を終了したのを確認すると、会長は指示を出す。
男子が先に進めていた清掃を、女子も加えて九人で開始した。
まずは吹きかけていた洗剤を三浦がホースで洗い流す。
それと同時に俺達はブラシで汚れをこすり落とす作業に入る。
「どうかしら真良君」
ただ無心で目の前の汚れを落としていると、隣から綺羅坂が話しかけてきた。
綺羅坂は短い黒髪を払う仕草をして、モデルのように自分の水着姿を見せてくる。
「……なんか派手だな」
色ではなく布の面積がね!
黒は別に派手な色でないのに、彼女の真っ白な素肌が全体的に目に悪い。
いつも以上に彼女と視線を合わせていると、ニヤリと綺羅坂は口角を上げる。
楽しそうですね……それはなにより。
彼女の悪戯スイッチでも押してしまったのか、少しずつ近づいてくる綺羅坂から離れるように掃除場所を変える。
だが、四方を囲まれているこの場所では逃げる場所は無い。
端までズルズルと追い込まれてしまった時、もう一人の女子生徒が救いの手を差し伸べた。
「綺羅坂さん!湊君に近づき過ぎです!それに掃除をサボらないでください」
「あら、私は真良君に感想を求めているだけでサボっている訳ではないのだけれど?」
俺と綺羅坂の間に割り込んだのは雫だった。
雫は俺に背を向けて、まるで何か悪い者から守るように両手を広げた。
「感想を貰うのは私が最初です、あなたは待っていてください」
「そこでも負けず嫌いを発動するのか」
別に似合っているかそうでないか、ただ個人的主観で答えることに順番は必要ない気がするのだが。
だが、雫には譲れないものがあるのか綺羅坂の前から動こうとしない。
綺羅坂も彼女で雫を敵にしたら、何が何でも譲ることをしないので自然とにらみ合いに発展していた。
そんな二人の後ろを忍び足で離れると、元居た場所に戻り掃除を再開した。
小泉も優斗も近くで掃除に勤しんでいる。
三浦は……水を撒いているだけか。
会長は監視員台の上で指示を出している。
そして我が妹である楓は忙しなく動き回り皆のサポートをしていた。
うん、そういう真面目な姿勢はお兄ちゃんは嫌いではない。
しかし、その後ろで涙を依然流している男には一言申したい。
……仕事しろ。
火野君が生徒会に加入したのも力仕事が多い割に、男子生徒の数が少ないのが理由にも入っている。
それが現状ではこの有様。
戦力にもなっていない状況に会長も流石に声を掛けることにしたのか、台座から降りてくると火野君、そして楓を呼び寄せた。
「火野、それと楓ちゃんも来てもらえるか?」
「あ、はい何でしょうか?」
「す、すいませんっす!俺も手伝わないといけないのに」
気にするなと一言フォローの言葉を添えてから、会長は二人に話を始めた。
俺は手を動かすことは止めずに、耳だけを傾けた。
「私の方が似合っていると思うのだけれど」
「湊君の好みは私の水着の方です!」
「……」
どこぞの二人が騒々しくて余計な情報が入って来るが気にしないでおこう。
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